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幻の【いちごDAIFUKU】を求めて|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #24

おかげさまでこの連載も一周年を迎えることとなった。本文の書き方を極力「~である」調でとおしている都合上、硬めの文章になってはいるが、私の胸中としては「いつもご愛読ありがとうございます!」という極めてフランクに明るく御礼申し上げているところである。今回紹介する写真は一周年ということで少し特別なものを用意させていただいた。解き明かそうにも解き切らせてくれないライチョウの生態の一端を紹介したいと思う。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

「幻の【いちごDAIFUKU】を求めて」

2017年に自費出版した高橋広平写真集『雷鳥』。
ライチョウの丸一年の生態をエッセイとともに春から順にまとめた写真集なのだが、冬のパート中にてひとつの研究成果を記載している。まれに見かける白羽の部分がほんのりピンク色に染まるライチョウ。学術研究者もどうしてなるか知らないこの謎の現象を解き明かすべく、冬の北アルプスへと身を投じた。
以下は私の研究成果のひとつとして写真集に掲載したものだ。長文だがご覧いただければ幸いである。

「 To Be Continued . . .” ICHIGO DAIFUKU ” ? 」
これは、2013年に開催した初個展の際、会場内のキャプションに私が記した言葉である。周りの雪の色と比べて、わずかにだが、明らかにピンク色に染まる雷鳥を目撃してから、この謎の現象を「いちごDAIFUKU現象」と仮称し、自分なりに調べてみようと、以前よりも積極的に厳冬期のフィールドに足を運ぶようになった。
当初の私の予想した現象の発生条件は、光(太陽光)の反射・屈折によるものとしたが、数回に及ぶ現象の目撃は、いずれも曇天に起きていたことから、この可能性は低くなった。
次に着目したのが、確認時の「体感温度」である。我々ヒトは、寒い場所に行くと肌の露出面(頰など)が赤くなることがある。これは体温を一定に保とうと皮膚下の血管が拡張されて、血流が促進されるために起こる生理現象であるが、鳥類でも起こりうる現象だと思ったのだ。この現象を意識し、ファインダー越しに覗いた某年11月中旬、雷鳥の羽はまだ秋毛が多少残った状態であったが、現象を確認することができた。また、展示中の12月下旬に撮影した写真でもこの現象が確認できる 。ほかにも暗めだが、ややピンク色を帯びたケースを厳冬期の 1月下旬 に確認している。
11月と年間でももっとも寒いと思われる1月下旬では、当然気温差があるのだが、その場にいた感覚は、強風が吹くなどの条件もあり、非常に寒かったことが共通する。また1月下旬のケースでの現象は、 およそ10分に満たない時間であったと記憶している。これは雪中に潜航状態であった雷鳥が突如として浮上したことで、雷鳥に急激な体感温度差が発生し、血管拡張したあとに体温が安定して紅潮が収まるまでの時間だったのだろうと推測する。(雪中温度0°C前後、外気温マイナス15〜20°Cの状況)

これらの現象に遭遇したときのことをまとめてみると、
・体感的に極めて寒い日
・雷鳥自体に「体感温度差」が発生しうる状況
・時間はおよそ5〜10分
・雷鳥自体のコンディションによって色の度合いが異なる

つまり「寒くて体が赤くなって、羽毛や羽が白かったから透けてピンク色に見えた」というのが、現時点での私なりの解答である。
今後、機会があれば研究者の方々と科学的な検証をし、より正確な解答を導き出せればとも思っている。なにしろ彼らの生態は未だ多くの謎に包まれているのだから。
長文の最後に私の欲を付け加えさせていただくと、この「いちごDAIFUKU」と仮称した現象が人々に広く伝わって、雷鳥の魅力に花を添えることができれば、表現者として大変幸せなことだと思っている。

以上が以前に私が独自に調べたライチョウの生態の一幕である。
私の経歴上、大学などに属したことがないため論文の書き方などは存じ上げないのだが、ある意味私なりの論文みたいなものである。

潜り込んだ厳冬の北アルプスの深部。ヤマを張っていたポイントにどこからともなく羽音が聞こえる。次の瞬間、ふたつの白い物体が目の前に飛び込んでくる。その姿は純白の……と思いきや、うっすらと優しい赤みを帯びていた。

今回の一枚は、身を刺す冷気の中、幾度も試行を繰り返した結果に巡り合えた「いちごDAIFUKU」の御姿。しかもつがいである。まさに棚から牡丹餅……いや、大福である。
本当に寒い状況が減りつつある昨今、これもまた「幻の姿」となり果てないことを切に祈るばかりである。

 

今週のアザーカット

今回のいちごDAIFUKU検証結果を載せている私の写真集「雷鳥」ですが、じつは2019年の春から少しずつ長野県内の全小中学校に一校一冊寄贈するべく遅々な歩みではありますが順次贈らせていただいております。コロナ禍に邪魔をされ、ほんとに道が長くなかなか終わりが見えないのですが、現状、このマップの示す感じで進んでおります。あくまで本人が確認用に使っているものなのでわちゃわちゃしてますがお許しください。

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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