筆とまなざし#259「2022年の始まり。今年最初の一枚は故郷の村から眺める恵那山」
成瀬洋平
- 2022年01月05日
新年描き初め。御嶽山を描きに出かけたはずが、感興はすっかり恵那山へ。
2022年は澄みきった青空で始まりました。とても寒く、最高気温がかろうじて0℃を上回るような日が続いているけれど、晴れた空から降り注ぐ日差しには早春の華やかささえ感じられます。
年末に搗いた餅を入れた雑煮を食べ、集落の鎮守の神様にお参りしたあと、あまりにも気持ちの良い青空だったので御嶽山を描きに出かけました。先日見た、青空の下にくっきりと横たわる御嶽の姿が印象的で、その場所で絵を描こうと思ったのです。
年末に降った雪はまだ解けず、日陰の峠道はツルツルに凍っていました。緩やかな下り坂へ差し掛かると、眼前に雪化粧した山々が見渡せました。村の背後に屏風のように立ちはだかる山、そしてその山と山の間から頂上稜線に雲をたなびかせる純白の恵那山が見られました。一瞬迷ったけれど、細い道を左に折れ、同級生の家族が経営していた乗馬クラブの先の、山がよく見えるポイントに向かいました。感興はすっかり恵那山に向いていました。田んぼの脇に車を停め、折り畳み椅子を出してスケッチブックを広げました。新雪を纏った山は気高く、子どものころ、こうして雪化粧した山を眺めては、遠くの山を思い描いていたことを思い出しました。
寒風が強くなると日差しの暖かさは感じなくなり、ダウンジャケットのフードを深く被って凍える指先で鉛筆を走らせました。強い風に巻き上げられて刻一刻と変化する雲の形、その雲が雪面に落とす淡い青紫の影。描いている側から絵の具がみるみる凍っていきました。それがまたおもしろく、現場で描く喜びを感じるのでした。その喜びは、思いがけず今年最初の一枚に、子どものころから眺めている故郷の村からの恵那山を描くことからくるものでもありました。
風景と対峙し、その場に身を委ねること。描くことで、その場所を知っていくこと。自分が暮らすこの土地を知り、ときには遠くへ出かけてその場所を知る。まだまだ閉塞的ではあるけれど、今年はまたそんな旅に出かけたいと思います。
この青空のように清々しく、健やかな一年となりますように。
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