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筆とまなざし#256「日本でもっとも古い岩場、堡塁岩へ。」

大正時代と変わらないであろう、この瀬戸内の海の青さと空の青さを堡塁岩から眺める。

堡塁岩は『ROKKONOMAD』から歩いて20分ほどのところにありました。芦屋ロックガーデンと並び、藤木九三らがトレーニングの場として使っていた日本でもっとも古い岩場です。藤木九三の『屋上登攀者』には、六甲の岩場でのトレーニングが、ヨーロッパアルプスの岩壁登攀でいかに役立ったのかが書き記されています。

幸運にも、神戸市出身・在住で『大人の山岳部』などの技術書でも知られる山岳ガイドの笹倉孝昭さんに堡塁岩をご案内いただくことができました。昨年出版された『アルパインクライミング教本』は、いま出回っている技術書のなかで最新かつもっともわかりやすい技術書でしょう。笹倉さんご自身もここでクライミングを始めたと言います。

「意外なことに、当時のクライマーは『フリークライミング』で登ること、つまり手と足だけを使って登ることに拘っていました。それは、この場所のクライミングがイギリスから持ち込まれたことと関係しているのだと思います。その後、エイダーを使って登る人々が出てきたようですが、そういった安易なクライミングに対して憤りを感じていたようです。実際、剱岳チンネ左稜線上部はRCCのメンバーでもあった山埜三郎氏によって、ほぼフリーソロに近い形で達成されたのではないかと思います。高いクライミング技術をここで磨いて、国内外の山へ赴いたんです」

堡塁岩にあるクラシックルートは5.6から5.8くらいが中心(どの時代にどのルートが登られたのかはわからないけれど)。いまでこそ初心者レベルではあるものの、当時の装備と技術で高度なバランスを要するこの切り立った岩を手と足だけで登ることがどれだけ困難だったのかは容易に想像できます。最新のクライミングシューズとギアで登ってみても「おや?」と思う箇所があるのですから。当然、ピトン連打の人工登攀で登っていたのかと思っていましたが、ボルトレスの伝統を重んじるイギリスのクライミング思想が影響を与えていたとは思いもよりませんでした。

「かつてこの岩場を登った戸田直樹氏は、いい水があるところに良い酒ができるように、いい岩場があるところに良いクライマーが育つと言われました。やっぱり岩場が人を育ててくれるんです。だからこそ良い岩場として遺していきたいと思うのです」

やがて、1980年代になると堡塁岩にもヨセミテからやってきたフリークライミングの波が押し寄せ、それまでエイドで登られていたルートは次々とフリー化されていきました。イギリスから持ち込まれた伝統的なクライミング、エイダーやボルト連打の時代、そして身体ひとつで岩と対峙しようとするアメリカのフリークライミング。この岩場は、時代時代に押し寄せる異なったクライミングの波を受け続け、いまも多くのクライマーを迎え入れています。

岩のてっぺんに立つと、眼下には刻一刻と色彩を変える瀬戸内の海と、神戸から大阪に続く高層ビル群の街並みが広がっていました。大正時代にこの岩を登っていた人々も、この景色を眺めては未だ見ぬ山への憧れを膨らませていたのでしょう。街の景色は変わりました。けれども、この海の青さと空の青さはきっと変わっていないはずです。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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