山で料理する派が選ぶべきクッカー「MSR/セラミック ソロポット」|これからの山道具図鑑 Vol.2
PONCHO
- 2024年08月23日
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環境に配慮した道具であることを前提に、これまでにはない新たな機能性、アイデアをもった道具をセレクト。それらを「これからの山道具」としてレビューするのが今企画。
今回取り上げるのは、MSR/セラミックソロポットだ。
安全で耐久性に優れるフュージョンセラミックのコゲつき防止加工が施されたクッカー本体は、アルミ製。容量は1.3ℓ。ソロ用としてはやや大きい。でも、調理好きなら重すぎはしない重量208g。調理がしやすい開口部の広い浅型で、握りやすい大型ハンドルも装備。その実力を確かめてみた。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉ポンチョ
写真◉長谷川拓司
山でつくることの多いラーメン
山で食べる料理は美味しい。これまでいろいろな料理をして食べているが、もっとも作っているのがラーメンだ。なにより、大した手間が掛からないのに、満足度が高いことも、よく作る理由のひとつ。
そして真夏でも標高が高ければ気温は20℃前後。それ以外の春~秋は10℃前後となるので、温かいラーメンは身体に心地いい。
上の写真は、昨年末に登った伊豆大島の三原山登山のときに作って食べた、具たっぷりのラーメン。気温は5℃くらい。アツアツのラーメンがじっくり沁みた。
また、このときは妻とふたりでの登山だったので美味しさを重視し、木製の丼も用意して盛り付けた。クッカーを丼代わりにして食べるよりも、美味しさのレベルが数段上がる。装備を軽くしたい登山時に丼を持って行くことはないけれども、山でちょっとぜいたくな時間をすごしたいときに、丼1個、200g程度の重量増は大して苦にはならない。三原山では丼2個だったけれども、デイハイクであれば問題ない重量増だ。
ラーメン作りに適したクッカーを考えてみた
さて、美味しいラーメン作りに欠かせないのが、ちょっと大きめのクッカーだ。それが今回紹介するMSR/セラミックソロポット。
スペックは以下のとおり。
サイズ:15×7.6cm(容量1.3ℓ)
重量:208g
価格:¥9,900
いわゆるULクッカーの容量は0.75ℓ。カップ的な0.5ℓ程度のものも多く、重量は100g前後。鍋底は小さく縦長の深型。素材はチタン製で、コゲつき防止加工が施されていない、軽量コンパクトさを重視したものだ。
湯沸かしをするだけなら、このULクッカーは機能する。でも袋ラーメンを茹でるとなると、容量が小さい。
袋ラーメンを茹でるのに必要な水は0.5ℓ前後。その水を沸騰させて乾麺を投入すると、0.75ℓ容量クッカーでは、満水に近い状態になってしまう。
そこに具を投入すると、確実に噴きこぼれる。だから弱火にしたり、水を少し減らしたりして調整するのだけれども、そうすると、湯の対流が弱くて麺がくっついたり、粉っぽさが出る。
これまでいろいろな、容量0.75ℓ前後の深型ULクッカーでも袋ラーメンを作ってきたが、美味しくできたモノはひとつもなかった。
湯を注ぐだけでできるカップラーメンやリフィルラーメンにすれば、クッカーは軽いまま、美味しいラーメンが食べられることはわかっている。けれども、私はカップラーメンよりも満足度の高い袋ラーメンを、山で美味しく食べたいのだ。
上の写真は、MSR/セラミックソロポットで袋ラーメンと具を茹でているときのもの。
容量1.3ℓのこのクッカーは具を入れても、余裕をもって茹でることができているのがわかるだろう。
容量1.0ℓあればなんとかなるが、1.3ℓのこの余裕が、失敗のないラーメン作りを後押ししてくれる。
ちなみに、道具好きの私は、いくつかのちょっと大きめ浅型クッカーでも、ラーメン作りを試してきている。スノーピーク、トランギア、エバニュー、ユニフレーム、SOTO、パーゴワークス……そして、昨年末から試してみたのがMSRだ。
それらを使ってわかったラーメン用クッカー選びの6つのポイントが、下記になる。
①対流の起きにくい深型ではなく、対流が起きやすい浅型
②容量は最低でも1ℓ。野菜等の食材を投入するなら噴きこぼれないように1.3ℓ前後
③重量はフタと合わせて200g前後くらいだと重くなった感じは少ない
④直径は、袋ラーメンを割らずに収納できる15㎝以上
⑤ラーメンのスープは油分があるので、拭き取りやすいコゲつき防止加工済みがベター
⑥クッカーを丼にして食べるなら、ハンドルは持ちやすい大きめでないと手が痛くなる
ギア選びからその使い方が広がることも
これらのポイントをMSR/セラミックソロポットはすべて満たしている。でも、ほかにも5つ以上を見たし、軽さに長けたクッカーもある。
例えばSOTO/チタンポット1100は、UL仕様のため着脱式のハンドル(リフター)は小さめだけれども、重量112gと驚きの軽さを実現している。チタン製なので、ラーメンをクッカーから直接食べる際、唇を火傷する可能性も低い。とはいえ、レンゲやスプーンでスープを掬って飲めばアルミ製でも問題にならないので、ラーメン用クッカー選びのポイントに、本体素材の違いは入れなかった。
鍋ではなく、フライパンのエバニュー/U.L. Alu.Pan 18cmも、おもしろい。重量150gと軽量。高さはフライパンなので5cmしかないが、煮炊きに問題ない。フライパンなので焼くことも得意。餃子とビールを楽しんでから、〆のラーメンなんていうぜいたくもできるだろう。
と、想像したけれども、コゲつき防止加工が施されていれば、直径の大きなフライパンよりも数は少ないが、浅型クッカーでも餃子は焼ける。
そうか、そんな使い方もあったか!と、ギア選びをあれこれ考えていると、発見、固定観念の払拭ができることがあって、楽しい。まだラーメン&餃子は山で試していないので、次回やってみたい!
コゲつき防止加工について
炒め物調理で機能するコゲつき防止加工が施されたクッカーを使う際には注意点があるので、お知らせしておきたい。
気にしている人が少ないように感じるけれども、コゲつき防止加工は強火に弱い。施されたコーティングは、強火だと劣化しやすい。だから、火力は中火以下がマスト。強火で使っていて、すぐにコゲつくようになった……というのは、クッカーやコゲつき防止加工の性能の問題ではなく、使い方を間違えている場合が案外多い。
もし、火力調節が上手くできないバーナーを所有していたとしたら、クッカーを新調すると同時に、バーナーも火力調節ができるものにすると、コゲつきを防げ、手間を省けるようになる。それに、そもそも中火がどれくらいなのかを確認していない人も多いように思うので、クッカーを乗せる前に、バーナーの火の加減をしっかり見ておくことをオススメする。
さて、そのコゲつき防止加工は、これまでフッ素コーティングが大多数を占めていた。けれども、欧米では、フッ素コーティングの使用に規制がされはじめている。
というのも、欧米各地の地下水や飲み水からフッ素コーティングに使われる有機フッ素化合物=PFASが、基準値以上含まれていることがわかってきたからだ。
日本でも今年から本格的な調査がはじまり、地下水や飲み水のPFAS汚染が多くあることがわかってきている。
PFASは発ガンリスクのある化学物質だが、フッ素コーティングされたクッカーやフライパンの使用で人体に悪影響を与える可能性はないようだ。
だが、それらを製造する工場の排水等が自然環境に影響を与えている可能性を否定できないというのが、欧米各国の見解。まだ確定したわけではないけれども、予防的措置としてPFAS規制がはじまっているのだ。
MSRは、そうした規制がはじまる2017年から、コゲつき防止加工にセラミックコーティングを採用している。コーティングの耐久性を重視してセラミックを採用したようだが、PFASの問題は最近はじまったのではなく、2000年ごろから議論がはじまっていたので、モノづくりの意識が高い同社であれば、やはり自然環境の保護も、ある程度念頭に置いて採用したように感じられる。
また現時点で日本では規制されていないけれども、山で遊び、ときに挑戦し、豊かな時間をすごさせてもらっている登山好きであれば、自然環境への影響が少ないモノを選択することは、積極的に行なっていきたいところだ。
それに欧米各国が予防的措置として、PFASの規制に動いていることも理解できる。それは登山での危機管理に似ているからだ。山での危機管理は、危険な状況に陥ってから対処する方法よりも、危険な目に遭わない方法を身に付けておくほうが大切だ。早めの判断。危険を回避する能力。私は山でそれを学んでいる。だから、より深刻な状況になりそうなことを回避して、新たな道を模索する考えを支持したい。
登山だけでなく、その道具選びでも、そして普段の暮らし方、生き方も、山で教わったことを活かしていきたいと思う。
ほかにもあるMSRらしいこだわり
このセラミックソロポットは、コゲつき防止加工だけでなく、ほかのクッカーではまだあまり採用していない機能、こだわりを装備させている。
例えば、クッカーのカラーが、それだ。
セラミックソロポットを含むセラミックポットシリーズは、2017年に発売された当時はクッカーのカラーがグレーだった。それが2020年モデルからブラックカラーに変更されている。
これは単なるカラー変更ではなく、熱効率のよさを求めたもの。前述のとおり、コゲつき防止加工のクッカーは中火以下での使用でコーティングの劣化を防ぐ必要があるが、そうなると湯沸かしに時間が掛かる。そのため、少しでも沸騰時間を短くするため、熱の吸収が高いブラックカラーに変更したと思われる。
また軽さが必須機能といえるアウトドア用のクッカーは、本体の薄さで軽量化を実現している。しかし薄くなると強度が落ちる。また、バーナーの火が当たるクッカーの底面が、熱によって膨らんで変形してしまうことが、間々ある。
そうなるとゴトクに乗せた際の安定感も失われる。それを改善するためだろう、MSR/セラミックソロポットの底面は、多くのクッカーのようにフラットではなく、上の写真のようにわずかに凸型になっていて、クッカー内側にふくらみをつけている。
もしかすると、フラットな底面よりも膨らみがバーナーの火を効率よく受け止め、水や調理する食材に熱を伝える機能もあるのかもしれない。実際はどうなのかわからないが、MSRであれば、それくらいのことを考えていそうだと思う。
スタッキング性のよさも1.3ℓクッカーの特長
最後に、1.3ℓという少し大きな容量について。
浅型クッカーは、容量1ℓ以下だと高さがないため、一番小さな110ガス缶でもクッカー内に収納できないものが案外多い。だから、スタッキング性に劣ると言われている。
しかし容量が1.3ℓと少し大きくなることで、110ガス缶も含めて、調理に必要な道具を上の写真のようにすべて収納ができるのも大きな利点だろう。MSR/セラミックソロポットは、そうしたスタッキング性もよく考えられたつくりになっている。
調理時やラーメンをクッカーから食べるときに持ちやすい大型のラバーグリップ付きハンドルも、着脱可能ながら、収納時にはクッカー内に入れるのではなく、折りたたんでフタのストッパーになる。
これにより、クッカー内に収納できる長さのハンドルにする必要がなく、クッカー内にスペースを生んでいる。
本当によく考えて、つくられている。
またガス缶を取り出せば、袋ラーメンをそのまま収納可能。乾麺が割れずに持ち運びできれば、ラーメンの美味しさは自宅で作るのと同様だ。
もちろんラーメン以外の料理も、1.3ℓの大きさがあれば、手間なくできる。ちなみに上の写真の、パウチに入ったトマトを使ってサバ入りトマトカレーもつくってみたが、水分少なめでもコゲつくことなくセラミックコーティングが効果を発揮してくれ、美味しくできた。
湯沸かしだけならULクッカーが一番だが、簡単な料理をするなら、私の経験ではちょっと大きめ浅型コーティングクッカーがベスト。
MSR/セラミックソロポットはフタに湯切り用の穴が開けられているが、炊飯も問題なくでき、炒め物、煮物、麺類と、あらゆる山メシづくりに重宝する。
山で食べる料理は、なんでも美味しい。でも、その料理を失敗なく、さらに美味しいものにして味わいたいなら、これからは選択肢の一番手として、このクッカーをオススメしたい。
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PROFILE
登山、ランニング、旅、島、料理、道具をテーマに執筆、撮影。低山ハイクとヨガをMixしたイベント『ちょい山CLUB』を主催する。