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根子岳・四阿山、菅平高原から周回ルート|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.3

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり! 
下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している本誌の連載、「下山後は湯ったりと」。

『PEAKS No.163』では、長野県の松川渓谷温泉「滝の湯」を訪ねました。今回は、バスやロープウェイをできるだけ使って標高を稼ぐ“水平志向”の山旅ではなく、垂直志向のルートで日本百名山の四阿山(吾妻山)と花の百名山の根子岳を歩きます。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

「しみじみとした情緒ある日本的な山」四阿山。

長野群馬の県境にまたがる四阿山(あずまやさん)。標高2,354m。群馬側では吾妻山(あずまやま)と呼ぶ地域もある。

四阿という一風変わった山名は、山の形が「あずまや」に似ていることに由来する。「あずまや」は、柱のみで外壁のない四方葺きおろしの小屋のこと。どこから見るのかにもよるのだが、信州長野側からはそう見えたのだろう。たしかに「あずまや」のように穏やかでどっしりとした山容だが、先人の想像力の豊かさにも驚かされる。

一方、上州群馬側では、なぜ吾妻山なのか。日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征からの帰路、現群馬側の鳥居峠で弟橘姫(おとたちばなひめ)を偲び「吾嬬はや(あずまはや)」(我が妻よ、ああ)と3回嘆いた。このことから、峠の先にそびえる山を吾妻山と名付けたという。

ただ、『日本書紀』で「碓日坂(うすいさか)」と記述されるこの地の特定には諸説あるようだ。かつて「碓氷峠」と呼ばれていた上記の鳥居峠のほか、長野県軽井沢町と群馬県安中市との境に位置する碓氷峠も候補のひとつだ。

そんな由来をもつ四阿山(吾妻山)は日本百名山の一座だが、槍・穂高や劒・立山といった横綱級の岳峰と比べると、知名度はとても及ばない。草津白根山と浅間山が両隣、ご近所にあるという境遇も影響しているのかもしれない。

とはいえ、登ってみるとじつにいい山だという。『日本百名山』で深田久弥は、「必ず登るべき山の一つ(中略)ピッケル・ザイル党には向かないかもしれぬが、しみじみとした情緒を持った日本的な山である」と記している。

 

▲平坦な鞍部の先に悠然と構える四阿山。「あずまや」のようにも見える。長野側、根子岳寄りの大隙間より。

 

のどかな菅平牧場から、まずは根子岳をめざす。

▲青空の下、草を食む牛たちがのんびりとすごしている。平和な景観にほのぼの。

四阿山への日帰りルートはいくつかある。なかでも水平志向の旅にうってつけなのは、群馬県嬬恋村からのアプローチ。パルコール嬬恋リゾートの嬬恋ゴンドラを利用すれば、一気に稜線上へ出ることが可能だ。ゴンドラ山頂駅から四阿山山頂まで往復約7km、高低差約400mという最短省エネコースとなる。

水平志向派としては本コースを選びたいが、残念ながらグリーンシーズンの運行は週末のみ(本山行は7月下旬平日)。また、嬬恋リゾートの駐車場から下山後直行予定の松川渓谷温泉「滝の湯」(長野県高山村)まで車で約1時間30分を要する。

そこで今回は、長野側の登山口、菅平牧場から根子岳を経て四阿山をめざす周回ルートを歩くことにした。

スタート地点は、菅平牧場管理事務所の駐車場。その先にある根子岳・四阿山登山口から時計回りに歩きはじめる。最初は緩やかな登り坂。左手に広がるのどかな牧場を眺めつつ、ゆっくりと標高を上げてゆく。ひと登りすれば、東屋のある展望台だ。

 

▲登山口から160mほど登った標高1,756mの地に建つ展望台。眺望抜群。

 

根子岳山頂を踏み、鞍部を越えて四阿山へ。

▲青空へと向かって延びる根子岳山頂への最後の登り。テクニカルではないが浮石に注意。

展望台からは、晴れていれば北アルプスのほぼ全貌を見渡せる。正面に立山・劒、左手奥に西穂高、右手には白馬岳、小蓮華山が連なる。根子岳山頂からも同様の景観をより高みから楽しめるはずなので、期待に胸ふくらませさらに標高を上げてゆく。

樹林帯をしばらく進むと、再び視界が開ける。少々ガレた道になるが、ここを登り切れば根子岳山頂、標高2,207mの大展望台だ。北アルプスはもちろん、先の展望台では見ることのできない富士山や八ヶ岳、北信越の山々を一望できる。爽快!

 

▲北アルプスを眺めるための展望台のような根子岳山頂。小さな祠は禰個岳(ねこだけ)神社。

 

▲根子岳山頂より菅平方面を望む。北アルプスの稜線を覆うように雲がかかっていた。残念。

360度の眺望をひとしきり楽しんだら、大隙間と呼ばれる鞍部へ向けて下りはじめる。途上、右(南)側が切れ落ちた箇所があるので慎重に。しばらく進むと、クマザサに覆われた鮮やかなグリーンの鞍部が眼下に広がる。その先には深い緑色に染まった四阿山。濃淡のある緑、青い空と白い雲、なんて心地よい! 思わず深呼吸を繰り返す。

クマザサのなかに最小限に敷かれたトレイルをゆっくりと進む。快適このうえない。だがこの先、大隙間から四阿山山頂まで300mほど登り返す。せっかく登ったのに……と、鞍部を越えるときにはいつも思う。でもこれもお山、そういうものだ。

 

▲根子岳山頂から大隙間へと続く稜線。右(南)側のガケに注意しつつ、四阿山を望む。

 

▲大隙間から来た道を振り返ると、青空をバックに鮮やかな緑に染まった根子岳が!

鞍部を抜けると道は一変、樹林帯へと入っていく。遠目には優しい山容の四阿山だが、実際にはこの先急登が続く。「ナメてました、ごめんなさい。六根清浄、六根清浄・・・・・」。そんなことをつぶやきながらひたすら登る。

辛い登りもいつかは終わる。菅平牧場への分岐に出ると、鳥居峠へと続く分岐までしばし平坦な道が待っている。この区間で、ひと休み。日本武尊が「吾嬬はや」と嘆いたという鳥居峠に思いを馳せ、再び山頂をめざす。

山頂手前の斜面には木段が設置されている。ここを登り、ちょっとした岩場を越えると、四阿山の山頂だ。

 

▲四阿山山頂手前の木段。さらにその先に岩場が現れる。ここまで来れば、あとひと息。

 

▲山家神社奥宮の建つ四阿山山頂。山頂先の三角点のある場所よりも約21m高い。

山頂でランチをとり、しばし休憩。その後は来た道を戻り、菅平への分岐を中四阿方面へ。信州の山々を遠くに見ながらのんびり進めば、道はやがて樹林帯へと入っていく。急な斜面や木の根が絡んだ少々歩きづらい区間もあるが、それも小四阿を越えたあたりまで。その先は爽やかな高原エリアの散策となる。

終盤区間は緩やかな道のり。気分は一転、ハイキング。清々しい渓流がトレイルを横切り、これを渡ると間もなく菅平牧場に到着する。

▲菅平への分岐を曲がり、小四阿・ダボス牧場登山口方面へ。視界のきく尾根道が心地よい。
▲花の百名山、根子岳のお隣だけに、四阿山にも可憐な花が随所で見られる。
▲ブナの原生林やシラカバの樹林帯が広がる、清々しい散策区間。これも四阿山の魅力。
▲澄み切った水に触れると、とても冷たい。暑かったこの日、顔をジャブジャブ洗った。

「しみじみとした情緒、日本の風情」を味わい尽くす。

のどかな牧場を発し、優美な山容を結ぶ穏やかな鞍部を抜け、急峻の樹林帯や岩場を越えて山頂をめざす。そんな今回のルートは図らずも垂直志向となったが、“日本ならではの山登り”をたっぷりと味わえる道のりだ。

横綱級の日本百名山やご近所両隣の山のような派手さや人気はない。
「ピッケル・ザイル党には向かない」が、まさに「しみじみとした情緒を持った日本的な山」だった。

さて、このあと直行するのは、長野県高山村の松川溪谷温泉「滝の湯」。
奥深い山中の渓谷沿いに湧く湯は、戦国の世から人々を癒してきた名湯だという。
四阿山同様、きっと情緒ある日本の湯が迎えてくれるに違いない。

コースデータ 四阿山(吾妻山)

コース:菅平牧場 根子岳・四阿山登山口~展望台~根子岳~大隙間~菅平への分岐~鳥居峠への分岐~四阿山~鳥居峠への分岐~菅平への分岐~中四阿~小四阿~ダボス牧場(小四阿)登山口~菅平牧場管理事務所 駐車場
標高:2,354m
コースタイム:約6時間30分
距離:約9.5km

下山後のおすすめの温泉 長野県/松川渓谷温泉「滝の湯」

▲ “信玄の隠し湯”のなかでも秘湯中の秘湯とされた松川溪谷温泉「滝の湯」。

松川溪谷温泉「滝の湯」

長野県上高井郡高山村奥山田3681-377
TEL.026-242-2212
www.takinoyu.jp
入浴時間:日帰10:00〜16:00
(最終受付15:00※時期により営業時間等の変更あり。最新情報はHPまで)
定休日:月曜・木曜
入浴料:日帰り¥800(大人)
泉質:含硫黄-カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(第一源泉)、単純硫黄泉(第二源泉)
アクセス:菅平高原牧場登山口より車で約50分

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

山本 晃市の記事一覧

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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