環境性と居住性を重視する登山者のためのゆったりテント「ニーモ/タニ オズモ2P」|これからの山道具図鑑 Vol.1
PONCHO
- 2024年08月16日
INDEX
登山、そしてアウトドアの道具は、欧米の各メーカーを中心にして、これまで以上に地球環境に負荷を与えない製造過程、素材を使用することを前提に製品開発を行なっている。以前であれば、環境配慮を求めたぶん、機能性がやや劣っていたり、地球にやさしい雰囲気を前面に出したりするデザインも多かった。正直、そんなふうにアピールしなくても……という感じのデザインだった。
しかし近年は、環境配慮が当たり前になり、機能もデザインも独自性を備えた道具が増えてきている。環境への配慮を追求することで、これまでにはない新たな機能性、アイデアをもった道具が出てきている。それを「これからの山道具」として、レビューしていきたい。
第1回は、100%リサイクル糸で織られているニーモ/タニ・オズモ2Pを取り上げたい。軽さを装備しながらも、居住性を重視した山岳テントだ。
編集◉PEAKS編集部
文◉ポンチョ
写真◉長谷川拓司
米国ブランドが手掛けた日本の山岳仕様テント
米国ブランドのニーモが、日本の山岳シーンにフィットするモデルとして開発した、タニ。そのファーストモデルは2012年に発売。タニは、日本語の谷に由来する。
高温多湿、雨の多い日本の山で快適にすごせる換気性能や耐雨性能を装備。前モデルからは軽量性も意識。ライペンやヘリテイジ、モンベルといった日本の山岳テントブランドとともに、「定番」の地位を確立した。
2023年発売のタニオズモ2Pからは、フライやフロアにOSMOファブリックを採用。100%リサイクルされた糸で織られ、生産時の有害な化学物質も不使用。環境へ配慮した製品づくりを重視した同社らしい取り組みを実践している。
またOSMOファブリックは環境への配慮だけでなく、新たな機能も装備させている点で、ニーモの先進性が感じられる。従来素材と同様の軽さを保ちながら、濡れた状態での伸縮性が3倍低く、たるみを抑え、撥水性もアップした素材となっているのだ。
濡れても伸びにくい素材がもたらす快適性
雨に打たれてもフライの張りが失われなければ、インナーテントとの隙間が失われることも少ない。タニ・オズモ2Pはインナーテントのドアパネルに開閉式の大きなメッシュパネル(上写真の下)、バックパネル上部にも開閉式の小さめのメッシュパネル(上写真の上)を装備していて、換気性能のよさが特長だ。これは日本の山岳環境を考慮した装備といえるもの。
しかしこの換気性能は、フライとインナーテントの間に隙間があってこそ機能する。
晴れているときにシワなくピンとテントを張れるのは、当然。だが、雨や夜露に濡れてもフライの張りが失われにくいという機能は、既存の多くの山岳テントでは装備されていないと思える。すべての山岳テントを使用した訳ではないが、雨に長時間濡れると、多くは生地が伸び、たわんでくる。
この張りを求めた機能は、恐らく業界初の試み。ニーモは、デザインだけでなく、素材開発までもしっかりと行なえる、数少ないメーカーということを証明する機能と思える。
テント泊山行を何度か経験している人ならば、雨や夜露に濡れたフライが伸びて換気性能が落ちたテント内が蒸し暑くなってきたり、インナーテントがたわんで張り付いて寝袋を濡らしたり、伸びたフライが風に吹かれてバタバタとうるさい音を立てて鳴りだした経験があると思う。
夜中に起きて雨に打たれながら、伸びたフライの張りを調節するストラップやガイラインを引き直したこともあるだろう。
私は何度もある。で、雨の日のテント泊は面倒くさいなぁと、少し敬遠しているところがある。
でも、タニ・オズモ2Pなら、そんなストレスや手間を軽減してくれそうだ。
ちなみにOSMOファブリックは、日本で展開されるニーモの小型3シーズン用テントのすべてに採用されている。そのなかでタニ・オズモ1Pと2Pは、前述のとおり日本の山岳環境に対応したモデル。
ウルトラライトのハイキングスタイルが一般化した昨今、山道具選びは軽量コンパクトさを重視しがち。しかし、軽量コンパクトを追求した道具は使う人の経験値やアイデアがあってこそ、そのよさを引き出せるもの。
その点でタニ オズモは、ULギアに求められる経験値やアイデアがなくとも、それだけで快適に機能してくれるテントだ。
わずかに重くなっているのはリサイクル素材のため?
OSMOファブリックとなったタニ・オズモ2Pの重量は、最小重量1,240g。ほぼ同じ仕様で、15デニールの極薄素材をフライと本体に使用した前タニ2Pの最小重量は1,180g。わずかではあるが、新型のほうが重くなっている。
OSMOファブリックの厚さは公表されていないが、前タニ2P同様に極薄だ。テントの仕様に大きな差は見られないので、OSMOファブリックは前モデルの素材よりもわずかに厚みをもたせているのかもしれない。または一般的に強度や耐久性が劣るといわれているリサイクル素材のマイナス点を、コーティングを厚くしてクリアさせているのかもしれない。
前述のとおり、OSMOファブリックは前タニ2Pに使われた素材にはなかった、生地の伸びを抑える新たな機能を装備しているので、60gの増加は、そのためかもしれない。
わかることは、60gの重量増はあるが、100%リサイクル素材に変更しても、機能が損なわれてはいない点だ。むしろ、快適性をアップさせている。多くの環境配慮素材やアイテムは、地球にはやさしい反面で、機能的にはやや劣るものが多かったのに!
OSMOファブリック、そしてタニ オズモ2Pは、環境性と機能性を高次元で融合させている点で次世代の素材であり、これからのテントの方向性を指し示すものになっている。
軽さよりも広さを求め山をじっくり味わうためのテント
さてタニ オズモ2Pのスペックは、
最小重量:1,240g
サイズ:長さ220cm、横幅130cm、室内高104cm
となっている。
付属する、スタッフサック、ガイライン、ペグ8本、リペアセットも含めた重量の実測値は、1,600gあった。極薄素材なので、フロアの破損を防ぐ別売りフットプリントを装備すると、198gが加わる。ペグも高所のテント場では付属する8本では足りないので、さらに増やす必要がある。となると実際に使用する際の重量は、1,800gを超えることになりそうだ。
これは、ちょっと重い。
付属ペグは、強度のありそうなY字型のペグ。使用時に軽さを求めるなら、より軽量なペグに変更することも考えたい。
フットプリントも専用である必要はないので、山行で必ず装備するエマージェンシーシートなど、ほかのシーンでも使えるアイテムと併用、流用する工夫をすることで、わずかではあるが軽量化は可能だ。
ほかの山岳テントと比較してわかることは居住性のよさ!
同仕様で1人用のタニ・オズモ1Pのスペックは、
最小重量:1,120g
サイズ:長さ202cm、横幅105cm、室内高103cm 前室75cm
長辺側の長さを少し削り、圧迫感を抑え、荷物を置くスペースを得るために横幅を広げている。実際に使用する際の重量は、約1.5キロ。軽さを優先するなら、こちらを選択する人が多いだろう。
比較のためにタニ・オズモ2Pのスペックも再度記すと、
最小重量:1,240g
サイズ:長さ220cm、横幅130cm、室内高104cm 前室80cm
ほかの国内ブランドで、タニ オズモ同様の山岳向け自立型軽量ダブルウォールテントの1Pモデルと2Pモデルのスペックは下記のとおりだ。
■ライペン/SLソロ(1人用)
最小重量:900g、専用フットプリント:150g
サイズ:長さ205cm×横幅90cm×室内高95cm 前室38cm
■ライペン/SLドーム(2人用)
最小重量:980g、専用フットプリント:200g
サイズ:長さ210cm×横幅120cm×室内高95cm 前室38cm
■ヘリテイジ/ハイレヴォ(1人用)
最小重量:960g
サイズ:長さ203cm×横幅93cm×室内高100cm 前室45cm
■ヘリテイジ/ハイレヴォ(2人用)
最小重量:1,100g
サイズ:長さ203cm×横幅123cm×室内高115cm 前室45cm
■モンベル/ステラリッジ テント1 本体+レインフライ
最小重量:1,140g
サイズ:長さ210cm×横幅90cm×室内高105cm 前室55cm(短辺側)
■モンベル/ステラリッジ テント2本体+レインフライ
最小重量:1,230g
サイズ:長さ210cm×横幅130cm×室内高105cm 前室55cm(短辺側)
今年発売予定で注目されている
■ゼインアーツ/ヤール1
最小重量:860g
サイズ:長さ210cm×横幅90cm×室内高95cm 前室45cm
■ゼインアーツ/ヤール2
最小重量:950g
サイズ:長さ210cm×横幅120cm×室内高100cm 前室45cm
ほかブランドのテントのスペックと比較してわかるタニ・オズモの特長は、次の2点。
①軽量さを目指した山岳テントのなかでは、軽いほう。上で挙げていない自立型、そして軽さを重視した半自立型も含めると6~7番手あたり。
②室内空間は、圧倒的に広い。とくに横幅と前室のゆとりはほかにはないものだ。
そう、今回タニ・オズモを取り上げた理由は、まずは環境性だが、次に居住性のよさがある。
タニ オズモ2Pの横幅は130cm。1人使用では、寝ている脇にバックパックを置いても、狭さを感じないレベルだ。2人使用ではぴったりくらいだが、長辺が長いので荷物を足元に置ける。成人男性2人で使うにはやや狭いが、男女2人、大人と子どもでなら、許容範囲。
また1人使用時に室内で着替えをする際、窮屈さがないので疲労によって足や腹の筋肉がツる可能性も少なさそうだ。過去に何度も腹がツって悶絶している私にとって、このゆとりはありがたいもの。
スペックを挙げたなかでは、モンベル/ステラリッジテント2も同じ横幅だ。しかしタニ オズモは長辺側に出入口があり、ステラリッジは短辺側が出入口。出入りがしやすく、広さを感じるのは、長辺側が大きく開くタニ・オズモのほうだ。
天気がよければインナーテントのドアパネル、前室の入口部分を大きく開け放って山の開放感を味わうこともできる。
また前室の張出長は80cm。長辺側に出入口があるほかのテントと比べて、倍近い長さを誇る。この前室の広さに加えて、レインフライ下部が開け留めることができる仕様になっているので、雨の侵入、日差しを抑えながらも効果的な換気が行なえる。
なんでもない機能に思えるが、こうしたちょっとしたアイデアにより、日本の山での快適性をアップさせているのだ。
のんびりと山に浸透するためのテント
筆者は、通常のテント泊山行だけでなく、装備を軽く少なくしたファストハイクも楽しんでいる。その際には、トレッキングポールをテントポール代わりにした実重量1,000g以下のテントを使用している。
でも、それらの軽量テントは室内の広さが制限され。窮屈で、ゆっくりと寝ることができない。でも、身体を休めはしても、山では天候の急転に対応するためゆっくり眠ることもないので、多少窮屈で寝苦しくても、寝られる場所があるだけで十分だと考えていた。
ファストハイクではなく、通常のテント泊山行でも装備が軽いほうが、移動することがラクなのも間違いない。だから近年は1,500g以上のテントを使うことはなくなっていた。
けれども、今回実重量1,600gのタニ・オズモ2Pを使って、考えが新たになった。
軽さを求めた道具は、そのぶんだけ犠牲になるもの、省かれる機能がある。
でも、すべての登山者が究極の軽さを求めているわけではないし、長期間、長距離を移動したり、ハードな登山をしたりするわけでもない。
素材の進化が進み、それなりの軽さを実現できるのであれば、ゆっくりすごせ、ストレスなく眠れ、しっかりと体力を回復できるテントがあってもいい。そういうテントを選べるようになるといい。
タニ・オズモ2Pの実重量は1,600g。軽くはないが、十分な広さ、居住性、快適性を備えている。こういうテントを使う登山も、「これからはありなんじゃないか!」と提案されているように感じた山岳テントだ。
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PROFILE
登山、ランニング、旅、島、料理、道具をテーマに執筆、撮影。低山ハイクとヨガをMixしたイベント『ちょい山CLUB』を主催する。