そっとのぞいて見てごらん…「cafe barbara」(長野・長野市)【グルメトラバース】#002
川名 匡
- 2022年02月10日
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山に登り、麓の食を堪能することをライフワークとする、とある山岳ガイドの彷徨旅=グルメトラバース。
2022年は二年参りからのランチビールで、上々の滑り出しに。
2021年の大晦日、悪天を逃れ戸隠奥社へ
2021年の年末年始は、寒波襲来で山はどこも悪天候となってしまった。正月難民と化した我らのあてはなく、それではと前からとても気になっていた、戸隠奥社の二年参りに行こうと大晦日に決心した。
近ごろ流行のパワースポットとして有名になった戸隠奥社。参道入口から随神門を経て奥社まで往復すると約4km。例年ならばトレースもついているのだが、今回は大晦日の悪天候もあり、行きは吹雪のなか、ノートレースで深い場所でヒザまでのラッセルに。やっと半分の随神門の辺りまで歩いたところで、防寒長靴&ツボ足の地元のおじさん2名にあっという間に追い越されてしまった。それでも私は三番手となり奥社に23時56分に到着。無事二年参りをすることができた。今年はなにかいいことがある、そんな気がする。
空き家? そっと覗いてみて見ると…
元旦の戸隠を後にして、長野市内へ下る。どの町でもそうだが正月は開いている店を探すのは大変だ。そこで昨年の元旦にも、善光寺の初詣の後に訪れた店へ行くことにした。
有名な旧北国街道である通称・善光寺通りはさすがに長野市内観光の目玉である善光寺から続く大通りだけあって、こぎれいなお店が軒を並べているが、初詣客の流れを避けて、一本東側を平行に通る旧問屋通りに入る。少し錆びた昔の商屋の屋号がそのまま書かれた珈琲屋があったり、かわいらしい雰囲気の小さなシフォンケーキの店があったり、いかにも下町の香りがする古民家の店がポツポツとある。旅先ではあるのに、まるで自分が住んでいる町のような親しみが湧く通りなのだ。
さて、そんな通りを歩くと、やがて看板もなにもない、下手をすると空き家かと思い通り過ぎてしまうような目的の店「cafe barbara」に着く。
最近流行の古民家カフェ。その最大の魅力は古い建物のそのままの雰囲気を生かし、改装やリニューアルを極力避けてお店を営業することにつきるだろう。たとえばその建物に刻まれた傷や汚れをその歴史とともにそのまま残し、建物そのものが、なにかしらの雰囲気を放ち、来店する人を引きつける魅力のひとつとなっている。建物は生きている――それを強く感じ取れるのは、そんな味わいのある建物の中に入るときだ。
下駄屋の建物をリノベーションしたそうだが、ほとんど手を加えてないと言っていいだろう。その証拠に、入口の引き戸が引っかかり、なかなか入れない。それを見ていたマスターが中から開けるのを手伝ってくれた。「ちょっとこつがいるんですよ」と一言。
店は3人ほど座れるカウンター席と、こぢんまりとしたテーブル席がふたつ。奥には少し大きめの6~7人でも囲めそうなテーブル席がひとつある。そのテーブルの上には、いかにもレトロで大きな照明がデンとぶら下がり、店全体の雰囲気を決定づけていた。壁には所々穴も開き、漆喰も剥がれている箇所がたくさん……。まず私が思い出したのは、何度か訪れたことがあるネパールやインドの裏通りにある食堂だ。ピンクに塗られた壁や、骨董屋にあるようなテーブルも、使い込んだ食器が並ぶ食器棚も、その雰囲気がムンムンしていて、とても私好みなのだ。この店で酒を飲むとき、この空間に包まれているということが、一番の酒のアテだろう。
数は少なくとも、繊細な味わいが魅力の料理
メニューの品数は少なく、今回はカレーライスと唐揚げ定食(味噌汁付)、そして正月らしいおしるこの三品のみ(時期により変わる)。料理は素朴な味だが繊細で旨い。マスターの人となりが料理からも感じ取れる。酒は何種類かあるが、その日によってないものもある。昨年の正月来訪時はワインをいただいたが、今回はバーバラ名物の“泡なし生ビール”を飲んだ。ビールを飲むとき、口をコップに運ぶことはあまりなく、これもまた一興。
店はかれこれ10年目だそうで、店主はこの建物に惚れ込んで、前からやりたかった自営業を始めたらしい。この店だけでなく、いろいろな経験を積んでいそうな雰囲気を醸し出している人物で、また通って根掘り葉掘り聞き出してみたい。一件寡黙なイメージだが、話し出せばおもしろい話が出てきそうだ。
今夜の酒とアテ
泡なし生ビールとカリカリ唐揚げ
バーバラ名物の泡なし生ビールとカリカリ唐揚げ。ついでにカレーもいただだいた。小鉢の盛り合わせも付いてきたので腹がいっぱいになってしまい、おしるこまで行き着けなかったのが残念だった。
cafe Barbara
長野県長野市長野142
営業時間:12:00~19:30
定休日:木曜日、金曜日
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