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トタンに囲まれた小舎、ドアは異空間への入口「棒・斗胆(BAR・TOTAN)」 (山梨県富士吉田市)【グルメトラバース】#012

山に登り、麓の食を堪能することをライフワークとする、とある山岳ガイドの彷徨旅=グルメトラバース。
今回は富士山の麓、富士吉田にひっそりと居を構えるこぢんまりとしたトタンの小舎へ向かい、大人な夜を堪能する。

文・写真◎川名 匡

煌々と明るいコンビニの横に佇むトタンの仮小屋

富士吉田は年に数回は訪れる町。山の前泊で泊まるのは富士山駅(旧富士吉田駅)、または河口湖駅周辺となる。富士吉田がにぎわうのはズバリ富士登山の夏。8月いっぱいまでは富士登山でにぎやかになる。老若男女、夜のライトが山頂まで続き、恐ろしいと感じてしまうほどの登山者の数だ。渋滞で前に進めない(登れない)なんてことも冗談かと思うほどにある。

なので実は小生、夏には近づかないことにしている。なんと言っても山は静かに限る。

冬の富士山はすばらしい。しかし、ここでひとつやっかいなことがある。冬場はオフシーズンで前泊で飲める場所が極端に少なくなる。人は少ない方がいい。でも飲める場所は必要。というやっかいな爺さんなのだ。

ただし、これぞという店はなかなかなかった——。

そのトタン小舎とは唐突な出合いであった。普通は絶対見過ごすだろう。とくに車で通り過ぎれば視界にも入らない。

眩しい灯りの横にひっそりと佇むトタンの小舎

ただし、そこには幸運なことに煌々と明かりが灯るコンビニエンスストアがあった。コンビニの街灯は眩しいほど明るい。その横に、微妙に違う色調のパーツがパッチワークのように貼られた燻銀のトタン小舎があった。いわゆるバラック建て、仮小屋のイメージ。ここにバーがあるなんて、だれが想像できるだろうか。

しかし、一歩入るとそこはまさしく異空間。なのでこのドアは異世界への入口なのだ。

青いランプは営業中の印。ランプがついていたら入ってみよう…

純氷が生み出す至高のカクテル

バー・トタン。正式名称は「棒・斗胆」という。

そもそも「バー」には、お酒を飲む店のほかに「横に伸びた木」と言う意味もあり、つまりは長い木のカウンターを意味する。また、かつて酒場の入口に置かれた馬を繋ぐ棒(BAR)が、バーの語源となっているらしい——とはマスターの言。

なにごとにもこだわるマスター前田久一さんは、この店を始めて27年目となる。生まれたときから地元に住む酒好きな友人に聞いたが、店のことはまったく知らなかった(その友人の家と店はなんと徒歩5分の距離)。それほど目立たない店なのだ。というか、目立たないようにカムフラージュしているのかもしれない。

マスターの前田久一さん

マスターは東京の大学を出てから放浪の旅を続け、その後、地元に戻り実家の氷作りを手伝うが、製氷所で作る純氷(じゅんぴょう)に魅了される。高品質な純氷と一般的な氷の違いは氷の結晶体の大きさで、氷屋の氷は家庭用冷蔵庫や製氷機で作った氷に比べ、ひとつの結晶サイズが大きく規則正しく並んでいる。

また製氷機で作る氷に比べて不純物が少なく、時間も約72時間掛けてゆっくりと作るため、見た目も美しく固く解けにくい。まさに、酒の友にぴったりだ。

そして、彼は実家の純氷を使うバーを始めることとなった。まさに氷に魅せられた人なのだ。

その話を聞くと、無機質なトタンで囲まれた小舎は、氷の館にも見えてきた。

暖かな光が灯る氷の館

バーなので、料理の提供はない。ちょっとした乾き物などのアテと、メインはあくまでも氷。その氷にかけるシロップが……酒各種。それは夏でも冬でも変わらない。

カクテルの数が恐ろしく多く、何度か訪れているが、手書きのメニュー表を端から端まで読んだことはない。毎回、途中で諦めて「なにかおすすめを……」と言ってしまうのだ。

手書きのカクテルメニュー。中国茶も置いている

マスターはそれも心得ていて、オリジナルのカクテルも含めて、その場の雰囲気で作ってくれる。もっとも私は最近になってやっとウイスキーをたしなむようになったので、ゆっくりと氷を眺められるオンザロックが好物だ。

純氷ありきのオンザロック

会話をアテに酒が進む

バーのマスターは無口でいつも下を向き強面でなければならない。そう考えていたマスターは店を始めてからずっと寡黙を演じていたそうだが、最近になって気持ちが変わってきたそうだ。

そういえば、最初に訪れた数年前、ほとんど会話がなかったかと思う。前回飲みに来た時「あれ?マスターが話をしてる……」と思っていたが、今回それを聞いて納得だった。

とくに私が好きな旅の話が盛り上がる。全国各地の和風旅館と街食の話は私にとっても興味深く、途中からメモを取り出したくらいだ。マスターはとくに京都の食に精通。また、私もよく行く松本の話になると、知っている店も出てきたりして、相づちばかりうっていた。

間接照明オンリーで薄暗く、入ったばかりだとメニューも読めないほどだが、段々と目が慣れてくると独特な内装と各所にちりばめられた現代アートが見えてきて、「なんだここは……」という気分になる。

謎のアート

淡い照明の中でグラスの氷を回し、朴訥と話しだすマスターの声を聞く。この店は夜遅く行き、夜更かしするのが似合う。

今夜の酒とアテ

低温と高温で2度焼きを施した特別なオーク材の樽で、9年もの熟成を経たスモールバッチ・バーボン「ノブ・クリーク 9」。フルーティでリッチなコクのある味わいが特長だ。

ちなみに「ノブクリーク」とはアメリカのケンタッキー・ヒルにある小川の名前。

アテはクラッカーのカナッペをさりげなく。

棒・斗胆(BAR・TOTAN)

山梨県富士吉田市上吉田東2-5-38(富士急行線富士山駅から徒歩約15分)
TEL.090-1764-9173
営業時間:20:00~2:00
定休日:日曜日(祝前日の日曜日は営業)

雪の富士山でトレーニング

富士吉田から行ける山のルートとしては富士五湖湖畔のハイキングコースなどもあるが、この場所といえばやはり富士山。ただし私は夏山登山でなく、雪の時期の雪上トレーニングがメインとなる。

初冬や残雪期に、雪の急斜面を使ったピッケルやアイゼン、ロープワークなどのトレーニングを行なう。

若いころはあえて厳冬期にビバーク訓練をしたりしたが、いまは無理!

ロープで繋いでピッケル&アイゼンワークを確認
気を抜くと危険な急斜面だけにトレーニングも真剣

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PROFILE

川名 匡

PEAKS / 山岳ガイド

川名 匡

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

川名 匡の記事一覧

「K&K山岳ガイド事務所」主宰。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージⅡ。 登山歴45年、ガイド歴25年のベテラン。神奈川県・横須賀を拠点に各地の山を飛び回る。 山業界きってのグルメ通であり、下山後のうまい酒とメシが欠かせない。

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