ガストン・レビュファ 【山岳スーパースター列伝】#07
森山憲一
- 2022年02月15日
文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2014年12月号 No.61
山登りの世界を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
登山家として、山岳ガイドとして、スタイリッシュに生涯を貫いた人物を紹介する。
ガストン・レビュファ
「スーパースター」というイメージにもっとも近い登山家のひとりではないだろうか。
人類初の8,000m峰登頂となった、1950年のフランス・アンナプルナ登山隊の主要メンバー。結果的に本人は山頂には立てなかったものの、登頂成功に大きな貢献をしたことは間違いない。
本業は山岳ガイド。モンブラン山群の難ルートを生涯に1,000回以上もガイドしたという。
「知らないなあ~」というそこのフリークライマーのあなた! あなただってガストンやるでしょ? 親指を下にして縦ホールドを持つホールディング。「そこはガストンして~」なんて、ジムで友達にえらそうに指示してんじゃないの!?
もうお察しかと思うが、ガストンは、ガストン・レビュファが多用したことで知られるようになったテクニックなのだ。だからガストン、ガストン言うときは、ちょっとはレビュファに思いを馳せてもらいたい。
そのほかにも、ヨーロッパアルプスの6大北壁を初めて全制覇したり、多くの有名なルートを初登したりなど、実績は豊富なのだが、ほぼ同時代に活躍したリオネル・テレイやヘルマン・ブールなどに比べると、登山家としてのパフォーマンスはやや地味でもあり見劣りするというのが正直なところ。
ではなぜレビュファがスーパースターだというのか。端的にいえば、彼はカッコよかったのだ。
まず、背が高い。そして手足が長い。いわゆるモデル体型である。それがひらりひらりと岩壁を舞う。
服装のセンスもよかった。ただでさえ洋服が映える長身痩躯。そこにトレードマークのセーターとニッカボッカがよく似合う。
映画の主役にもなっている。「星と嵐」とか「星にのばされたザイル」というタイトルを聞いたことはないだろうか。フィクション俳優としてではなく、あくまで山岳ドキュメンタリーだが、ヨーロッパアルプスの鮮烈な山岳風景とともに、スクリーン上のレビュファのカッコよさは、1960年代の極東日本の岳人をシビれさせた。
さらに彼は文章がうまい。有名な著書は、映画のタイトルにもなった『星と嵐』そして『星にのばされたザイル』。登山家らしからぬ上品で詩的な文章を書くことから、「山の詩人」とか「攀じる詩人」などと呼ばれた。
しかしだな。なんだ、星って。登山といえば泥とか汗だろ。スカしてんじゃねえよ。――と、当時の岳人(とくに男)は嫉妬した(にちがいない)。しかしレビュファほど登れるわけでもなければルックスでも負けている者どもは、レビュファの圧倒的な存在感とカッコよさの前には黙るしかなかった。
要するにレビュファは「スター」だったのだ。同じスーパースターと呼ばれる人のなかにも、とにかく能力に優れたアスリートタイプと、キャラクターを含めたスター性に秀でたタイプがいる。レビュファは後者の代表格だ。
日本でも非常に人気が高く、その人気はクライマーにとどまらず、一般登山者にまでおよんでいた。1970年代ごろの登山雑誌を見ると、まさにレビュファそのものという格好をしたモデルの広告が載っている。なんの広告かというと、その名もまさに「レビュファセーター」。
レビュファが着ていたものとそっくりの柄の国産セーターである。いまにして思えば、レビュファの許可をとっていたのかどうか定かではないけれど、そんな名前を付けたくなるほどレビュファの人気が高かったということだ。
セーターだけではない。レビュファに憧れてニッカボッカを履いていた人も少なくないはずだ。私も山を始めたころ一時履いていた。しかしすぐにやめた。山ですれちがったオジサンのニッカボッカが、ほとんど八分丈パンツになっていたからだ。そこで気づいて自分を見ると、八分まではいかないが六分か七分丈になっている。ニッカボッカは、ヒザ下がシュッと長い人でないと、ただただ鈍重になるだけでまったく格好がよくないウエアなのだということを知った。
久しぶりにレビュファの本を開いてみると、いま見てもスタイリッシュでカッコいい。「カッコいい」ばかりで小学生の文章みたいになってしまったけれど、レビュファはそういう人なんだ。
ガストン・レビュファ
Gaston Rébuffat
1921年~1985年。フランスの登山家・山岳ガイド。14歳のときに岩登りを始め、21歳で山岳ガイドとなる。1950年、人類初の8,000m峰登頂となったアンナプルナ1峰登山隊に参加したことで世界的な名声を得た。
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PROFILE
PEAKS / 山岳ライター
森山憲一
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com