筆とまなざし#248「やきものの歴史息づく岐阜県。転換期を迎える美濃焼の文化」
成瀬洋平
- 2021年10月20日
新しい視点を取り入れながら文化として“やきもの”を発信する拠点へ。
岐阜県には自然の素材を活かしたものづくりの歴史が息づいています。なかでも木工とやきものがよく知られ、木工は飛騨の家具に代表されるように高山周辺、やきものは多治見や土岐市などが有名です。この地方で作られる陶磁器は総称して美濃焼と呼ばれ、志野焼や織部焼などのほか、近代に入ってからは多くの日用食器が量産されるようになりました。
友人から「多治見に新町ビルっていうおもしろいお店があるよ」と教えてもらったのは数ヶ月前のことでした。古いビルをリノベーションして陶磁器を展示販売しているのだといいます。置かれているのは多治見周辺の作家作品や地元メーカーの製品で、興味深いのはただ販売するだけでなく、新しい視点を取り入れながら文化として「やきもの」を発信していく拠点となっていること。晴れた土曜日、久しぶりに街に出かけることにしました。
新町ビルは、シャッターの下りた古いアーケード街に程近い場所にありました。ちょうどその日は新しい企画が始まったそうで、1階には昨年誕生した地元クラフトビールメーカーのサーバーが並び、隣では福井県の木地師が車の中に設置されたロクロでお椀を削り出す実演を行なっていました。
店舗は4階まであり、2階は地元作家さんの陶磁器作品が、3階は陶磁器メーカーの製品が、4階には陶磁器だけでなく衣類や金属、木工作品などが、ギャラリーのように素敵なレイアウトで展示販売置されていました。作り手の息づかいを感じる作品たち。手に取ったときに感じる柔らかな丸みとしっとりとした感触。それらはひさしぶりに感じる文化的な香りとして、身体のなかに静かに染み込んでくるようでした。
いっしょに行った妻はお気に入りの茶碗を見つけたらしく、黄土色にこげ茶色の斑模様が入った茶碗を買っていました。ぼくには黄土色に見えたのですが、本人曰く苔のような緑色が気に入ったとのこと。なるほど、たしかに緑色っぽいといわれるとそう見えます。
この土地では昔から良質の土がたくさん採れたました。けれども、皮肉なことにそれゆえ陶磁器が大量生産され、安価に販売され、美濃焼=安物というイメージができてしまったのだといいます。もう一度本来のものの価値に光を当て、価値観を再構築していく。この土地に根ざした文化は転換点を迎え、いま、新しい文化が形成されつつある。新町ビルをあとにして、この町の文化がそんな過渡期にあることを知ったのでした。
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