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乗鞍岳 布引滝

乗鞍山麓・五色ヶ原の神秘の森を歩く|山本晃市の温泉をめぐる日帰り山行記 Vol.6

温泉大国ニッポン、名岳峰の周辺に名湯あり! 
下山後に直行したい“山直温泉”を紹介している本誌の連載、「下山後は湯ったりと」。

『PEAKS No.166』では、名湯が集積する奥飛騨温泉郷のなかでも、もっとも古い歴史をもつ「平湯温泉」を堪能しました。
今回はその南にあたる乗鞍岳主峰、剣ヶ峰をピークハント! ……ではなく、もちろん今回も“水平志向”で。めぐるのは乗鞍山麓に広がる、五色ヶ原の森のネイチャートレイルです。

多彩な表情をみせる植生、木々の循環や生命力、伏流水がつくり出す渓流と瀑布——。
専任ガイドの案内とともに、神秘的で不思議な感覚に充ちた森を散策します。

 

山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 7月号(No.166)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。

編集◉PEAKS編集部
文・写真◉山本晃市(DO Mt.BOOK)

乗鞍山麓に広がる希少なフィールド

北アルプスの最南端、標高2,000~3,000m級の23もの峰々から成る山岳地帯。その総称が乗鞍岳だ。主峰は標高3,026mの剣ヶ峰。太平洋側と日本海側に本州を分ける分水嶺上の最高峰でもある。剣ヶ峰を目指すのであれば、畳平の乗鞍バスターミナル(標高2,700m)から往復わずか3時間ほど。短時間で登頂できる3,000m峰として多くの人が訪れる人気のルートだ。

乗鞍バスターミナル 畳平
▲畳平の乗鞍バスターミナル全景。前方には前山から魔王岳へと至る稜線が横たわる。
乗鞍岳 肩の小屋 展望
▲肩の小屋手前より乗鞍岳を望む。左のピークが剣ヶ峰、中央は蚕珠岳(こだまだけ)、右が朝日岳。
乗鞍本宮神社
▲剣ヶ峰手前のガレ場。狭いスペースの山頂の一角には、乗鞍本宮神社が建つ。

だが、乗鞍岳の魅力は剣ヶ峰へのピークハントだけではない。23もの峰々の頂から裾野にかけて、7つの湖沼と8つの平原が点在し、神秘的な森を形成している。

今回の旅では、そんな乗鞍岳山麓に広がる五色ヶ原の森を散策したい。最高標高地点となる剣ヶ峰を踏むことのないコースだが、ピークハントとはまた違った魅力にあふれている。コースはいくつかあるのだが、アップダウンがほとんどない「水平志向」の旅にうってつけのコースにおじゃましようと思う。

五色ヶ原の森——。専任ガイドの案内で行く深山幽谷の世界

五色ヶ原の森は、岐阜県高山市の条例により専任ガイドの同行が義務付けられたフィールド。一日当たりの利用人数制限、登山道や山小屋の設置を最小限にするなど、環境への負荷に配慮したさまざまな施策・整備を徹底して行なっている。準備段階では、植生調査を3年にわたり実施したという。

このルールには、自然保護と登山・トレッキングなどを含めた山の利活用の両立、という目的と思いが込められている。自然保護先進国の米国ではこうしたフィールドやトレイルが多数あるが、日本国内では希少かつ貴重なもの。五色ヶ原のネイチャートレイルは、日本の先駆け的フィールドでもある。

ネイチャートレイルのトレッキングツアーは、「乗鞍山麓 五色ヶ原の森案内センター」で事前予約が必要。ツアーには、所要時間や距離、散策エリアの違いで、「カモシカ・シラビソ・ゴスワラ・久手御越滝・雌池布引滝」の6つのコースが用意されている。今回歩くのは、短時間で主要スポットを巡る「雌池布引滝コース」とした。

五色ヶ原 ビジターセンター
▲五色ヶ原入山口に建つビジターセンター。平湯バスターミナルから車で10分ほど。

五色ヶ原入山口にあるビジターセンターでレクチャーを受け、その後、バスでスタート地点に移動。標高約1,410m地点に建つ出会い小屋から歩き始める。小屋の前の林道をしばらく進み、「五色ヶ原」と書かれたウッドゲートをくぐり森の核心部へと入っていく。

乗鞍岳 入山口
▲森の入口に設置されたウッドゲート。ここから神秘の森のトレッキングツアーが始まる。

五色ヶ原の森は、複合火山帯である乗鞍岳山麓北西部に広がる面積約3,000haという森林地帯。およそ9000年前の火山活動によって流出した溶岩の上に形成された森で、その環境は植物にとって非常に厳しいものだという。

だが同時に豊富な雪解け水や雨水を貯め込んだ巨大な自然の水瓶でもあり、至る所で伏流水が湧き出し、森を潤している。こうした条件があいまって森をクールダウンするため、本州中部であれば標高2,000m前後のエリア、いわゆる亜高山帯に育つシラビソやオオシラビソ、コメツガなどといった針葉樹の森を、ここ五色ヶ原では1,500m付近のエリアで目にすることができる。

一方、ある地点を越えると、劇的な変化に目を奪われる。苔むした針葉樹の森が、ブナやミズナラといった広葉樹が立ち並ぶ明るい森に一変する。標高がほとんど変わらない一定のエリアで多彩な表情を見せてくれる本コースの見どころは多数。以下、写真とともにいくつかスポットを紹介しよう。

五色ヶ原の森 渓流
▲シラベ沢や沢上沢など、五色ヶ原の森には清冽な水が流れる美しい渓流が随所にある。
根上がり 木
▲苔むした溶岩塊が点在し、木の根は少しでも条件のよい場所を求めて地上に根上がりする。
ゴゼンタチバナ
▲6~8月頃に白い花を咲かせるゴゼンタチバナ。花が咲く株は葉が6枚のものだけ。
倒木更新
▲倒れた親木が腐って栄養分となることで、その上に次世代の若木を育てる倒木更新。
乗鞍 雌池
▲雌池。春から夏前にかけて水がなくなり、カメの甲羅のように見えるため亀甲池とも呼ばれる。

五色ヶ原の森では、森の息遣いやそこに棲む生命たちの鼓動さえも感じられる。そんな神秘的で不思議な感覚に充ちた森を歩くトレッキングのフィナーレを飾るのは、伏流水が絶え間なく岩壁に降り注ぐ圧巻の名瀑、布引滝。目の前に広がる景観はもちろん、滝つぼへと集まる流水の音、水飛沫とともに漂う香りや気、全身五感に注がれるような荘厳さに思わず息をのむ。ぜひとも、現場に行って眺めていただきたい。

布引滝
▲布引滝。実際に現場で見上げると「壮観!」のひと言。写真では伝わらないか……。
布引滝石仏滝行
▲水飛沫に包まれる岩肌が滝行する石仏のように見えることから、布引滝は小仏滝とも呼ばれる。
布引滝 景色
▲布引滝の脇に架かる吊り橋。状況次第では、橋の先の岩山の上から滝を眺められる。

布引滝を過ぎると、間もなくゴール。遊歩道が敷かれた湿原を抜ければ、歩き始めた出会い小屋の裏手へと出る。今回歩いたのは、約2kmの周遊ルート「雌池布引滝コース」。森のフィトンチッドと滝や渓流のマイナスイオンに癒され、身も心も浄化されていく。そんな五色ヶ原の魅力を凝縮したコースだ。

五色ヶ原の森の魅力は、フィールドを知り尽くしたガイドさんの解説を交えることで、より一層深いものになっていく。ガイドさんのお話しは、図鑑やガイドブックには載っていない貴重な内容が盛りだくさん。リピーターが多いというのもうなずける。今回は紅葉の時季におじゃましたが、次回はぜひ新緑の季節に訪ねてみたい。

乗鞍岳 出会い小屋
▲整備された遊歩道を進み、スタート地点の出会い小屋へと戻り、濃厚なツアー終了。
上平尚 五色ヶ原の森
▲本ツアーをガイディングしてくださった最年長ガイド、上平尚さん。知恵袋的な存在。

※五色ヶ原の森を歩くツアーは、いずれも完全予約制。詳細は、乗鞍山麓五色ヶ原の森案内センターまで。

乗鞍山麓 五色ヶ原の森案内センター
https://goshikinomori.com/
岐阜県高山氏丹生川町久手471-3
TEL.0577-79-2280

山行data

コースデータ 乗鞍山麓・五色ヶ原「雌池布引滝コース」

コース:案内センター(集合)~<バス>~出会い小屋~五色ヶ原~出会い小屋~<バス>~案内センター
コースタイム:約2時間(休憩時間を含む)
標高:1,360~1,460m
距離:約2km

下山後のおすすめの温泉 岐阜県/平湯温泉

ひらゆの森 温泉
趣向の異なる露天が男湯に7つ、女湯に9つもある露天天国「ひらゆの森」。
ひらゆの森 露天
男女別の小屋に露天がひとつ。熱めの茶褐色の“ぬくとまり(温まる)湯”が体をほぐしてくれる。

■平湯温泉「ひらゆの森」
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯763-1
TEL.0578-89-3338
入浴時間:日帰り 平日10:00~21:00(最終受付20:30)
定休日:無休(4、9、12月にメンテナンス休業の場合あり。要問い合わせ)
入浴料:日帰り大人¥700、小人¥500
泉質:カルシウム・ナトリウム・マグネシウム・炭酸水素塩・塩化物泉
アクセス:平湯バスターミナルより徒歩約3分

■平湯温泉「平湯の湯」
岐阜県高山市奥飛騨温泉郷平湯29
TEL.0578-89-3339(平湯民俗館)
入浴時間:日帰り 夏期6:00~21:00/冬期8:00~19:00)
定休日:無休
入浴料:寸志(300円程度)
泉質:ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉
アクセス:平湯バスターミナルより徒歩約5分

 

山直温泉の記事・情報は
『PEAKS 7月号(No.166)』の
「下山後は湯ったりと」のコーナーをご覧ください。

 

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PROFILE

山本 晃市

PEAKS / 編集者・ライター

山本 晃市

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

山本 晃市の記事一覧

山や自然、旅の専門出版社勤務、リバーガイド業などを経て、現在、フリーライター・エディター。アドベンチャースポーツやトレイルランニングに関わる雑誌・書籍に長らく関わってきたが、現在は一転。山頂をめざす“垂直志向”よりも、バスやロープウェイを使って標高を稼ぎ、山周辺の旅情も味わう“水平志向”の山行を楽しんでいる。頂上よりも超常現象(!?)、温泉&地元食酒に癒されるのんびり旅を好む。軽自動車にキャンプ道具を積み込み、高速道路を一切使わない日本全国“下道旅”を継続中。

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