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彼・彼女たちの事情|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #11

稜線のお花畑などでは子育て真っ盛りの親子ライチョウの姿を見ることのできるこの時期。すくすくと育つ我が子と共に歩む母鳥が多いなか、子を為せず、あるいは失った者も少なからずいる。彼女たちのその後の生活はそれこそ様々なわけだが、今回はその一例を紹介したいと思う。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「彼・彼女たちの事情」

通常、山に入ってライチョウに出会えた場合、どんな状況であれその嬉しさに彼らに見惚れ、人によってはカメラを構えるものだと思う。詰まるところ、そこにライチョウがいればそれで満足……、これが普通のことである。そんな魅惑の存在の彼らであるが、当然のことながら彼らにも日々の生活がある。そこには喜怒哀楽があり、一羽一羽のドラマがあるわけである。

幾度となく、ライチョウの生後1カ月生存率の厳しさには触れているわけだが、野生という厳しい環境下では全滅ということもしばしばである。私たちが山で愛らしいヒナたちを目の当たりにする裏ではそういうことが間違いなく起きている。
第三者である私たちですら先日までそこに居た子らの喪失はつらく悲しい。それが当事者である母鳥にとって如何ほどのものかは筆舌に尽くし難いものがある。そんな深く癒しがたい気持ちを抱えながらも日々の生活は続く。

ある年の8月初旬。コマクサ咲く砂礫地に彼女たちは居た。
状況から察するに、少なくとも子育てはしていない。ひとつ大きく目を引いたのは彼女たちに付き添うオスの存在である。そのまなざしは彼女たちをいたわるかのように優しいものであった。そもそもこの時期のオスは繁殖期後の隠居生活をおこなっており、ハイマツの茂みなどに潜んでその姿を見せることは稀である。
そのようにひっそりと静かに暮らしているはずの彼が、白昼に身を晒し、なおかつ他の個体と共に行動するという目立つ行為をしていることの意味に思いを巡らせた。
おそらくは、彼女たちのなかに彼の妻がいて、その傷心の妻を含む仲間たちの身を案じて同行している……というのが私の見解である。
もちろん、彼らから直接その意見を聞けるわけではないので、これは私の推測でしかないのだが、彼らの情緒をもとにした臨機応変な行動なのではと思っている。

今回の一枚は以上のような情景を切り取った私の活動初期の写真である。
彼らとの付き合いもそれなりの長さとなったが、シャッターを切ってしばらく時を経ることによって、同じ一枚でも見方や理解度が変化している。当初この作品のタイトルはオスの行動から「イケメン」と付けていたのだが、その程度では済まされない「彼・彼女たちの事情」があるはずだと彼らの身になって思いを巡らす日々である。

今週のアザーカット

アザーフォトというよりも近況報告となるのだが、2019年の春から開始したものの昨今のコロナ禍の煽りで中断していた「長野県内全小中学校への写真集”雷鳥”贈呈計画」を先日から再開させていただいた。総数は500校以上あり、現状で300校弱まで進んでいる。

正直、私の勝手なエゴによる活動ではあるが、長野県の県鳥でもあるライチョウのことを義務教育の時代に自由に触れられるように……という想いから始めさせていただいた。
小さな一歩であるが、彼らとの共存の一助になれば幸いである。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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