避難小屋ステイで秋田駒ケ岳春合宿・前編
PEAKS 編集部
- 2021年12月07日
恒例となったチームパタゴニアとのBCツアーは、東北の雪山に足を伸ばした。標高1637mの秋田駒ヶ岳は、秋田県の最高峰。足元に田沢湖を従え、夏は花の名山として知られるこの山はバックカントリースキー・スノーボードの名山でもある。
伊藤俊明=文 Text by T.Ito
杉村 航=写真 Photo by W.Sugimura
取材期間:2020年3月24日~25日
出典:WHITE MOUNTAIN 2021
東北バックカントリーの名山を冬季避難小屋を使って遊ぶ
ガタガタと窓を揺らす風に起こされた。まだ真夜中だ。暗闇のなか、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなり、寝袋の感触で思い出す。そうだ、秋田駒ヶ岳の八合目小屋だ。
風はずっと強く、今日の午後は視界も悪かった。明日は大丈夫だろうかなどと考えているうちに、いつのまにかまた眠っていた。
パタゴニアチームとのBCツアーは、気がつけば小誌の恒例企画になっている。今年はパタゴニアから5名。神田店の押尾崇弘、仙台店の竹内一郎、IT部門を担当する上うえ悠太、遅れて白馬店から林誠が駆けつけた。リーダーは、同社で広告をはじめとしたビジュアル部門を統括する島田和彦。島田は、人知れず存在する斜面を探しては、その初滑降を狙うハードコアなクライム&ライドの実践者だ。板を担いでアックスとクランポンで20時間かけて登り、滑るというようなことをしている。ひとことでいうなら変態ですね。
水先案内人は、岩手を拠点に活動する「岩手バックカントリーガイズ」の高橋孝精。島田らが2年前から取り組んでいた朝日連峰・障子ヶ岳の遠征に参加した縁があり、ご近所ということもあって来てくれた。ここにカメラマンの杉村航と編集部ミヤガミ、そして伊藤が合流した。
みんなが動く気配で目が覚めた。ドアを開ける音と「あぁ、真っ白」という声が聞こえて気が緩む。慌てて準備する必要はなさそうだ。
カップラーメンと餅の朝食を済ませ、さあ、このあとどうしようという空気になりかけたところに「暇そうだからね」と、押尾がコーヒー豆とミルを取り出した。絶妙のタイミング。きれいな小屋にコーヒーのいい香りが漂う。
コーヒーを片手に、昨日の写真や動画を見ながらとりとめのない作戦会議がはじまった。
昨日はアルパこまくさの駐車場に集合し、旧スキー場を登る定番のルートで八合目小屋まできた。不要な荷物をデポして島田、押尾、竹内、上とガイドの高橋は山頂へ。カメラマン杉村、ミヤガミ、伊藤は男女岳(おなめだけ)東側のボウル地形を挟んだ反対側、山頂を望む撮影ポイントで待機した。
午前中は晴れていたのに小屋に着くころから雲がかかりはじめた。みんなが着くころには山頂も雲のなかで、撮影はおろか滑るのさえ危うい状況になってしまった。晴れ間を待つも回復せず、残念ながらタイムリミット。思うように滑れなかったみんなもそうだが、強風のなかじっと待機する杉村も悔しそうだった。
山の撮影では、カメラマンは被写体と離れてひとり待機することが多い。いまかいまかと光を待ちわびるヒリヒリするような緊張感を、思いがけずに近くで味わうこととなった。
パタゴニアチームは、山頂で待機をしている間にドローンを飛ばしていた。動画を見ると視界が開けている時間もあった。「ここで行っとけばよかったね」とだれかが言った。振り返ってみればそうかもしれない。でも、待てば晴れそうな気配だったし、みんなもそう思っていた。自然のなかの撮影はかくも難しい。
会話のネタも尽きるころ、タイミングよく白馬店の林が現れた。強風をついてひとり上がってきたのだ。「呼んでないよ」とニヤニヤしながら言う島田に対して、ウワサを聞きつけましてね、と笑顔で返した。
「それより、晴れてきましたよ」
よし、行こう。
>>>山頂へ辿り着けるのか 後編につづく
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伊藤俊明=文 Text by T.Ito
杉村 航=写真 Photo by W.Sugimura
取材期間:2020年3月24日~25日
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PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。