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晴れ間をねらって出かけた岩場にて。生を繋ぎ死に向かってゆく、神秘的な瞬間に出逢う|筆とまなざし#289

山梨の初めての岩場で味わい深いルートを楽しむ。

天気図と天気予報を1日に何度も見ることにいい加減飽きました。異例の梅雨明け。たしかに梅雨前線はないけれど、例年なら梅雨明けしているはずの7月下旬にこれほど雨ばかりだとは。なんとも予定が立たない日が続いています。

束の間の晴れ間を狙って山梨の岩場に出かけたのは少し前のことでした。数年前に公開されたことは小耳に挟んでいたのですが、興味を持ったのは2ヶ月ほど前のこと。知人と話をしていたところ、最近行く人が多くなってきたと聞き、改めてトポを見てみたのです。すると、ルート数は少ないのですが40mを超えるルートがあるといいます。日本には非常に珍しいスケールです。夏でも木陰で涼しいらしい。写真を見ると雨後の乾きも良さそうに思え、友人を誘って出かけてみることにしました。

くねくね道の林道をしばらく上り、ゲートの手前に車を停めました。ネットで調べたアプローチはわかりやすく、迷うことはありませんでした。連日の雨で増水した沢を渡渉。明るいカラマツ林の小道をたどると、大きな岩が姿を現しました。表面の滑らかな灰色の岩で、ところどころにオレンジ色の模様が見えます。基部には石垣が組まれていて、居心地の良い休憩スペースとなっていました。この岩場はフランス人ガイドによって開拓されたらしく、そんなところにも国民性が感じられるのもおもしろいところです。この岩場の看板ルートは40mのボルトルートと、まるで月面のような球体をした岩が特徴のトラッドルート。どれもなかなか味わい深いルートでした。

半袖で休んでいると肌寒いくらい心地よい。バックパックを背中に敷いてうつらうつらしていると、友人が驚いたような声を上げました。するとどうでしょう? 近くの木で、蝉がいままさに羽化しようと、殻を割って半身を出していたのです。羽化の瞬間を見るのは初めて。透き通った緑色の体。赤い目と頭付近の茶色い模様がアクセントになっています。ピクピクと小刻みに揺れながら、背中を大きくのけぞらせてほんの少しずつ殻から出てくるようすはなんだかこの世の生きものとは思えない姿形で、ありきたりな言葉だけれど神秘的でした。

帰り支度をするころになっても蝉はまださっきとほとんど変わらない状態でした。数年間もの長い期間を幼虫のまま土のなかですごし、成虫になるとわずか7日間ほどでその一生を終えるのだと言います。羽化するということは、生を繋ぎ、死に向かうこと。この原稿を書いているいまはもう、あの蝉はこの世のいないことになります。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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