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ノドグロと大将とヒナノちゃん「居酒屋 一八」(新潟県南魚沼市)【グルメトラバース】#010

山に登り、麓の食を堪能することをライフワークとする、とある山岳ガイドの彷徨旅=グルメトラバース。
今回は新潟のディープエリア六日町で、高級魚ノドグロに舌鼓を打ち、大将の話に興じ、看板娘に癒やされる。
文・写真◎川名 匡

六日町の夜は、ここ一八がまずは登竜門

その昔、私が山岳ガイドを生業とする前、雪に関する調査観測の仕事で冬は越後湯沢を毎月訪れていた。(1980~1995年ころ)。全国的にも有名な温泉街であり、当時はスキー全盛期でスキー客も盛んに訪れていたから、越後湯沢駅周辺はにぎやかなものだった。赤提灯からスナック、そして、ラーメン屋、蕎麦屋、中華まで、いろいろな店が軒を並べていた。

越後湯沢はいまでもにぎやかではあるが、山岳ガイドをするようになってからは登山目的が主になって、より山へのアクセスが良い越後湯沢から少し北に下った六日町(南魚沼市)に前泊・後泊することが多くなった。六日町から登れる山は、越後八海山、越後駒ヶ岳、巻機山など、なかなか格好のいい山ばかりだ。そして六日町は、冬のスキーのメッカであるいわゆる観光地の越後湯沢と比べれば静かだが、じつは飲食店の数は意外と多くて、その分、地元の飲んべえ向きのいい店も多い。とくに日本酒好きの私には素通りできない場所なのである。

六日町駅から犀潟を結ぶ北越急行ほくほく線の車両。雪国の鉄道らしく冬はご覧の通りの表情に

なお、近年六日町泊が多くなったのは、単に山に近いだけでなく、山仲間である桜井靖さんが六日町駅近の酒屋の店主であることも理由のひとつなのだ。

桜井さんとの出会いは、もう10年前になる「山男塾」という男子限定山岳ツアーから。私が講師となり、40歳までの男子限定山岳ツアーという、いまから考えるとかなりユニークな企画で、参加した塾生ものべ人数で百人前後となったが、実はいまでもいっしょに山に登っている元塾生はほとんどどいなくなってしまい、桜井さんが唯一といってもいい。

そんな彼の最初の自己紹介で、日本酒で有名な六日町在住、しかも酒屋の店主と聞き、驚いた(喜んだ)ものだった。いまでは六日町に泊まるたびに彼が私のアフターファイブに付き合ってくれている。山仲間だけでなく、頼もしい酒仲間でもある。

彼について歩けば、かならずいい店にありつける。お昼を食べる店などもいくつか教えてもらっているが、一番最初に連れて行かれたのが、今日紹介する「一八」だった。

期待を抱かずにはいられない直球の店構え

最初の桜井氏の一言が「旨いノドグロが食べられる店に行きましょう」だった。ノドグロなんて高級魚、それまでほとんど食べたことがなかったが、それ以来、一八を訪れる度にノドグロを毎回いただいている(もちろん水揚げがないときもあるから、かならず食べられるわけではない)。

ノドグロとはおもに日本海側で呼ばれている地方名で、正式な和名はアカムツ。有名なのは島根や山口県産、あるいは石川、富山などだが、何々、新潟県産も負けてはいない。一八のノドグロ
は寺泊港水揚げのモノだが、脂が良くのっていてとにかく旨い。そしてなによりも安い。

島根産のノドグロを都内で食べたりしたら、高級フレンチをいただく位の金額を取られるが、ここで食べるとびっくりするほど安いのだ。高級魚であるノドグロが、庶民にも手が届くのはうれしい。そしていまでは、ノドグロ=一八が、私のイメージとなっている。よく行く富山でも食べることは食べるが、この一八で食べる量には及ばない。

ノドグロは串に刺してじっくり焼かれる
ノドグロは豪華に人数分焼いてもらったりもする

当然だが、寺泊から入る鮮魚はどれも新鮮で旨い、しかも大将の料理の腕もたしかだ。ブリのカマトロ、艶々したタコやイカ。プリプリの甘エビ。いつも〆に食べてる芋ステーキなど、その都度、旬な肴を食べさせてくれる。

今宵のお作り盛り合わせ
思わずよだれが出そうな甘エビの刺し身
シメの芋ステーキ(チーズのせ)
栃尾の油揚げ(納豆包み)

一八のもうひとつの楽しみは、大将の色々な話しを聞くことと、看板娘のヒナノちゃんを拝見すること。大将の人生(珍)経験豊富でなおかつおもしろおかしく語ってくれる講談口調の話しっぷりは一聴の価値ありだ。大将の話とヒナノちゃんの笑顔。どちらも甲乙つけがたい。しかも大将とヒナノちゃんの息が合ってるのか合っていないのか分からない迷コンビぶりを見るのも楽しく、酒の肴には事欠かない。

大将の福崎誠也さんは異色の経歴の持ち主。どんな経歴かは……本人に聞こう
看板娘のヒナノちゃんに勧められると断れない……

そう肝心な酒の話し。六日町といえば清酒八海山が超有名だが、この一八では、六日町限定、原則個人向けの販売なく地方発送もなし。六日町の数店舗でしか飲めない、清酒鶴齢(かくれい)の「純米大吟醸生原酒」(限定酒)を絶対飲むべし。

この地でしか味わえない鶴齢の純米大吟醸生原酒

この酒との出合いは衝撃的だった。一口飲んだ時の驚きはまさしく目から鱗の新感覚。秋田民謡の酒屋唄の如く、「飲んだここちは~富士の山」だった。六日町でも扱っている飲み屋さんは限定なので、一八に行ったら例えヒナノちゃんに会えなくても……この酒は絶対飲むべし!

壁にはヒナノちゃんのポスターが!

今夜の酒とアテ

酒は新潟県南魚沼市の酒蔵「青木酒造」の鶴齢(かくれい)大吟醸生原酒(右が吟醸生酒、左が大吟醸生原酒)。肴はノドグロ(アカムツ)の焼き。

居酒屋 一八

新潟県南魚沼市六日町1412-2
TEL.025-772-7405
営業時間:18:00~
定休日:月曜日

六日町駅から徒歩10分坂戸橋手前の左側。広いカウンター席と広め小上がり、奥に座敷有り。大将は話し好きな福崎誠也さん。料理の鮮度と味良し酒良し。脂ののったノドグロがおそらく日本一安く食べられる。

直江兼続ゆかりの坂戸城趾と坂戸山

今宵の酒は一八でいただくとして、その前に登る山は、一八の軒先からほんの徒歩11分。坂戸橋経由で旅館坂戸城前を経由した距離850mのところが登山口の坂戸山に登っておこう。標高はどこかのタワーと同じ634mと小ぶりだが、JR六日町駅からも真正面にデンとしてよく見える格好のいい山だ。

魚野川から見る坂戸山(登山道は左から緩く登る薬師尾根)手前右は坂戸橋

尾根の中腹にある坂戸山城趾を経由する薬師尾根コースをピストンするのが一般的で、登山口からの標高差は469m。夏道で約1時間半、真冬の積雪がある時でも、地元の人たちの散歩コース(!)となっているので、よっぽどの大雪直後でなければ常にトレースが着いていて2時間台で登れる。

頂上直下、冬場は雪庇が着いた細い尾根となり、中々の雪山気分が味わえる。但し、スパイク付きのゴム長靴で駆け上がってくる地元の人たちに追い越されてもびっくりしないこと。彼らは一年中、散歩かトレーニングで毎日のように上り下りしている人たちで、早い人は往復で1時間弱で下りてくる。ちなみに私は、アイゼン、ピッケルで登り、所要時間3時間ほどだったが。

坂戸山薬師尾根六合目付近(左奥が山頂)

 

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PROFILE

川名 匡

PEAKS / 山岳ガイド

川名 匡

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

川名 匡の記事一覧

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

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