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植村直己 【山岳スーパースター列伝】#20

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2016年1月号 No.74

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
日本人初のエベレスト登頂者であり、冒険家の代名詞ともなっているこの人物の登場である。

 

さすがにこの人は説明不要かと思う。

このコーナーでは、登山をやっている人でも知らないようなマイナーな人を取り上げることも多く、毎回、どういう人物なのか冒頭で説明をしているが、今回は省略してもいいだろう。

知らない人は登山をしている者として基本的な知識が不足していると言わざるを得ないので、そこは自分で調べていただきたい。日本人の登山家としては、「孤高の人」加藤文太郎と並ぶ不動のツートップ。日本人の「山岳スーパースター」大本命なのだから。

1984年にデナリ(マッキンリー)で消息を絶って以来、すでに40年弱。しかしいまでも絶大な人気を誇っている。同時代を生きた人が忘れていないだけでなく、生前の姿を知らない世代からの支持も高いことが、この人の希有なところといえる。

とはいえ、世代によってとらえ方がずいぶん異なる人物でもあるかもしれない。たとえば私はいま50代前半だが、私にとっては植村直己というと登山家というより冒険家であり、ピッケルを振って山を登っていく姿よりも、ムチを振って犬ぞりを走らせている姿のほうがしっくりくる。

私が小学校高学年から中学にあたる多感な時期、植村は人類初の北極点単独到達をはじめとして華々しく活躍していた。クラスのほとんどの人間が植村の存在を知っており、当時プロ野球の現役だった王貞治と同程度の知名度を誇っていたほどだ。そんな冒険家がいただろうか。

その「北極の冒険家」が、エベレストの日本人初登頂者であり、世界初の五大陸最高峰登頂者でもあることを知ったのは、ずいぶんあとのこと。

植村は極地冒険に転じる前は登山家として知られており、私より10歳以上年齢が上の人にとっては、登山家の印象のほうが強いのかもしれない。逆に、私より年下の人にとっては、バックパッカー的なフリーダムなイメージでとらえられている部分もあるような気がする。

ステレオタイプな登山家像、あるいは冒険家像に当てはまらない多様な側面を持っているのが植村直己の植村直己たるところであり、それが幅広い世代からの支持を集めている理由でもあるのだろう。

加藤文太郎と植村直己は、どちらも単独での活動で知られるようになったという共通点があるが、キャラクターというか人物像はかなり異なっている。加藤はストイックなイメージが強いのに対して、植村にそれはほとんどない。近所の気のいいおじさんそのものという風貌で、とても登山家とか冒険家には見えない。

それだけではない。著書の筆致もずいぶん異なっており、加藤は生真面目に山の記録を書き綴っているのに対して、植村の著書は自由奔放。アプローチ段階での地元民との会話など登山とあまり関係ない描写も多く、まるで旅行記のようなのである。

アフリカで成り行きの女性相手に童貞を捨てる描写まで出てきたときには私は唖然としてしまった。その調子で五大陸最高峰登頂を綴っているのだから、全然すごいことに思えない。

この人には自分をよく見せようという気がまったくないんだな。植村の著書を読んでいると、いわゆるダメ人間に近い印象すら湧いてくる。いや、違うか。ダメ人間というと、あくまで大人の意思をもった存在だが、植村直己は子どものように素直で無邪気なのだ。

文句のない実績を持っているにもかかわらず、それを鼻にかけるようすがみじんもない。それどころか自分の実績を自分でわかっていなかったようにさえ思える。若い世代から支持を得ている理由はそういうところにもあるのだと思う。

そんな植村直己であるが、デナリで遭難した理由は、周囲を意識しすぎたからではないかといわれている。やりたいことをやりたいようにやってきただけの植村だが、北極点単独到達で時代の寵児に祭り上げられてしまった。そこで初めて、自分のやりたいことよりも周囲の期待に応えようという意識が生まれて無理をしてしまったのではないかと。

ユーモラスなイメージすら持つ自由な冒険家でありながら、心の内は追い詰められていたのかもしれない。それが真実かどうかはもう確かめられないけれど。

 

植村直己
Uemura Naomi
1941年~1984年。兵庫県出身の登山家・冒険家。明治大学山岳部で登山を始める。大学卒業後、世界を放浪しながら各地の山を登り歩く。1970年に日本人として初めてエベレストに登頂。同時に、世界初の五大陸最高峰登頂を成し遂げる。エベレスト以降は極地での冒険に軸足を移し、1978年に、世界で初めて犬ぞりによる北極点単独到達に成功。1984年、デナリ登山中に消息を絶つ。
http://www.uemura-museum-tokyo.jp

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

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