筆とまなざし#254「ロック・クライミングの聖地、六甲山でワーク・イン・レジデンス」
成瀬洋平
- 2021年12月01日
この地にゆかりのある本とともに。2週間の滞在スタート。
縁あって、12月1日から2週間ほど六甲山にあるROKKONOMADというシェアオフィスに滞在することになりました。今年3月にスタートした標高800m近い山上にある施設で、ワーク・イン・レジデンスとして滞在しながら仕事をしてみませんか? とお声がけいただいたのです。
六甲といえば、日本で最初に「ロック・クライミング」が行なわれた場所。日本のアルピニズム発祥の地といわれる由緒正しい山域です。堡塁岩、烏帽子岩、北山公園など古くからクライマーに親しまれてきた岩場はいまでも賑わう関西を代表するクライミングエリアです。
明治時代後期、この地で岩登りに興じる英国人にならって、日本人のなかにもロック・クライミングを始める人々が出てきました。なかでも、朝日新聞神戸支局長を務めていた登山家・藤木九三は大正13年に日本で初めて岩登りを主目的とした山岳会「ロック・クライミング・クラブ(RCC)」をこの地に創設。点在する岩場をクライミングのトレーニング場とし、一帯を「ロック・ガーデン」と命名しました。藤木は日本初のクライミング技術書『岩登り術』の著者としても知られています。この場所でクライミングを練習し、日本アルプスの岩壁はもとよりヨーロッパアルプスなど海外の山にも出かけました。六甲の岩場は、いまでいえばクライミングジムのような存在だったのかもしれません。
旅に出るときはいつも、その場所にゆかりのある本を持っていきます。今回選んだのは藤木九三のエッセイ集『屋上登攀者』。六甲が当時のクライマーにとってどんな場所だったのか、そのことを知るための道標となってくれそうです。
六甲には六甲山をはじめさまざまな山がありハイキングも盛んです。地図を見ると縦横無尽に登山道が張りめぐらされています。岩に登り、山を歩き、絵を描き、そしてクライミング講習会も行なう予定。なんだか2週間はあっという間にすぎてしまいそうな予感がします。どんな風景に出会い、どんな人々に出会えるのか。いまからとても楽しみです。そして、この場所の登山文化を自分なりに紐解いてみたいと思います。
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