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絵を描くように撮るということ|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #19

ライチョウの写真を撮る際は、大きく分けて作品として撮影する場合と状況証拠や記録のために撮影する場合がある。記録用としては遭遇日時や場所の確認あるいは痕跡の記録を目的としている。対して作品撮影のときは私の脳内にある構図フォルダからその瞬間に実現可能な構図を瞬時に引っ張り出し、理想を再現するという作業が行なわれている。このようにして生まれた作品のなかから今回はより「絵」に近いものを紹介したいと思う。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「絵を描くように撮るということ」

じつはそもそも私は物心ついたときから学生時代までは絵描き志望であった。生まれ育った地元の苫小牧はいわゆる工業港がある地域で、郊外に行くとコマツなどの重機メーカーの基地みたいなところがいくつもあって、未就学時代から父親にせがんで連れていってもらい、重機の逞しい油圧シリンダに興奮しながら何度もスケッチをしていた。

油圧シリンダ萌えはロボットアニメ好きへと進化し、それの絵を描いたりプラモデルを作ったりと次第に美術・技術の基礎となるものを自分なりに蓄積させていった。ちなみに現在は立派なガ○ダムオタクである。

それはさておき、中学では美術の課題を他人の3倍こなし、高校でも手先の技術を学ぶべく工芸科の学校へ進学、そして色彩感覚を自分なりに高めるために草木と触れるべく造園科の専門学校の門をたたいた。その後、デザイン関係の会社への就活に挑んで最終面接まで漕ぎ着けるが、当時まだPCの取り扱いが不得手という理由で落選。絵とは関係のない理由で選考に落ちるという腑に落ちない挫折を味わう。それ以後は絵描きの道をあきらめてあれやこれやと生きてきたのだが、夢破れて約10年、ライチョウと出会い、はじめてカメラを手に取ったわけである。

写真というのは撮りたい画角を指定して撮影機器のシャッターに該当するものを任意の瞬間に押すことによって、その瞬間のその構図の記録を残すものだと認識している。対して絵というのは、目で見たものや思い浮かべたものを脳内で処理した後に、主に手に持ったペンや筆などを使用して紙などの媒体に描くことだと思っている。

前条のとおり、多少独特な変遷を辿ってはいるが私の根っこは絵描きである。つまりはカメラを用いて写真を撮るという行為をとってはいるが、私にとってのカメラはペンであり筆である。

新雪が降り積もった草地を見下ろせる高台に立つ。眼下には純白の冬羽に換羽を済ませた1羽のライチョウが雪をかき分け草を食んでいた。風はそれほど強くはなく、ゆっくりと柔雪が舞い降りている。

不意にある見慣れた所作というか空気を出しはじめる。つまりは「これから飛びますよ」のサインだ。私の使っている機材では飛んでいる彼らを捉えるのは難しい。いわゆるオートフォーカスが迷子になってしまうからだ。すばやくマニュアルフォーカスにシフトしつつ、周りの風景を加味し飛翔曲線を予測しその瞬間をファインダー越しに待つ。……今。

今回の一枚は、いまだ無題のままではあるが白く染まる草地の上を舞うライチョウの写真。なかばモノクロームのような空間で撮ったため、水墨画のような雰囲気を纏った作品に仕上がった。一般的にはどうしても寄りのキャッチーな作品が好まれると思うのだが、撮り手の私としては実はこういうテイストの作品が好みだったりする。

 

今週のアザーカット

本投稿が公開されているであろう12月11日には無事に終了していると思いますが、去る12月8日放送のNHK長野放送局特番「撮るしんスペシャル」でのスタジオ出演、12月9日開催の金沢動物園での講演会におきまして、視聴あるいは参加していただいたみなさま、この場を借りまして改めて御礼申し上げます。
引き続き、緑書房さんから発行の「雷鳥カレンダー2024」も好評発売中です。ぜひ来年のお供にお迎えしていただければと思います。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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