秋になると決まって訪れる場所で紅葉スケッチ|筆とまなざし#304
成瀬洋平
- 2022年11月23日
変わる景色と変わらない景色。子どものころからのなじみの場所で。
朝晩の冷え込みが厳しさを増し、木々は葉を落とし始めました。冬の岩場である瑞浪でのクライミング講習も始まりました。周りの景色と岩場の選択に季節の移ろいを感じています。ありがたいことに最近は晴天が続き、天気に翻弄されることなくクライミングインストラクター業務が行なえています。プライベートでは鳳来の前傾壁や名張のクラックを登りに行き、笠置山のプロジェクトに着手するなど、クライミング日和を満喫しています。
秋になると決まって訪れる場所があります。そこは自宅から二キロほど離れた、集落から車一台がようやく通れる細く曲がりくねった道を登りきったところにある小さな広場で、周り一帯がモミジの群生地になっているのです。小学生のころの通学路でもあり、学校で遊んで帰ると街灯ひとつないその広場は真っ暗になり、すぐ先にある薄暗い手掘りのトンネルは子どもたちにとっては最大の難所だったのですが、晩秋になるとおどろくほどみごとな紅葉が見られるのでした。やがて真紅に染まったイロハモミジの落ち葉が広場一面を埋め尽くし、靴が隠れるほどの落ち葉のなかを、カサカサ音を立てて分けるように歩くのが子どものころの楽しみでした。
もうそろそろだろうか。先週、広場に行ってみました。紅葉は朱色に染まり始めたばかりで真紅になるのはもう少し先のようでしたが、光を透かしたグラデーションはみごとなものでした。雨上がりの今朝、再び訪れてみると紅葉は半分ほど葉を落とし、濡れた路面にその色彩を滲ませていました。
穏やかな日差しの下で、まだ散っていない紅葉をスケッチしました。黄色から朱色、そして真紅へ。風に揺れてひるがえり、光を透かせて鮮やかに輝く。細く丸まった葉の先に一抹の儚さが漂っているように思えました。
変わる景色と変わらない景色。変わった自分と変わらない自分。故郷の風景を描いていると、ときどき子どものころの自分がひょっこり顔を出すことがあります。駆け足ですぎ去るときのなかでそんなひとときを描き残す。それも絵を描く理由なのかもしれません。
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