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雨上がりの翌日、スケッチブックを持って笠置山へ|筆とまなざし#323

笠置山のこれまで歩いたことのないエリアへ岩探し。そこは、良質な岩の宝庫だった。

雨が降った翌日、どこの岩も濡れているだろうとスケッチブックを持って笠置山に出かけた。これまで歩いたことのない場所に岩探しに出かけようと思い立ったのである。

笠置山の岩は、およそ8500万年前の火山噴火によってできたといわれる濃尾流紋岩である。おもしろいのは、濃飛流紋岩の下、標高の低いところには花崗岩が分布していることだ。花崗岩は地下でマグマがゆっくり冷えて固まったもので、どちらも火山活動によってできた岩なのだが、標高で岩質が異なるのが笠置山の特徴である。花崗岩地帯は瑞浪や豊田の岩場へと繋がっている。

駐車場に車を停めて、尾根に沿って斜面を登る。まばらに岩があるだけで、あまり心惹かれる岩ではない。檜林の下は笹に覆われ、間伐された倒木がトラップのように行手を阻む。寒く、ときどきみぞれ混じりの雨が降ってきた。

この辺りに岩はないな。期待が外れ、半ば諦めかけたところで谷を下ることにした。谷には小さいながら岩が点在していたからだ。土が流され、地中に堆積していた岩が露出したのだろう。谷には、そこだけだれかが配置したように岩が列を作って並んでいた。しばらく下ると大きな岩があった。「おや?」と思う。なかなか良い岩である。その岩まで行くと、すぐ下にまた大きな岩がある。その岩まで行くとさらに下に岩が見え、左を向くと少し離れたところにも大きな岩があった。「おお!」 興奮しながら岩から岩へと渡り歩いた。岩はないと思っていたが、そんなことはなかった。ここには良質な岩が固まって眠っていたのである。

岩がある谷には土がないため植林されておらず、雑木林に囲まれている。明るく居心地が良い場所だ。前日に降った雨が岩間を流れ、小さな沢を作っている。しばらく下り、歩き疲れたところで岩の上に腰を下ろした。目の前に、岩の上に根を下ろした木がいくつもの枝を空に向けて広げていた。

気に入った岩があったら絵を描こうと思っていたのだが、この木を描くことにした。濃い鉛筆で木を描いていく。風景のなかに描くべきラインを探す。柔らかく、ときどき強く。なめらかな木の肌、そこに生えた苔。落ち葉。再びみぞれが降り出し、スケッチブックを濡らした。

登ることでこの山を感じ、描くことでこの山を感じる。岩だけじゃない。山は描くモチーフで溢れている。その体験を、岩やスケッチブックに描きとどめてすごす。日常と非日常の狭間のような時間。この山は多くのことを与えてくれる。

描き終わるころにはみぞれも止み、青空から日が差し始めていた。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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