山での『高山病、ハンガーノック』どうする?|医療の専門家に聞いた、山のフィジカルトラブル対処法
PEAKS 編集部
- 2022年03月20日
登山中、医療機関から遠く離れた場所で、専門知識も持たない私たちは、ケガなどに対してどのように向き合えばいいのか。救急医の伊藤 岳さんに、高山病やハンガーノック、雪目、お腹のトラブルへの対処法を教えてもらった。
INDEX
ハンガーノックへの対処法
エネルギー不足による極度の低血糖状態に陥ること。登山では「シャリバエ テ」と呼ばれることもある。休憩とエネルギー摂取、水分摂取、塩分摂取をセットに考えて、それぞれを適度に組み合わせながら行動すれば、滅多に陥ることはない。筆者が過去にハンガーノックのような症状に陥ったときは、登山を始めて間もないころで、食べものの量もわからず、歩くスピードもわからず、先を行く先輩の背中を必死に追いかけていたら、ガクッと足が動かなった。空腹前に行動食を食べることを学んだ、いまとなってはいい経験だ。
症状
体が思うように動かなくなる、手や足に力が入らなくなる、頭がぼーっとする、ひどいときは気を失うこともある。体をゆっくり休めて糖分を摂取すれば改善されることが多いので、焦らずに対処しよう。
対処法
休んでエネルギーを補給するしかない。そうならないために、空腹を感じる前に糖分を含むチョコレートなどを食べながら行動することが大切だ。摂取すべきエネルギーに関しては、体格などの個人差や運動量、環境因子などにも左右されるため、ここで具体的に示すことは難しい。
高山病への対処法
エベレストなど、国内では経験できないような高所登山で発症するイメーエ ジがあるが、じつは高度順応をしていない状況で、海抜1,000m以下の地点から2,500m以上の場所に、急に高度を上げたときに発症しやすいとされている。ここでの高度は、寝る場所の高度が問題で、その日の最高到達点ではない。睡眠導入剤を飲む、飲酒する、肥満気味で体重が重い、日常的な運動習慣がない、喫煙歴などが高山病のリスクを高める要因になるので、思い当たるフシがある人は、一日で登る高さを少なくするなど留意したほうがいい。
症状
頭痛、めまい、吐き気など、熱中症と似た症状が起きる。しかし、固有の症状があるわけではないので、上記のような標高差を登った、もしくは高所に滞在中にこれらの症状が現れた場合には、高山病を疑う。
対処法
高山病が疑われた地点に滞在して症状が改善すれば問題はないが、改善されない、もしくは悪化するようなら、計画を変更して高度を下げたほうがいい。その高度にとどまり体を慣らすときは、体に余分な負荷をかけず、水分を十分に摂り、座った状態で休んだほうがいいといわれている。
お腹のトラブルへの対処法
腹痛は突如としてやってくる。普段の生活でも原因不明の腹痛や下痢を経腹 験したことがあるはずだ。そのため、腹痛や下痢といったお腹のトラブルに対して、たとえば得体の知れないキノコを食べたとか、明らかに傷んだ食材を食べたとか、濁った水を飲んだとか、思い当たるフシがなければ原因を特定することは難しい。対処法は後述するが、吐いたものや汚れたものはビニール袋などにまとめて周囲を汚さないようにする。吐と瀉物を扱うときは水を通さない手袋を装着しよう。
症状
腹痛、下痢、嘔吐、それに伴う脱水症状などが挙げられる。自力下山できるなら早く下りたほうがいい。これはすべてのケガや体調不良にいえることだが、体に問題を抱えながら山奥に行かないほうが無難だ。
対処法
発症後の対処法としては、水分をしっかり摂って、体を休める。トラブルを回避する事前対策としては、水場として記載されていない場所では水を汲まない、それでも不安であれば携帯用の浄水器を使うか、煮沸してから飲用するようにする。携帯用浄水器は登山用品専門店でも購入できる。
高山病への対処法
目の中で光を受ける部分が炎症を起している状態。雪山でよく晴れた日に裸眼で長時間紫外線を浴びながら行動すると発症しやすい。筆者は一度、雪目のような状態になったことがあり、目を開けていても閉じていても痛みがとれず、それが1 〜2日続いた。曇りがちの天候で、裸眼でも眩しくなかったので、サングラスをしていなかったのが原因と思われる。あまりにつらかったので、それ以降、ちゃんとサングラスを着用するようになってからは、雪山での目の痛みとは無縁だ。事前に対策することが重要である。
症状
目がゴロゴロする、涙が出てくる、目が痛むなど。ひどい場合は目が見えなくなってしまうこともある。ただし、目を休ませると視力が回復したケースも。いずれも雪目にかからないことが大切。
対処法
痛みや炎症を和らげる目薬を持っていなければ、雪目になってしまってからは、冷やす以外にはほぼ現場でできる対処法はない。やはり予防が重要で、UVカット率が高いゴーグルやサングラスを装着しよう。サングラスは顔のラインに沿って、隙間ができない形状がいい。
教えてくれた人:救急医 伊藤 岳さん
兵庫県立加古川医療センター救急科長。公益社団法人日本山岳ガイド協会ファーストエイド委員長。2010年から北アルプス三俣山荘診療所で、夏山診療に従事する。
※この記事はPEAKS[2021年3月号 No.136]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
Info
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
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文◉吉澤英晃
写真◉増川浩一、樋口勇一郎、野口祐一、落合明人、宇佐美博之、武部努龍
イラスト◉藤田有紀、森 朗
監修◉伊藤 岳
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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