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代表作|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #9

写真に関して独学であることは間違いないのだが、山などで知り合った諸先輩の言葉や先人の遺した書籍から得た写真の知識や矜恃は確かにある。山岳という環境は必ずしも安全ではない。前の週に会って話していた人が次の週には永久に会えなくなっていたということも一度や二度ではない。因果な話だが、二度と会えない人からいただいた言葉というのは胸中に深く残る傾向があるように思える。今回はプロとしての矜恃みたいなものを意識しはじめた思い出に触れていく。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「代表作 ー何者であるかの基準ー」

今でこそ撮影の際は構図を考えシャッターを切ることができているが、ライチョウに出会い写真を始めた当初は溢れ出るパッションを抑えきれず、撮影三大禁忌のひとつである「日の丸」を考えなしに乱発しまくっていた。そういうものを撮っていると次第に自身の写真の出来に疑問を持ち始めていくもので、この自身の感性に対する問いかけは成長に必須であると思われる。

さて、私は特定の師をもたない。代わりに私自身のなかで先生と慕っているひとは面識のあるなしに関わらず幾人かいる。交流するなかで各先生の写真に対する姿勢やその作品を見て勉強し、もともと幼少期から培ってきた画力とマリアージュして現在にいたる。ただ残念ながらその先生方のうち何名かは先に旅立たれている。いまとなっては心の中で思い出を反芻することしかできないが、先人が遺してくれた言葉の数々は若輩の身には大変重たいものである。

 

その言葉の中には写真家として歩む上で、ひとつの物差しとなるものがある。夜、仕事を終えて大好きな焼酎のグラスを呷りながら普段は多くを語らない某先生が呟いたひと言。

「プロっていうのは、代表作をいくつ持っているかってことなんだよ」

つまり固有の代表作たるものをどれだけ持っているかがプロの写真家としての基準、ということだ。そして、私は心の師と定めた相手には従順という属性を持っているので、その教えに従っているところがある。

 

ただ、先生方の専門はあくまで山岳写真ないし自然写真。ライチョウの生態などに関してはあくまで自分の手で紐を解き、さらにカメラが自らの一部となるまで使い込み、そういったある意味で修行の日々を経て、初期の代表作が産まれた。

 

今回の一枚は「明日へ」。

登山道の真ん中を足を揃えて歩く親子。明日へ、そして未来へ元気に歩んでいって欲しいという願いを込めてシャッターを切った。ヒナも生後1週間を超えて羽の付きかたもいくぶんかしっかりしてきている。私の代表作としてはかなり初期のものだが、根強い人気を誇る1枚である。

今週のアザーカット

私の写真が採用された初めての紙媒体、カモシカスポーツ2010年カレンダー。これの8月の作品として「明日へ」が使われているのだが、山で偶然出会った人と話したところ「そのカレンダーの写真、切り抜いて枕元に飾っています!」とのこと。まだ雷鳥写真家と名乗る前のことであるが、こういったことの積み重ねが今の私を形成しているのかもしれない。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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