蒼天を舞う|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #29
高橋広平
- 2024年05月13日
近ごろ「もしかして……」と思い、知り合う人たちにライチョウの認知度を探っていたりするのだが、どうやら世間一般でのライチョウのそれはそれほど高くないらしい。私としては意外な結果なのだが、これが365日何をしていようが頭の中のどこかしらでライチョウがかならずリアルタイムで生息している私の認識との差なのだろうと、いまさらながら知った次第である。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
蒼天を舞う
2007年の5月某日に初めてライチョウと出会い、日数換算で6200日を優に超えて脳内と胸中に彼らが棲みついてしまっている私であるが、その出会いをキッカケに写真をはじめて現在に至る。もともとインドアの美術畑で育ってきた都合上、その愛すべき対象を描写するにあたり、ただならぬこだわりがどうしてもつきまとう。
以前、なにかの折にライチョウに出会った私がその近くにいたいがためにサラリーマンを辞め、生息地に建つ山小屋に務めていたことは紹介したと思う。そしてその折に出会い、お世話になった山岳写真の先生に言われた「写真家としての矜恃」みたいなものが私の作風にも色濃く反映されている。
先生いわく「写真家っていうのは、いくつ”あいつが撮った写真”だとわかる作品を持っているかで格が決まるんだよ。」と。
ライチョウを撮影し、発表したり写真集にまとめて世に出してきた人というのは、じつはモノクロの時代から複数人いる。私も資料として古書店でみつけてはコレクトして何冊かは手元にあるのだが、一様に言えることがひとつある。
先人の方々に難癖をつけるつもりはまったくなく、それこそフイルムやガラス甲板の時代からやってきた写真の先駆者の皆様には敬意しかないのだが、そのひとつの事というのは……「撮り手の名を伏せると誰が撮ったかわからない作品」だということである。
ライチョウという生きものは前条のとおり一般的にはまだまだニッチな扱いだが、こと山岳においてはアイドル的な存在である。山に訪れてなおかつ撮影機器をもっている人ならば出会えばほぼほぼ撮影するであろう。実際、SNSなどをはじめメディアにおいて登山関係のネタのなかでライチョウを挟む人は結構いる。つまりはその界隈においては比較的多くの写真が世に出ていることになる。
だが、ひと目それを見て誰が撮ったか見当のつくものはどれほどあるだろうか……。正直、私は自分が撮影した作品以外でそれと分かるライチョウの姿を写した作品を見たことがない。唯一の例外として写真家・水越武先生の写したライチョウたちがあるくらいだ。水越先生の写しだす作品は自然への深い理解とともに、じつに網羅的に表現されていることもあり、正直比較対象に出すこともおこがましい。つまりは番外である。
その最上位の畏敬を持っている方から言われた提案を、本当に恐れ多いことではあるのがひとつ反故にしていることがある。その提案というのが「一度、ライチョウ以外のものを撮ってみてはどうか?」というものだ。
おっしゃっていることはよく分かる。広く見識と理解を深めた先生の言うことなのだから間違いはないだろう。それこそ尊敬する方からの提案ならば素直に飲むのが定石である。だがしかし、私はこの提案を現在のところ飲んでいない。正しくは私の場合は飲めないのだ。
私がライチョウを写すのは内から湧き上がる彼らへのパッション(情熱・激情)があるからである。彼らを知り、彼らをいかに魅力的に表現するかというためにシャッターを切っている。そして非常に融通が効かないためにライチョウ以外に対してそこまでの熱が生まれないのだ。ゆえにライチョウと関係のないものは、技術的には上手に撮れても本格的には手を出すつもりはない。
それこそ野鳥全般や動物写真全般をこなす器用なカメラマンは数多いるとは思うが、そういう「いろいろ撮っている被写体のひとつとしてのライチョウ」という撮り手には届かない作品を撮っていると自負しているし、これからもそうしていく所存だ。というか「雷鳥写真家」という肩書はそうした唯一無二のこだわりから成り立っていると思っている。
さて、今回の一枚は活動初期に撮影したにも関わらず多方面で活躍している私の代表作のうちのひとつ「蒼天を舞う」である。
それこそ彼らと出会ってまだ3年という浅い日に撮ったものであるにも関わらず、いまだ現役最前線であちこちで普及啓発をしているウチの営業部のエースのひとりである。
補足として、専門書の表紙や貴金属アクセサリーのデザイン、直近では某有名コンテンツの広告デザインの一部として採用されている。ちなみに、我が家での愛称は「JAL」である。※いわゆる鶴丸マークから。
「空の青さ」を知るために、これからも私は井の中の蛙でありたいと思う。
今週のアザーカット
先に触れた「某有名コンテンツ」の広告デザインの一部に採用……、というのがコレでございます。日本が世界に誇るロボットアニメ・ガンダムの最新劇場作品『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の地域限定広告の一部にデザインとして採用されました。劇中ヒロインのキャラの上で羽ばたくライチョウ。私も重度のガノタを公言しておりますが、その公式作品の末席にごいっしょできたことに大変喜んでいるところです。(※機動戦士ガンダムSEED FREEDOM公式ホームページより抜粋した画像を使用しております)
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo