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ベトナムを旅しながら思い起こされたベトナム戦争の写真|筆とまなざし#360

ベトナム戦争を写した沢田教一の写真と、この土地の歴史。

船乗り場へと向かうバスの車窓からは滔々と蛇行しながら流れる川が見えた。東南アジアらしい森がどこまでも続いている。湿潤な空気を纏ったどこかモノクロ調の風景。どこかで見たような気がした。記憶をたどるとベトナム戦争を写したモノクロ写真の風景そのものだと気づいた。今から50年前まで、ここで熾烈な戦闘が行なわれていた。ぼくはベトナム戦争をリアルタイムでは知らない。けれど、ベトナムと聞いて真っ先に思い浮かぶのがベトナム戦争である。

「ベトナムといえば、沢田教一の写真を思い出すなぁ」

日本を経つ前、父親がそう言った。

ベトナム戦争を撮影した報道写真家、沢田教一。なかでもピューリッツァー賞などを受賞した「安全への逃避」が有名である。1970年、カンボジアを取材中(ベトナム戦争はカンボジアやラオスにも拡大した)に襲撃され、34歳の若さでこの世を去った。

また、数年前に沖縄を訪れた際に米軍に従軍してベトナム戦争を取材した石川文洋の写真展に行ったことがあった。沖縄出身の写真家が撮影したモノクロ写真に強い衝撃を受けたことを覚えている。1965年からアメリカが軍事介入したベトナム戦争。多くの米軍の爆撃機が沖縄からベトナムへと飛び立ち、戦争は泥沼化していった。1974年にアメリカ軍が撤退、1976年にベトナム社会主義共和国が建国された。

大通りからとても大型バスが通れそうもない未舗装路に入ると、バスは小さな船着場に到着した。バスを降りると食べ物を袋いっぱい持ったおばさんがやってきた。試しに筒状のお餅のようなものを買った。中に入っている黄色いものはさつまいもの餡だろうか。控えめな甘さが素朴で美味しかった。

海の向こうには手の届きそうな近さにカットバ島が見えた。石灰岩が侵食されたカルスト地形で、急峻な岩峰が独特の島影を作っている。やがて対岸から小さなボートがやってきた。ボートを降りたのはほとんどが欧米からの観光客だった。さすが世界自然遺産に認定された観光地である。そしてこれからカットバ島に向かうのも、ぼくら以外はほとんどが欧米人だった。

ベトナムを訪れる日本人として知っておかなければいけないことは、大平洋戦争時、ベトナムを占領していたのが日本だということだ。1940年、日本軍が北ベトナムへと武力進駐する。その際に上陸したのが、ここハイフォンの港だった。

目の前に広がる風景と、いまこの場所を訪れる人々の姿と、この土地に刻まれた歴史が、湿潤な風のなかで交錯する。緑茶色の凪いだ水面を小さなボートはカットバ島へ向かって進む。逆光を浴びた船が小さな影となって穏やかな海に浮かんでいた。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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