【前編】総距離37㎞、越えるピークは12座。ロング&ハードな1泊2日の大縦走。「大菩薩連嶺北南ファストトリップ」
PEAKS 編集部
- 2023年02月28日
カモシカスポーツのファストパッキング隊長、茂垣亮馬さんのアドバイスで装備のスリム化に成功した編集部員・カトウ。新調した装備を携え、茂垣さんとともに向かうは南北に峰々が連なる山梨の大菩薩連嶺。
いままでよりもっと速く、遠くへ――という体力無視の無謀なチャレンジは、果たして成功するのか?
編集・文◉PEAKS編集部
写真◉宇佐美博之
▼装備の見直し編はこちらをチェック
「体力はたぶんあると思います。ファストパッキングってしたことないですし、山歩き以外は通勤の自転車くらしか運動もしてないんですけどね」
未知数の状態でファストパッキングチャレンジへと名乗りを上げ、装備の軽量化以外に準備もなく山へと乗り込んだ編集部・カトウ。ひさびさの長い縦走を心待ちにしていた茂垣さんに比べ、不安の色が隠せず、茂垣さんのなにげない話しかけに対しても、どこか上の空。つい先日も飯能アルプスの長いルートを歩いてきたというものの、2日間で合計40㎞弱という今回の超ロングルートを歩ききることはできるのだろうか……。
***
4月中旬、ふたりが向かったのは山梨県の東部にそびえる大菩薩連嶺。日本百名山のひとつ、大菩薩嶺を有するこの山塊は、1500〜2000m程度の山々が南北に連なっており、新緑の春、紅葉の秋にぴったりな場所だ。まだ木々が芽吹き始めたばかりで新緑にはちょっと早いものの、雪がない快適な山歩きが楽しめる場所として、今回はこのエリアをチョイス。ふたりは始発の中央線に乗り込み、塩山駅からタクシーで大菩薩ラインを北上。鶏冠山登山口へと向かった。
「加藤さんと僕、どちらの荷物が軽いですかね? 僕の装備のベースウエイトは6・3㎏とちょっと重めなんで、たぶんカトウさんのほうが軽いと思うんですが」
そう言って、左手で自分の荷物、右手でカトウの荷物を持ち確認する茂垣さん。ショップで計測したときはカトウの装備のベースウエイトが5・9㎏程度になっていたこともあり、多少カトウのほうが軽いのではと想像したものの、感覚的には同じくらいのようだ。
「もしかして食材が重たいんですかね?」
「いや〜、基本フリーズドライなんで軽いはずなんですが……」
大菩薩連嶺の一番北に位置する鶏冠山を目指し、ふたりは歩き出した。10㎏近い荷物を背負っているものの、デイハイクの装備で歩いているようなスピード。その速度は、標準的なコースタイムの7割程度だろうか。登山口から鶏冠山までは3㎞程度の距離ながら、標高としては約500m登る。つまり、サクサクとは歩けない結構な斜度なのだ。
フットワークの軽い茂垣さんに対し、カトウは……茂垣さんから離れず、ビタッと後ろに張り付いている。しかも、極端に息が上がるでもなく、わりと余裕がありそうだ。これは軽量化の恩恵なのか、もしくは潜在的にすごい体力を備えているのか……。
鶏冠山の山頂は登山道から分岐しており、小さな社がそびえている。樹林帯の尾根を登りきってたどり着いた山頂からは、まだまだたっぷりと雪を戴いた富士山が。登山口に向かうまでにさんざん見てきた富士山だが、やっぱり登山中に見えると気持ちが高まるもの。
軽量化とは無縁の大事なお楽しみ。人の気持ちは数字では量れない。
言葉にはしないものの、ふたりとも心に秘めていたに違いない「全部歩けるの?」という不安が、少し払拭されたようだ。この先しばらくはアップダウンの少ないトラバース道が続く。よく整備されていて歩きやすいものの、平坦で逆に退屈に感じるくらいだ。ふたりとも口数が少なくなってきた。大して疲れてはいないものの、気分をリフレッシュする意味で休憩を入れることに。それぞれバックパックから行動食を取り出す。茂垣さんの定番は、油であげた小さなおかきのようなフライドライス。重量あたりのカロリーが高く、適度な塩分も取れる。軽量化の見本のような行動食だ。それに対し、カトウの行動食は塩味、甘味関係なく、グミ、ドライフルーツ、黒糖ピーナッツ、おかきなどを混ぜたオリジナルトレイルミックス。
「たくさん入ってますけど、これって今回の山行分ですか?」
「うーん、とりあえず食べたいものをいろいろ入れたんで、もしかしたら余るかもしれないです。でも好きなものを、好きなだけ食べられる状態にしておきたいんですよね」
軽量化とは無縁のボリューミーな行動食だが、カトウにとっては譲れない大事な山のお楽しみ。人の気持ちは、数字では量りきれないのだ。
4つの峠を越えて、たどり着いた丸川峠。なにげなく丸川荘を覗いてみるが、人の気配が。
「ここは豆から挽いて淹れるドリップコーヒーが有名なんですよ」
と今回の撮影を行なう宇佐美さんがふたりに教える。それであればと、ドリップコーヒーを注文し、少し休憩させてもらうことにした。今日の行動はスピーディ、でも休憩はたっぷり。トータルで考えるとファストパッキングというよりは、早歩き登山という言葉がピッタリだ。でも、普段からあまり走らないというふたりにとってはこれがちょうどいいペース。そのベースになるのは、身体の負担になりにくい削ぎ落とされた装備であり、定期的な山歩きで培われる基本的な体力だ。これが揃わないと、ファストパッキングは成功しないだろう。
人数分よりも多めであろうコーヒーをふるまいながら、丸川荘を管理する優しそうな男性がふたりに問いかける。
「ヒカリゴケきれいだったでしょ?」
コケの森はすぎたものの、ヒカリゴケの存在には気づかず、「あ、いや、見なかったです……」と苦笑いするふたり。
「この先、大菩薩嶺に登る途中にもあるから、見ていくといいよ」「探してみますね。ありがとうございます!」
山にはいつも思いがけない出合いが潜んでいる。
峠の奥にそびえる富士山を一瞥し、大菩薩嶺へ。2・4㎞、約380m程度の登り。鶏冠山への登りと比べるといくぶん緩やかだ。
「あ、ここにありますね」
例のブツを発見したのは、宇佐美さん。ふたりも足を止めて、のんびりコケ鑑賞タイム。まるでファストで生まれた時間を、スローで埋めているかのよう。
道草を食ってばかりの道中で予定より少し時間が押してしまい、大菩薩嶺で記念撮影したあとは早足で唐松尾根を下る。30分程度で今夜の宿泊地である福ちゃん荘に到着。今日は約14㎞の行程で終了した。
福ちゃん荘のテントサイトは広々としていて、他に1名の登山者はいるもののほぼ貸切状態。テントを張るスペースを決め、カトウはクロスオーバードームを取り出した。
「初めてのクロスオーバードームですね。快適にすごせると良いのですが」
自身も愛用しているだけにその使い勝手は把握しているものの、ダブルウォールテントに慣れたカトウがどのような感想を抱くか気になるようすの茂垣さん。それに対し、早々と設営を済ませ、マットも膨らませ、のんびり寛ぐカトウ。早く使ってみたかったのか、ただ疲れていただけなのか……。
日没とともに食事が終了。すると、次第に風が強くなってきた。この日の気温は2℃程度とまだまだ春というには少し早い陽気。翌朝、日の出前に行動を始める予定ということもあり、今日は早めに就寝することにした。
茂垣さんの装備をチェック
ベースウェイトは6.3㎏と重くはないが、極端なウルトラライトではない茂垣さんの装備。マットがショートサイズだったり、アルコールバーナーであったりと、一部のアイテムは軽量志向だが、そこまで切り詰めていないのが特徴。バックパックは30ℓで、食材を含めて無理なく収まっている。これくらいの軽量化であれば、一般的な登山装備を揃えている人でも近いところまで持っていけるだろう。
- ブラックダイヤモンドのスピード30。
- ニーモのテンサーインシュレーテッドショートマミー(廃版商品)。
- シートゥサミットのエアロウルトラライトピロー。
- シートゥサミットのスパークSpI。ダウン量180g程度の夏向きモデル。
- 寝袋の保温力不足を補うシートゥサミットのサーモライトリアクター。
- 1㎏を切る軽量ダブルウォールテント、ヘリテイジのハイレヴォ1人用。
- SOLのエマージェンシーブランケット。
- エバニューのチタンクッカー、Ti570cupにチタンカップ400FDをスタッキング。さらにチタン製のTiフーボー(風防)をイン。❾
- SOTOのスライドガストーチ。
- エバニューのチタンアルコールストーブとバーゴの燃料ボトル。
- シートゥサミットのスプーン。
- モバイルバッテリー。
- キャリーザサンのソーラーランタン。
- サムコンパス。
- チャージできるバッテリーを搭載したペツルのアクティックコア。
- メガネ。
- ファーストエイド&エマージェンシーキット。
- オーラルピースの歯磨き剤など洗面用具類。
- パタゴニアのビーニー。
- アクシーズクインのレイングローブ。
- ファイントラックのフォトンパンツ(レインパンツ)。
- アークテリクスのゼータSLジャケット(レインジャケット)。
- 化繊中綿を使用したアークテリクスのニュークレイFLジャケット。
- ザ・ノース・フェイスのインシュレーションパンツは化繊中綿とダウンのハイブリッド
▼後編はこちらをチェック
※この記事はPEAKS[2021年6月号 No.139]からの転載であり、記載の内容は誌面掲載時のままとなっております。
▼PEAKS最新号のご購入はこちらをチェック
- BRAND :
- PEAKS
- CREDIT :
-
編集・文◉PEAKS編集部 Text by PEAKS
写真◉宇佐美博之 Photo by Hiroyuki Usami
SHARE
PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。