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カトリーヌ・デスティベル 【山岳スーパースター列伝】#17

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2014年7月号 No.56

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
スポーツクライミングからアルパインクライミングまで、岩壁を蝶のように舞うこの女性を紹介したい。

 

2014年3月にシャモニに行ったときのこと。月末に授賞式を控え、街には至る所にピオレドールの看板が掲げられていた。

この年最高のアルパインクライミングのパフォーマンスを決定するイベント。その審査員を紹介する看板のなかに懐かしい顔を見つけた。1980年代はフリークライミング、1990年代はアルパインクライミングで、いずれも世界のトップとして華々しく活躍したカトリーヌ・デスティベルだ。

しかし看板にある彼女の顔写真は、やけにシワが増えていかめしい顔つきになっており、かつての爆発的な笑顔の面影はなくなっていた。

1980年代当時、日本のフリークライミングの世界はいまからは想像できないほど地味でアンダーグラウンドなものだった。しかしフランスのクライマーは違った。男も女もみんな華やかでスター性があった。

筆頭はパトリック・エドランジェ。ブロンドの髪をなびかせ、男の私でもドキッとするようなイケメンぶり。当時、フランスで行なわれたスポーツ選手人気投票で、F1レーサーのアラン・プロストに次いで2位に入ったという話もあるほどだ。ちなみにそのときの3位はサッカーのミシェル・プラティニ。エドランジェがどれほどの人気だったかわかっていただけるだろうか。

その女性版がカトリーヌ・デスティベルである。

1960年生まれの彼女は、1980年代後半、「最強女王」アメリカのリン・ヒルに対抗できる唯一の存在だった。当時、世界最高の舞台だったイタリア・アルコでの大会の優勝をはじめ、コンペで勝つのはデスティベルかヒルか、どちらかでしかなかった。彼女は抜群に強かったのだ。

デスティベルの魅力は強さだけにあったのではない。私が彼女を知ったのは1980年代末だから、そのとき彼女はすでに30歳近かったことになる。だが、まるで子どものような笑顔を見せるデスティベルはもっと若く見えた。

ライバルのヒルがいつも難しい顔をしているだけに、なおのことデスティベルの笑顔は際だった。その子どものような笑顔には、しかし、5%くらいのフランス的な憂いがブレンドされていて、そのブレンド具合もまた絶妙なのであった。

彼女の魅力をもっと知りたい男性は “Catherine Destivelle” で画像検索していただきたい。当時の世のクライマーの度肝を抜いた画像をいまでも見ることができる。もちろん私も度肝を抜かれたひとりである。

1990年代に入ると、デスティベルは急に山登りをするようになる。しかもいきなり、カラコルムのトランゴタワーやラトックなどの激烈に難しい山に向かっている。

このころ彼女は、ジェフ・ロウというアメリカのおっさんとコンビを組んでいた。ジェフ・ロウはおっさんだが、アルパインクライミングに関しては悔しいことにデスティベルより経験が上だ。フリークライミングは、ジェフ・ロウなどというおっさんより彼女のほうがはるかにうまかったはずだが、さすがに山の経験については教えを乞う必要があったのだろう。たとえその相手がおっさんだったとしてもだ。

(そんなおっさんと付き合うのはやめてほしい)

ファンの願いが通じたのか、デスティベルは数年でジェフおっさんにバイバイし、ソロでアイガー北壁やマッターホルン北壁をバリバリ登り、ヒマラヤの8,000m峰、シシャパンマ南西壁まで一撃してしまう。わずか3~4年でアルパインクライミングでもトップに駆け上がった彼女には、もうおっさんの助けなどいらない。さすがはわれらがカトリーヌだ!

……なんてことを、シャモニの書店で彼女の本を立ち読みしながら思い出していた。大量に平積みされた本は、フランスではいまでもカトリーヌ・デスティベルが有名人であることを物語っている。買って帰ろうかなとも思ったが、中身がすべてフランス語であることと、写真がほとんど掲載されていなかったために、私はその本をそっと棚に戻し、書店を後にした。

 

カトリーヌ・デスティベル
Catherine Destivelle
1960年生まれ、フランス領アルジェリア出身のクライマー。10代のときにクライミングを始める。20代後半はスポーツクライミングに専念し、当時始まったばかりの競技大会で多くの優勝を飾る。30歳でアルパインクライミングに転向。ヨーロッパアルプス三大北壁冬季ソロや、シシャパンマ南西壁などの実績がある。
https://www.catherinedestivelle.com

 

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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