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大町と北アルプスをつなぐ新たな潮流を作り出す「山と人と街プロジェクト」が本格始動

北アルプスの三俣蓮華岳、鷲羽岳をつなぐ稜線上にあり、槍ヶ岳や雲ノ平へ向かう際の中継地点としても重要な三俣山荘。この三俣山荘の主人である伊藤圭さんを中心に、ふもとの大町市、その奥に位置する湯俣・高瀬渓谷、そして、伊藤新道や裏銀座などの山岳エリアをつなげる「山と人と街プロジェクト」が本格的にスタートした。

文・写真◎PEAKS(泥谷範幸)

変わらぬ想いを未来へとつなげる

槍ヶ岳へと向かう縦走路、裏銀座の重要な中継ポイントであり、日本百名山でもある鷲羽岳や水晶岳、天上の庭とも謳われ登山者あこがれの場所である雲ノ平などへとへと向かう際にも利用されることが多い三俣山荘。槍ヶ岳や鷲羽岳などの好展望地であり、さらに名物ジビエシチューやムードのあるバーなどさまざまな魅力に惹きつけられ、ここを目的地としてやってくる登山者も少なくない。

三俣山荘。左上に食堂があり、展望は抜群

この三俣山荘へと登るための最短ルートとして、40年くらい前までは湯俣川をたどる伊藤新道が使われていたが、崩落や吊り橋の劣化にともない、1980年代には登山道としてはほぼ利用できなくなってしまった。

だが昨年、クラウドファンディングを行ない、徒渉が厳しい場所に3つの吊り橋を架橋(第1吊り橋は2021年に架橋)。通過が難しかった岩場、通称「ガンダム岩」にもタラップが付けられ、伊藤新道が利用しやすくなった。

湯俣ブルーとも呼ばれる独特の色合いが特徴の湯俣川。伊藤新藤の下部はこの湯俣川を遡行していく

ただ、歩きやすくなったといっても約半分は沢歩きが続く伊藤新道は、一般登山道とは一線を画す。難しい滝登りなどがあるわけではないが、徒渉を繰り返すため、沢の地形や水の流れをしっかり把握、予測して歩く技術が必要となる。困難なルートではないが、容易に歩ける道ではないのだ。

この伊藤新道の起点に位置するのが湯俣。現在でもシーズン中は「湯俣温泉 晴嵐荘」が営業しているが、伊藤新道復活に合わせて、この地にもともとあった「湯俣山荘」も2023年8月には営業を開始する予定だ。

2023年営業再開を目指して工事中の湯俣山荘

「じつは湯俣ってすごくポテンシャルが高いと思っているんです。ここまでは家族でも来られるし、噴湯丘というシンボルもあります。これからもっと利用者が増えてほしいですね」と、湯俣山荘の運営も行なう三俣山荘主人の伊藤圭さんは語る。

この湯俣、そして、裏銀座へとつながるブナ立尾根へのトレイルヘッドとなるのは高瀬ダムと七倉山荘であり、このトレイルヘッドへと向かうための街の拠点は大町となる。

「街=大町」「フロントカントリー=湯俣・高瀬渓谷」「バックカントリー=北アルプス・裏銀座」を人が循環する流れを作りたいと、伊藤さんは「ネオアルプス」を立ち上げ、「山と人と街プロジェクト」をスタートさせた。伊藤新道や湯俣山荘の復活も、このプロジェクトの一環だ。

「大町」「湯俣・高瀬渓谷」「北アルプス・裏銀座」の3つのエリアをつなぎ、人の流れを生み出したいという願いがプロジェクトの根底にあるさらに、これまで以上にこのエリア、そして山に入る人を増やすためにアクセスの改善に取り組んでいると伊藤さんは語る。

「多くの人に足を運んでもらうためには、アクセスも重要です。これまで、七倉まで登山バスの運行がなかったので、マイカーか信濃大町からタクシーで向かうのが一般的でした。ですが、大町市に働きかけ、2023年7月15日から信濃大町駅と七倉をつなぐ登山バスの運行(*)が決まり、より気軽に行きやすくなりました」

715日~1015日までの土日祝日、715日~930日までの月・金曜運行(7月28日8月21日までは毎日運行)。料金は片道1,500円、小学生1,000円、未就学児は無料。

ネオアルプスでは昨年11月から活動を支えてくれる会員を募集している。会員は3つの種類があり、個人が対象となるのは「賛助会員」。会費は年5,000円であり、この会費は基本的に登山道整備に充てられる。会員にはネオアルプスが発刊する『URAGIN magazine』送付されるほか、三俣山荘、水晶小屋、湯俣山荘の宿泊料5%割引、さらに2023年3月28日からスタートしたネオアルプスオンラインストアでの割引といった特典が用意されている。

裏銀座など北アルプスの魅力を写真と文章で伝える『URAGIN magazine』。次号以降は伊藤新道や雲ノ平などを絡めたルートの魅力を紹介予定

「オンラインストアの商品は3つの商品群があります。ひとつは従来からのオリジナルグッズであるタンブラーや手ぬぐい、『黒部の山賊』などの本、地図など。もうひとつは、アーティストとコラボしたさまざまなグッズ。そして、中心となるのは伊藤新道を想定したギアやウエア。これはリアルにおすすめできるアイテムとして、スタッフが実際に伊藤新道で試すなど、しっかりと吟味して販売する予定です。環境配慮に関しても無視できないので、商品には素材のリサイクル率も表記したいと思っています」

ネオアルプスではそのほか、伊藤新道ガイディングクラブを立ち上げ、容易ではない伊藤新道をより安心して歩けるための仕組みを整備したり、湯俣から槍ヶ岳へとつながる古道、宮田新道の復活プロジェクトなども進めている。もちろん活動のベースとなるのは伊藤新道を中心としたこのエリア全体の登山道整備だ。

1956年、伊藤圭さんの父である伊藤正一さんを中心に拓かれた伊藤新道。その後の紆余曲折を経て、いま、再生の時を迎えている。自然や道は永遠ではない。だからこそ、大切に守り続ける必要がある。時代は変われど、大事なのは根源にある不変の想いや自然への畏敬の念――。それを未来へとつなげための活動を、伊藤さんは地道に続けている。

伊藤新道の上部から。時代は変わっても、変わらぬ山の景色

 


 

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PEAKS 編集部

PEAKS 編集部

装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。

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