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こがねさんと銀さん |旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #4

ライチョウに一目惚れをして写真家への道を歩むことになったのだが、その一目惚れを揺るがぬものにした出会いがある。おそらくは彼らとの出会いがなければ「雷鳥写真家・高橋広平」が生まれることはなかったかもしれない。今回はその誕生のキッカケとなったひと組の番いのエピソードを紹介したい。じつはすでに私の写真展などでお披露目しているものなのだが、今回はフォトエッセイの場を借りて公開したいと思う。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「こがねさんと銀さん」

ライチョウと関わって早くも10年以上が経つ。その歳月のなかでも思い入れのある子たちがいる。「こがねさん」と「銀さん」。番いのライチョウだ。撮影活動初期のころに出会った二人に勝手に名を付けてシャッターを切らせてもらっていた。当時、彼らには数羽のヒナがいて、こがねさんは悪戦苦闘しながらも生存率がいくらか安定する生後1カ月まで育て上げていた。ちなみにオスは子育てには参加しない。縄張りを持つオスは皆、我が子が世に出てくるまでのあいだ、猛禽やテンやキツネなどの天敵の牙や爪に狙われ、ライバルのオスと戦い、命を賭して見張りをしているために子育てをする余力など残っていないのだ。オスは体を張ってメスを守り、メスは命をかけてヒナを育てる。それが彼らの営みである。

そんなある日、足を引きずる1羽のライチョウを目にした。信じたくはなかったが、こがねさんであった。さらに辺りを見渡してもヒナは1羽も見当たらなかった。その事からすべてを察した。捕食者に襲われたのだ。辛うじて生き延びた彼女の片足はいびつに曲がり、尾羽は散り散りに乱れていた。その後稜線も吐く息も白く染まり始め、私も山を下りなくてはならなくなった。こがねさんもなんとか命を繋いでいたが、手負いの身で過酷な厳冬の北アルプスを無事に越すことが出来るのか、甚だ疑問であった。それでも一握の望みを抱き、山をあとにした。

厳冬期の雷鳥は基本的にオス・メス各々で群を作り越冬する。オスは春の縄張り争いの前哨戦として、共同生活をしながらも日々小競り合いをし順位付けをしている。 メスは繁殖に備えて少しでも食料の多いやや標高の低い場所で冬を越す。番いで居る者もこの目で何度も確認しているが、それほど多くはない。

春。こがねさんの居た山へ戻る。 見たことのある雷鳥が小高い岩の上で見張りをしてい る。風貌からこがねさんの夫の「銀さん」であることがわかった。名前の由来は「いぶし銀」の銀。妙齢のオスである。不意に彼は飛び立ち、ハイマツの茂みの近くに降り立った。そこには足を引きずる1羽のメスが。こがねさんだ。 残念ながら、この年の彼女は子を成さなかった。しかし、野生動物が子孫を残せない状況においても番いを解消せず相方を労わりながら共に居る事実に、それまで私に植え付けられていた「動物は本能でのみ生きている」という概念が泡の如く消えていった。「私たちは好きだからいっしょに生きているの」並び歩くふたりの姿から、そんな言葉が聞こえてきた。

今回の1枚は私の組写真作品「こがねさんと銀さん」より、手負いの妻・こがねさんを振り返り心配そうに見守る夫・銀さんの図をお届けする。

 

今週のアザーカット

ありし日のこがねさんと銀さんの子供を描いた私のラフスケッチである。

 

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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