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田部井淳子 【山岳スーパースター列伝】#04

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2015年5月号 No.66

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
日本人登山家最高のスーパースターといえば、この人になるのだろう。

 

エベレスト初登頂を果たしたのはエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイ。1953年のことだ。

以来、エベレストにはさまざまな記録が生まれている。チベット側初登頂、日本人初登頂、冬季初登頂、最年少登頂、最速登頂、障害者初登頂……世界初山頂衛生生中継なんてのもある。

試しにウィキペディアで数えてみたら、33もの記録があった。そのどれもが、詳しい内容を見てみると驚くようなものだ。世界記録とはいつも常人の想像を超えるものなのである。

とはいえ登山記録は進化が進めば進むほど枝葉になっていくもので、ひとつひとつのタイトルには当然重みに差がある。

ダントツで価値が高いのは、いうまでもなく1953年の初登頂。その次がチベット側初登頂か。1978年のラインホルト・メスナーとペーター・ハーベラ―による無酸素初登頂も上位に数えたい。それらに比べれば、日本人初登頂というのはわれわれ日本人としては意味はあるけれど、人類史的に価値をもつようなものではない。

しかし女性初登頂は? これは大記録トップ3に入る価値ある記録のはずである。

それを成し遂げたのはご存知、田部井淳子。登山に興味がある人であれば、だれもが聞いたことがある名前ではないだろうか。テレビや雑誌などに登場することも多く、登山をやらない人でも知っているかもしれない。

ところがこの人が世界的な大記録を打ち立てた人物であることは、日本ではいまひとつ認識されていないような気がする。それには本人のキャラクターも影響しているのだろう。テレビなどで見る田部井は、大記録保持者然としたところがまったくなく、やたら明るくよくしゃべる。

過去に偉業を成し遂げた人物はその金看板を掲げたまま生きていきがちだが、田部井の場合はいい意味でそうした重みが全然ない。ともすると、この人がエベレスト女性初登頂者であることも忘れてしまうほどだ。

だがしかしである。エベレスト女性初登頂というのは、陸上競技でたとえれば100m走の女性世界記録保持者のようなもの。日本記録でもなく、高校記録でもなく、ハードル走でもない。一番の花形競技の、条件が「女性」しかつかない世界記録なのだ。これに匹敵する実績を持っている日本人登山家がほかにいるだろうか。私には思いつかない。

田部井淳子は現在75歳。病気で中断したりしながらも、いまでも山に登り続けている。もちろん激しい登攀をするようなことはなくなったが、海外のハイキングから近郊の低山まで、ヒマラヤとまったく分け隔てなく情熱を注いでいるさまを見ると、この人は本当に山が好きなのだろうと感じる。

そうしたところが周囲にも感じられるのか、大記録を持っている人物だからではなく、その親しみやすい性格と圧倒的な行動力によって、女性中高年登山者の間ではカリスマ的な人気を誇っている。

私は田部井と面識はほとんどないが、その人気ぶりの一端を垣間見たことはある。

「ジュンコ・タベイ」というウエアのブランドがあることをご存知だろうか。その発表記者会見に出席したときのことだ。会場に着いてみると、どう見ても記者とは思えない年配の女性たちが前のほうの席を埋めている。そこで知ったのだが、記者だけでなく一般の参加も受け付けていた発表会だったのだ。

そして主役の田部井淳子が登場すると会場は騒然。まさに黄色い声援が飛ぶという状況になった。発表会が終わると、会場の出口に商品の即売所が設けられていた。そこに殺到する参加者たち。それは、アイドルのコンサートでグッズ売り場に並ぶファンの姿を思わせた。

もう15年ほど前のエピソードであるが、状況は基本的に変わっていない。これだけ熱狂的なファンを持つ登山家がほかにいるだろうか。しかもそのファンたちは、過去の実績に惹かれているのではない。いまの田部井淳子に惹かれているのだ。

世界の登山界でちやほやされて当然という実績を持ちながらも、そんなことはなかったかのように、現在とこれからしか見ていない田部井淳子。まったく、スーパースターらしからぬスーパースターなのである。

 

田部井淳子
Tabei Junko
1939年~2016年。福島県出身の登山家。1975年に、女性として世界で初めてエベレストに登頂。1991年には女性初の世界七大陸最高峰登頂者にもなっている。当記事初出の翌2016年にガンで逝去。

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

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