ジョニー・ドウズ 【山岳スーパースター列伝】#11
森山憲一
- 2022年03月15日
文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2014年8月号 No.57
山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
今回はまさにレジェンド(私にとっての)。クライマーかくあるべし(と私が思う)というこの人。
ジョニー・ドウズ
今回はとんでもなくマニアックな人物を紹介させていただきたい。イギリスのクライマーなのだが、この連載がクライミング雑誌だったとしても、読者の大半はその名を知らないであろうと思われる人物だ。彼の名はジョニー・ドウズ。
イメージはクライミング界のセックス・ピストルズ。パンクロックがイギリスで生まれたことと、ドウズがイギリス人であることは絶対に無関係ではない。世間に背を向け、常識などファックだという態度を貫くが、その本質をついたパフォーマンスはみなが注目せざるを得ない。セックス・ピストルズとの違いは、それが所詮クライミング界という小さな世界でのことなので、一般的にはメジャーにならなかったことだ。
ドウズの全盛期は1980年代。イギリスでは知られていたようだが、当時の日本のクライミング雑誌はこの異端をどう扱っていいのかわからなかったらしく、誌面にはほとんど登場していない。どういう顔をしているのかもよくわからず、やっと見つけた写真では、中指を突き立ててKISSのジーン・シモンズのように舌を出していた。
ドウズの実績を列挙しよう。
・ミスすれば死ぬような危ないルートを大量に初登した
・ドウズのルートを登れば、いまでも尊敬される
・ノーハンド(手を使わずに登るボルダリング)という、意味がよくわからないジャンルの第一人者
・スラブ(傾斜がゆるく、つるっとした壁)は時代遅れといわれていた時代に、世界最難のスラブルートを初登
・インドのシャークスフィンという激烈に難しい山に、1990年代初頭に早くもトライしている
・仕事はしない。失業保険で暮らす
・髪の毛は逆立っている。もしくはカート・コバーンのような汚いロン毛
・目つきがイッちゃっている
・着ているものはぼろぼろのセーターか、適当なスウェットみたいなの
・クライミング道具もぼろぼろ
・家のドアノブはなくなっている。スパナでひねらなくては家に入れない
以上はドウズの全盛期の話だ。いま、どうしているかは知らない。ところがFacebookをやっていることがわかった。会ったことのない人とFacebookの友達にはならないというのが私のポリシーだが、例外はある。おずおずと友達申請してみたら一発で承認してくれた。
ジョニー・ドウズと友達になったというだけで大興奮であるが、それだけでなくメッセージもくれた。曰く「自伝を出したんだ。日本でも出版できないかな」。
なんとかしたいと思ったのだが、なにしろとんでもなくマニアックなクライマーの自伝だ。どう返したらいいか困っているうちに時がたってしまった。いまでも申し訳なく思っている。
ブリティッシュ・トラッドのクライミング界では伝説となっているドウズは、向こうでは取材されたりすることが少なくないらしく、YouTubeには彼の近年の動画がいくつもアップされている。すでに50歳超。小太りの汚いオジサンとなっているドウズは、年をとったパンクの悲哀を見るようだ。
しかし目つきのアブナさは変わっていない。驚くのは、「ローラーブレードを履いてクライミング」という、これまた意味がまったくわからないパフォーマンスがアップされていることだ。見たところそれは古いものではなく、40代になってからのもの。
ローラーブレードだから当然、足は滑ってまともにホールドに立つことはできない。うめき声をあげながら必死に壁を登る四十男の姿には、あまりのバカバカしさに呆然としてしまった。
しかしこれこそがドウズだ!
中年になっても相変わらず「ドウズ道」を追求していることに、私は嬉しくなってしまった。
以上、ドウズの奇人ぶりを紹介してきた。バカにしているような文章をあえて書いたが、ドウズが読んだとしたらきっと喜ぶはずだと信じている。彼にとっては「バッカじゃねえの」と言われることが、なによりのほめ言葉なのだと。そしてそれをいい大人になっても続けている。その突き抜けっぷりは、真似したいとは思わないのだが、憧れではあるのだ。
ジョニー・ドウズ
Johnny Dawes
1964年イギリス生まれのロッククライマー。落ちることが許されない「トラッド・クライミング」と呼ばれるジャンルの先駆者的な存在。初登した代表的なルートに Gaia(E8 6c)や Indian Face(E9 6c)などがある。
https://www.johnnydawes.com
SHARE
PROFILE
PEAKS / 山岳ライター
森山憲一
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com
『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com