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地中海に面した小さな街、フィナーレ・リーグレへ|筆とまなざし#349

イタリア北西部を代表する大きな岩場のあるクライミングの街。

「Greenspit」を登ってから3週間が経った。ぼくはいま、ジェノバにほど近い地中海に面した小さな街、フィナーレ・リーグレにいる。街はいくつかの谷に囲まれていて、その谷の側面に大小さまざまな石灰岩の岩壁が点在している。石灰岩のスポートクライミング黎明期から盛んに開拓が行なわれ、ルート数は4000本にのぼる。イタリア北西部を代表する大きな岩場である。

 オッソラの天気は一向に回復しなかった。天気予報と睨めっこし、重箱の隅をつつくように雨が降っていても濡れないルートを探していたが、それにもほとほと疲れた。目当てだったカダレゼのクラックはほとんど触れず、モチベーションのやり場を失っていた。山間部はどこも天気が悪い。それならばと、南を目指して地中海までやってきたのだった。移動時間は4時間ほど。それほど遠くはなかった。

 街を見下ろす場所に古城の跡があり、かつての面影を残す旧市街地は城下町となっていた。そんな古い建物が、いまはレストランやおみやげものの店、アーティストのアトリエになっていて、クライミングショップは何軒も軒を連ねていた。ここではクライミングが当たり前のように街の文化となっていて、いたるところでクライマーの姿を見かける。フィナーレ・リーグレはまさにクライミングの街なのである。

岩場のまとまったクッコ山にはクライマー向けのキャンプ場があり、その名もベースキャンプと言う名前だった。いちばん近い岩場までは徒歩3分。このキャンプ場を文字通りベースキャンプにし、もうすぐ1週間。クラックばかりだったけれど、ようやくへ石灰岩のスポートルートに慣れてきたところである。

 岩場もキャンプ場もヨーロッパ各国からやってきたクライマーで賑わっていた。1年間旅をしながらクライミングを楽しんでいるフィンランド人の一家。オーストリアからどデカいキャンピングカーでやって来た家族。1週間もいると顔馴染みの人も多くなり、また彼らが去るとまた新しいクライマーがやってくる。

 キャンプ場から徒歩数分のところに、キャンプ場と同じ家族が経営しているらしいバーとピザ屋があり、クライミング後にビールとチーズをひっかけて帰られるのは至福としかいいようがない。少しずつ秋が深まってきた地中海の西陽は眩しく、そして郷愁を誘う。ふと、子どものころに音楽の授業で習って好きになった「シチリアーナ」と言う曲を思い出した。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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