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リカルド・カシン 【山岳スーパースター列伝】#29

文◉森山憲一 Text by Kenichi Moriyama
イラスト◉綿谷 寛 Illustration by Hiroshi Watatani
出典◉PEAKS 2018年5月号 No.102

 

山登りの歴史を形作ってきた人物を紹介するこのコーナー。
ボナッティやメスナーの大先輩であり師匠でもある、イタリアの伝説を紹介しよう。

 

カシンというギアメーカーを知っているだろうか。アイスアックスやクランポンなどの先鋭的なハードギア分野できわめて高性能な製品を多く開発しており、アイスクライミングをしている人なら間違いなく知っている。知らないという人がいたら、その人はアイスクライミングをやっていないに等しい。

現在はカンプの傘下にあり、そのハイエンドラインとして名を残している。カンプ自体がクライミングギアメーカーであり、そのなかでもさらに先鋭的な製品に、カシンの名が冠されているのである。

カシンの創業は1952年。古くから、質実剛健にして高性能なモノ作りをするブランドとして知られていた。創業者はリカルド・カシン。今回の主役である。

イタリア人のカシンは、かのワルテル・ボナッティやラインホルト・メスナーの師匠ともいうべき、イタリア登山界の大物中の大物。その彼が創業したメーカーのカシンは、ギア界での立ち位置としても、製品の内容にしても、イタリアのシュイナード・イクイップメントというべき存在といえる。

1909年に生まれたカシンは、1930年代から、ドロミテ山群の初登攀でその名を知られるようになった。そして29歳のときに、キャリア金字塔となる登攀を成し遂げる。アルプス三大北壁のひとつ、グランドジョラス北壁を初登攀したのである。

アルプス三大北壁の初登攀者といえば、ヨーロッパの、いや、世界の登山界の伝説である。三大北壁のほかのふたつ、アイガー北壁はハインリッヒ・ハラーら、マッターホルン北壁はトニー・シュミットら。カシンは、それらと肩を並べるビッグネームとなった。

ここまでですでに、カシンは世界の登山界のスーパースターの座を十分手に入れているといえるが、彼の真価はむしろここからである。第二次大戦後も彼は登ることをやめない。というより、さらに過激に加速していくのだ。

まず、K2。標高世界第二位のこの山は、1954年にイタリア隊によって初登頂されるが、当初、カシンはその登山隊メンバーに入っていた。結果的に参加はできなかったが、その鬱憤を晴らすためか、4年後の1958年に、困難度としてはK2の上をいくと見られる難峰、ガッシャブルム4峰に向かう。自身は山頂には立てなかったものの、登山隊メンバーのボナッティらが初登頂を果たす。

そしてデナリ(マッキンリー)。ここの南壁には、カシン・リッジと名付けられた、あまりにも美しく困難な岩稜がある。名前からわかるように、ここの初登攀をしたのはカシンである。1961年のことだ。カシンは、キャリア第二の金字塔となるビッグクライムをここで成し遂げたのである。

さて、ここでカシンの生年を思い出していただきたい。1909年である。つまり、カシン・リッジ登攀時は52歳。この年齢まで世界の真の第一線で登り続けた登山家は、カシンのほかには、ミック・ファウラーくらいしか私は思いつかない。

驚くべきは、その後もまだ引退しないことである。60歳となる1969年には、アンデスのヒリシャンカ西壁を登り、66歳の1975年には、なんとローツェ南壁に向かっている。ローツェ南壁は、メスナーが「21世紀の課題」と呼んだ、ヒマラヤ屈指の難課題。当時の若く強力なクライマーがまったく歯が立たなかったこの壁に、66歳にして挑もうとはどういう根性なのだろうか。このときは、全盛期を迎えていたメスナーと組んだが、さすがに時代が早すぎたのか、登ることはできなかった。

その後は、先鋭登山の場でカシンの名を聞くことはなくなった。メーカーとしてのカシンも一時、勢いを失い、1997年にカンプの傘下に入った。

しかしカシン本人は元気に暮らしていた。亡くなったのは2009年、100歳のとき。戦前からのアルプスの伝説は、わりと最近までこの世にいたのである。なんという生命力。人生そのものが、その作り出すギアのように、質実剛健、タフで高性能なものだった。

 

リカルド・カシン
Riccardo Cassin
1909~2009年。イタリア出身の登山家。1938年に、アルプス三大北壁のひとつとされていたグランドジョラス北壁を初登攀(ウォーカー稜から)。第二次大戦後はヨーロッパ外の山にも積極的に出かけ、1961年にはアラスカ・デナリでカシン・リッジを初登攀。ピトン製造から始まったギアメーカー「カシン」の創業者でもある。

 

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PROFILE

森山憲一

PEAKS / 山岳ライター

森山憲一

『山と溪谷』『ROCK & SNOW』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーランスのライター。高尾山からエベレストまで全般に詳しいが、とくに好きなジャンルはクライミングや冒険系。個人ブログ https://www.moriyamakenichi.com

森山憲一の記事一覧

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