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人生においてクライミングをする意味|筆とまなざし#324

知人をとおして見つめたふたつの死。そしてクライミングをする意味を考える。

2月に突然病気で亡くなってしまった知人に線香を手向けるため、埼玉県を訪れた。クライミングが好きで、ときどき講習会にも参加してくださっていた。いつも明るく、講習をしながらもぼく自身が人生勉強をさせてもらうことが多かった。本人も「やりたいことは全てやった」と言っていたそうで、人生を謳歌されたことは間違いない。葬儀には山関係の友人がたくさん参列されたそうである。

知人宅を訪れた翌日、埼玉県飯能市にある河又の岩場に立ち寄った。ここは15年ほど前に一度訪れたことがあるだけで、今回で二度目。ほとんどなにも覚えていないが、取り付いたルートが全然登れなかったことだけは覚えている。それにしてもこんなにコルネが発達した岩場だったんだ。当時はそんなことなど気にも留めなかったのだろうか。石灰岩特有の鍾乳石が垂れ下がり、まるでタコのような形をしたところもある。15年が経ち、自分も身の回りの環境も変わった。けれど、岩は変わらずにそこにあるだけである。

別の知人から、お父さんが亡くなったと連絡があったのはちょうど埼玉にいるときだった。しばらくクライミングはお休みし、6月くらいから再開したいということだった。送ってくれた生前のお父さんの写真はとてもファンキーで、知人の面影が感じられた。

人生において、クライミングをする意味とはなんだろう。流行っているからやっている人もいるだろうし、グレードを上げることに生きがいを感じる人もいるだろう。さまざまな動機はあるにせよ、結局のところ人生を豊かにするためだということには違いない。それによって苦しむこともあるけれど、それもまた豊かさの一面なのだと思う。もちろん、その取り組み方によって豊かさの度合いが大きく違うこともまた事実である。もしかしたら、その豊かさの意味を探し、より大きな豊かさを求めて登り続けているのかもしれない。

帰宅した翌日、昼すぎまで仕事をしてから雨上がりの山へ向かった。3時間だけでも岩場へ行きたかった。濡れた苔を落とし、次に来たときには登れるように手筈を整えた。今週、時間を作ってまた来よう。その日が待ち遠しくて仕方がない。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

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