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霧中邂逅|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #28

1年の四半分を経て多くの山小屋が冬眠から目を覚ます。このエッセイが公開される前の週には半年ぶりに定宿へお邪魔しているはずである。寒さも厳冬期と比べ緩くなり、なおかつ宿泊まりなので今度の山行はかなり快適である。ちなみに厳冬期の雪山をやらない登山者でもこの小屋開け時期の最速のタイミングであれば、ギリギリでほぼ冬羽のライチョウに会うことができる。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平

霧中邂逅

天候が悪いほうがライチョウとの遭遇率はあがる。もっとも「悪い」という基準は人間側の都合によるものなので立場の違いでモノの見方は変わるものである。正直、この時期の悪い天候というのは人間側としてはホントに都合が悪い。キンキンに冷えた厳冬期ならば空から舞い降りてくる水分は結晶化して雪となって降ってくる。つまりは固形。いっぽう春になり多少気温が上がってきたこの頃は、場合によっては雨になり最悪のパターンとしてはみぞれである。払えば落ちる雪に対して雨やみぞれはウェアや機材をことごとく濡らし、風が吹けば低体温症の危険も高まる。

ならばライチョウの場合はどうかというと、正直いいこと尽くめである。
彼らの処世術の基本は「他者に見つからないこと」である。食物連鎖において捕食される側に立つ彼らにとって他の生きものに見つからないことほど安心できることはない。ただ、これから始まる繁殖期における縄張り抗争においてはヒートアップするあまりに周囲への警戒を失念し、猛禽などの捕食者に襲われる可能性が増えてくる。猛禽類はその凄まじい動体視力を用いてライチョウを狙う。このため、霧などの視界が悪くなる気象状況においては襲撃される危険が格段に少なくなるのだ。ライチョウの生息環境では聴覚で獲物を捕捉するフクロウの類はいないため、視界さえ悪ければ安心してひらけた場所に出てくることができるのである。もっとも、快晴ドピーカンのなかでも元気にケンカをしている肝の据わった連中も割といるのだが、それはそれである。

ライチョウが生息している山域のなかでも、年度始めの4月に一般の人がもっとも早く入山できる某所。ここは生息数もかなり安定していて遭遇率も高い。ゆえにガチ登山をしないであろういわゆる「鳥屋」の人たちも、たくさんライチョウを撮影しに訪れる。良いとも悪いとも言えないが、さながら富士山を前に横並びになっているカメラマンのようになって彼らにレンズを向けている群衆もちらほら見かける。

私はというと、群れで行動することが性に合わないのでそういう現場には関わらず、独り静かに彼らと向き合える場所と個体を探す。この山域を利用するようになってまだほんの数年であるが、私なりの撮影に注力できる場所を見つけ出している。ついでに言うと、個体調査のための「足環」を装着されている子は残念ながら撮りたくないので、言い方が難しいのだが「無垢の個体」を探して撮影の相手をしていただいている。それこそこちらの勝手な願望であるが、野生動物である以上、被写体としてシャッターを切る相手に人工物が付いているのは嬉しくない。個体差別をしているわけではないが、そこはこだわりと言うかロマンみたいなものを追求したいがゆえの行動である。

この日の天候は濃い霧。少し湿気が多いためレインウエアの表面に細かい水滴が付着する。まだマイナス気温になることもあるが、表面がザラ目のウィンタージャケットよりもこちらのほうが水を捌くことができるので、この雪とも雨ともつかない微妙な時期は、週間天気予報を参考にアウターを選択している。

自分なりに定めたポイントを順に巡回していく。周囲の地形や雪から顔を出すハイマツ群が当座の目印になるが、かなり濃い霧に視界およそ10mの状況になる。ところにより小さなクレバスがあるので油断せず慎重に歩を進める。
不意に聴きなれた羽音と鳴き声が聞こえる。その方向へ目を向けると視界の利く中に2羽のオス鳥が舞い降りてきていた。

今回の一枚は視界10mの真っ白な霧の中に現れた2羽のオスライチョウの図。
突如として現れて、ひとしきり鳴き合い、そして再び霧の中へ消えていくふたり。視界の利かない霧の中は、縄張り争いのはじまったオス鳥たちの喧騒で思いの外にぎやかになる。己が血を残すため、日々彼らは鎬を削るのだ。

 

今週のアザーカット

このエッセイが公開される今週4月27日からおよそ1カ月間、横浜市立金沢動物園にて企画写真展をさせていただくことになりましたが、その前日の26日にウチのDAIFUKUさんが表紙になったライチョウ本が発売となります。

中央アルプスを舞台に繰り広げられる「ライチョウ復活作戦」を描いた山岳ジャーナリスト・近藤幸夫さん著の『ライチョウ、翔んだ。』が全国の書店に並びます。本文中に私はまったく出てきません(笑)が、ライチョウの写真で本書を彩らせていただきました。さまざまな人たちが彼らを護るために活動していますが、その一幕を皆さんもご覧になってみてはいかがでしょうか。

横浜市立金沢動物園の詳細はこちら

▶過去の「旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺」一覧はこちら

 


 

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PROFILE

高橋広平

PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家

高橋広平

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
Instagram : sundays_photo

高橋広平の記事一覧

1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。
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