シメはやっぱり八千代巻「寿司割烹 八千代」(新潟県南魚沼市)【グルメトラバース】#011
川名 匡
- 2023年04月18日
山に登り、麓の食を堪能することをライフワークとする、とある山岳ガイドの彷徨旅=グルメトラバース。
前回に続き、今回も新潟の六日町を探訪。バリバリの山ヤである大将に迎えられ、日本海の海の幸に舌鼓を打つ。
文・写真◎川名 匡
推しは八千代巻き。だが、鉄火丼も捨てがたく迷う……
日本中、どこにでも寿司屋はあるが、全国各地を放浪する身としては、各地に行きつけの寿司屋があるのが理想だ。富山しかり、北海道しかり、東北しかり、その土地ごとの活きの良いネタや特徴を醸しだし、その土地訛りで話しかけてくれる。それぞれ個性豊かな大将とカウンター越しに話をすると、「ああ、○○に来たなあ……」とそれぞれの土地で感じられ、旅情気分に浸れるのだ。
越後にはここ、六日町の「寿司割烹 八千代」がある。こちらも、先に紹介した「居酒屋 一八」と同じように、山仲間の桜井氏に紹介された店だ。
八海山、巻機山、越後駒ヶ岳など魅力的な山にも近い六日町は、日本海もまた近く、新鮮な魚貝類が手に入る。さらに南魚沼のコシヒカリという超有名ブランドの旨い米を使い、ていねいに握ってもらえるのも格別だ。
しかも、この八千代には他の寿司屋にはあまりない特徴がある。大将の早川精一さんは、地元の山岳会に所属する現役バリバリの山ヤであるということ。
夏は谷川岳の岩場や地元越後の沢登り、雪の季節になるとバックカントリー・スノーボーダーに変身し、少ない休日を使っては、裏山ともいえる巻機山や駒ヶ岳を滑りまくっている。だから、大将との話は必然的に最初から山の話から始まる。
「にぎり寿し」と書かれた暖簾をくぐると、まず最初に「明日はどこの山?」と声が掛かり、私が「八海山だけど雪はどう?」と聞くと、「今年はちょっと少ないね~」と続き、その後、おたがいの最近行った山の話になる。
まるで野球やサッカーの話をするような極々日常的な、新橋の寿司屋で大将と客のサラリーマンが世間話をしているような軽いノリで、山の話ができる。山ヤにとって、こんな心地よい入店はあまりない。
ひとしきり山の話が落ち着いて、席に着く。ほのかに温かい人肌のおしぼりを使いながら、やっと「さて、なにを握りましょう?」となる。それがこの八千代寿司の大きな特色なのだ。
こちらの一押し定番メニューはなんといっても八千代巻。握りももちろん旨いが、大将が作る酒のアテで越後の酒を味わいつつ山の話しで盛り上がり、シメはこの八千代巻きが定番となる。
さらに八千代巻きはテイクアウトもできるので、宿に持ち帰り部屋での二次会にも活躍してくれる。たとえば、金曜日の夜など、都内で夕方まで仕事して東京駅発が18~19時台の新幹線に乗ると、越後湯沢で在来線に乗り換えて六日町着は早くても21時台となってしまう。八千代は一応21時30分がラストオーダーのため、少し微妙な時刻となるのだ。そんなときは電話で八千代巻きを注文しておいて、駅を降りたら八千代に立ち寄りテイクアウト。あとは素泊まりで泊まる宿のお部屋で遅い夕食が味わえる。そんな技を使えるのもまた通い慣れた八千代寿司だからこそ。宿に遅く着く仲間へのお土産にもよくさせてもらっている。
ひとつ残念なのは、日曜日が定休のため週末の下山後に立ち寄れないこと。しかし、これも山好きな大将の日帰り登山のための休みと思えば納得だ。だから、こちらにはいつも山に入る前泊でおじゃまする。
今夜の酒とアテ
八千代には「晩酌コース」というすばらしいメニューがある。日本酒小2本(または生ビール、酎ハイ、ジュース類各2杯のいずれか)、刺身、おつまみ小鉢2品、漬物、巻物のセットで2,530円(2023年3月現在)。今回は、清酒・金城山を合わせてみた。
寿司割烹 八千代
新潟県南魚沼市六日町2038-8
TEL.025-772-2251
営業時間:17:00~21:30(ランチ営業もあり)
定休日:日曜日
大将は三代目の早川清一さん。初代のころは料亭、先代の二代目時代は魚屋で、清一さんの代で寿司屋となり、今年で35年目。
八海山稜線で雪洞構築講習会
六日町に前泊、ときには後泊して、冬場に一番訪れているのが越後の霊峰・八海山だ。六日町八海山スキー場のロープウェイを利用すれば、真冬でも一気に四合目稜線まで行ける。
もっとも雪の多い年の1月~2月に行くと、雪があまりにも深くて、スノーシューを履いても身動きが取れないこともあるが、それも例年3月になるとほどよく雪も締まり、晴天率も多くなるので、スノーシューで歩き回るのにちょうど良い雪質となる。
条件の良いときには、八海山山頂稜線の最初のピークである薬師岳まで登ることもあるが、私がその八海山稜線での恒例企画として毎年実施しているのが雪洞構築講習会。コンディションが良いときには池ノ峰か漕池付近まで足を延ばし、スノーシューハイクを楽しみながら雪洞を掘る。
例年、八海山稜線は平均して2~3m程度の積雪があるので、雪洞も掘りやすい。その晩は自分が掘った雪洞に泊まり、文字通り雪のなかでたしなむ八海山での清酒・八海山の熱燗は格別。はらわたに染み渡る。
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