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ちがう、こっちじゃない|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #22

厳冬の北アルプス。どことも知れない、奥山のさらに奥のおそらく誰も見向きもしない雪深いとある場所。雪を掻き分け、ひたすらさまよった末に探り当てたライチョウの越冬地を今日もゆく。生息地へのインパクトや撮影への阻害などを考えて、基本的に私は撮影地を公開していない。諸般の事情で例外的に公開することもあるが、デートの邪魔は極力ないほうが良い。ただ、いくら隠密に徹しても人の目につくことはあるのであった……。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「ちがう、こっちじゃない」

前条のとおり、私がライチョウを撮影している場所は非公開である。撮影場所が公開された稀少な被写体の住処などがどうなるかは想像に難くなく、概ねモラルを捨ててきた一部の撮影者に蹂躙されることになる。動物ではないが、つい先日も高ボッチという長野県の景観地で樹木の不法伐採案件が発生した。人の口に戸は立てられないというのは世の常、大切なものを守るには時として徹底した情報管理も必要である。

ついでを言うと、私にとってのライチョウと共にすごす時間は熱烈に情愛をそそぐ相手との逢瀬のひととき、そのものである。ゆえに同じ空間に他者がいるという状況は極力避けたいことである。

またある程度以上の雪山経験を積んだ登山者ならば問題ないはずだが、なんだかんだ言っても厳しい環境に身を投じなければならない。先日も参考予定を立てていた日の天候予報にて、風速25mとあったので予定変更をしたところだ。気温も前日までと比べて高く、場合によっては雪崩の確率が上がる状況である。雪崩に関しては地形と植生を把握していればほぼ回避が可能だが、このように臨機応変に危険を予測して対応できるようでないと、最悪の場合、帰ってこれないこともあり得る。個人的な見解だが、冬山に登るなら多少臆病なほうが良いのではと思う。

2024年に入り、残念なことではあるが早々に山岳遭難の記事を幾度か目にすることになった。なかには山岳ガイドの方もいたらしく、経験値があっても事故に遭うことがあるのは自然相手のことであるので致し方ないことかもしれない。それこそ面識があるわけではないので詳細は本人のみが知るところではあるのだが、明日は我が身と戒めて山に足を踏み入れるほかない。

この日も愛しのライチョウに対面すべく、ひとり、雪を漕ぎながら雪原を移動していた。前日までの荒れた天候が嘘のように空は晴れ渡り、風も穏やかで厳しい紫外線には注意をしなければならないが、探索には良い日であった。緩やかな斜度の雪原、いくつも続く尾根筋を横断していく。上方へ行くほど傾斜がキツくなる地形だったので、そういった場所は雪崩の可能性が高くなる。幸い私の目的地は危険な方向ではなかったので、黙々と歩を進めていった。

尾根筋を乗っ越して視界がひらけると、見覚えのある輪郭が目に飛び込んできた。しかもふたつ。ある程度の距離があったが、なかば自動的に雪面から頭だけを出すライチョウを補足する。余談であるが、街中で歩いていても視界のなかに入ったライチョウとおぼしきグッズなどには瞬時に反応することができる。

話が逸れたが、彼らへアプローチするべく身を伏せながら様子をうかがう。そうこうしていると、招かれざる気配が背後……、いや上空から迫ってきた。

山行途中から気にしていたのだが、前日までの荒天で遭難した登山者を捜索するべく県警のヘリが遠くを飛んでいた。さすがは山岳遭難の救助を日頃からやっているプロ。広い雪原に「横たわる」人影を察知したのだろう、そのヘリの動きは要救助者を探す挙動そのものである。

ライチョウを目の前にして静かにしたい私。助けを求める人を探す県警ヘリ。お互いの思惑がすれ違うなか、ヘリの爆音のなか私の声が届くわけもなく、仕方なく「ちがう、こっちじゃないー!」と必死にジェスチャーをするのであった。

どうやら助けが必要ないとわかってもらえたらしく、その場を去っていく県警ヘリ。幸いライチョウさんたちはその場に留まってくれていた。さて、撮影開始だ。

今回の一枚はヘリの爆音もものともせずに埋まっててくれたライチョウさんたちの図。撮影し始めると少しは興奮していたのか、もう1羽のオスが埋まるもう一方のオスに喧嘩を仕掛けはじめた。撮影時のエピソードが印象的すぎたので副題を見て「?」と思った人もいたとは思うのだが、愛嬌と捉えていただければ幸いである。

 

今週のアザーカット

本文にてライチョウの捕捉能力に少し触れたのだが、街中で偶然補足し我が家にお迎えしたライチョウさんである。某ショッピングモールのなかを歩いていると不意に私の「ライチョウセンサー」が反応した。雑貨屋さんに並ぶいろいろなグッズのなかに白くて丸いものが飛び込んできたのだが、まさか下界でこのセンサーが働くとは思っていなかった。逆にどこでもこの機能が働くことがわかったことは自分にとっても僥倖であった。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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