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ワカン、そしてスノーシュー 次の雪山登山は、どちらの出番?

文・写真◉高橋庄太郎 Text&Photo by Shotaro Takahashi
出典◉PEAKS 2018年12月号 No.109

同じ山でも、平日ならスノーシュー、日曜日ならワカンということも……。

狭い国土に多くの山が林立する山岳国の日本には、わが国独特の「山岳装備」がいくつか存在する。

宿泊用にも使える「ツエルト」は、いかにも海外由来っぽいカタカナだが、実際には日本で独自に進化した簡易シェルターの一種だ。水抜けがいい「沢靴」は、海外にも似た発想のウォーターシューズがあるとはいえ、最大の特徴ともいえるフェルトの繊維製ソールのものは、ほとんど見られない。

そして、もうひとつが「ワカン」だ。正確には「ワカンジキ」で、漢字ならば「輪樏」。楕円形のフレームの中心に足を固定するという形状や、体(足)を雪中に沈み込ませないという用途を考えれば西洋発祥のスノーシューの一種だ。とはいえ、同種とはいえず、せいぜい亜種といったところである。

だから使い勝手は大きく異なる。

ワカンは一般的なスノーシューよりも小型で、全長や面積、重量は半分以下。その分だけ小回りが利き、急峻な場所や岩などでルートが狭まった区間でも活躍する。

また、スノーシューはフレームの内側にデッキと呼ばれる板状のパーツが張ってあるが、ワカンはフレームのみ。そのために雪上での“浮力”はそれほど高くない。だがデッキがないからこそ、鋭い爪のクランポンをブーツに取り付けたうえで、さらにワカンを組み合わせる、という使い方も可能だ。

浮力ならばスノーシュー、山中での応用力ならばワカン。性能が大きく違うから、雪山にどちらを持っていくのかは非常に難しい。

胸元以上に積もった深雪ではワカンの浮力が足りず、悪戦苦闘している脇をスノーシューの人がすみやかに通過していき……。それなのにスノーシューをはいたときは、雪上に露出した岩に足がひっかかったり、アイスバーンに爪が刺さらず滑ってしまったり……。

僕もスノーシューならば苦労しなかったとか、ワカンならば途中撤退しないで済んだとか、あれこれ後悔することは多い。だがそれでも次は失敗がないようにと、ワカンとスノーシューのセレクトは毎回念入りに考えている。

ここで、僕が両者を使い分けるざっくりとした基準をいおう。それは「主要ルートが樹林帯の外なのか、内なのか」ということだ。

北アルプスの稜線のような森林限界以上の場所では、深い雪が柔らかいまま積もっている可能性は少なく、風下で雪庇になっているか、吹き飛ばされてアイスバーンのようになっている。そんな場所では強い浮力は必要なく、スノーシューは重いだけだ。登攀向けの鋭い爪を持つスノーシューもあるが、こういう場所ではワカンとクランポンのほうが安心である。

しかし、低山の森には樹上から降り落ちてきた雪がふんわりと積もり、先行者がしっかりとラッセルしてルートの雪を踏み固めてくれていない限り、ワカンでは足を取られることも多い。僕は雪山テント泊が好きで、日帰り登山の人に比べると荷物が重い。その状態で柔らかな新雪の上を歩くのはかなり大変なので、ほかの登山者よりもスノーシューの出番は増える。

雪山ではワカンとスノーシューという「足元」の選択肢だけではなく、実際には「手元」も重要だ。スノーシューならばトレッキングポールとの組み合わせが当たり前だが、ワカンの場合はトレッキングポールよりもアイスアックスが適している場合が多く、足元の道具を決めたうえで手元の道具も考え、それらをどのように組み合わせるかが難しい。足元の道具だけで考えるのは単純すぎるだろう。

無雪期よりも段違いでハードな環境の雪山では、金属製のギアが多くなる。それらの重さも山中行動に大きく関係する。

……と、僕はここまでわりと一般的というか、当たり前ともいえるワカンとスノーシューの使い分けを書いてきた。だが、ここからは少々微妙な点もある応用編だ。

じつは僕、本来はスノーシュー向きの山でも、タイミングによってはワカンを選ぶことがある。それどころかワカンすら省くことも。

そのタイミングとは、ズバリ、入山する「曜日」である。

登山者が雪山に入るのは、土日を含めた休日が圧倒的だ。休日前に積もった雪は土曜の朝から入山した人が苦労して踏み固めてくれ、日曜の午後には充分に締まったルートができている。こうなると、日中の気温で多少雪が緩んでも、その後に降雪がなければ月〜火曜くらいはスノーシューなしで充分。とくに人気山域はその傾向が強い。

僕は取材でも山に行くという仕事柄、平日の入山が多い。休日に踏み絞められたトレースを歩くのはとてもラクで、人影少ない月曜日や火曜日に山中をスイスイ歩いていると申し訳ないほど。「ラッセル泥棒」という言葉も思い出す。

だが、平日の入山が多いということは、積もったばかりの新雪を歩く機会も多いということ。とくに金曜日あたりに新雪上になんとかトレースをつけていると、「明日土曜日にここを歩く人は、体力的にはかなりにラクだろうな。新雪の上に自分の足跡をつける楽しみは少ないけれど」などと思う。

雪山は降雪や休日などのタイミングによって、ラクをしたり、苦労したり。だが、シーズンごとの雪山山行をトータルで考えると、平日入山の機会が多い僕はどうも苦労のほうが多い気がする。そんなときでも状況に合わせてワカンかスノーシューを適切に選び、できるだけラクをしたいものだ。

山岳/アウトドアライター・高橋庄太郎

東北の仙台出身で、子どものころからスキーに親しんでいたが、いまは雪山で滑ることはなく、もっぱら歩くのみ。著書に『山道具 選び方、使い方』(エイ出版社刊)など。最近はテレビやイベントの出演も多い。

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PEAKS 編集部

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装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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