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イタリア・オルコ渓谷の新しい岩場「サッソ・デル・カーロ」へ|筆とまなざし#387

グラン・パラディーゾ国立公園内に広がる美しき夏の渓谷

 オルコ渓谷のクライミングシーズンは春と秋である。夏は暑すぎてクライミングには向かず、今回訪れた2カ所の岩場にクライマーの姿はまばらだった。とはいえ、標高450mから2,000m以上の場所まで岩場が点在しているので、標高の高いエリアの日陰なら比較的快適に登ることができる。夏の小川山より湿度が低いだけマシかもしれない。日本では小川山や瑞牆のほかに逃げる場所がないけれど、ヨーロッパではほかの岩場がいくらでもある。わざわざ夏にオルコを訪れるクライマーが少ないだろう。

 今年になってオルコの新しいトポが発売され、ロカーナのフェスティバルでも著者によるトークイベントが行なわれていた。新たに掲載された岩場もあり、オルコでのクライミングがさらに楽しみになった。

 新しい岩場のひとつに「SASSO DEL CARRO」というエリアがあった。「戦車の石」という意味で、なるほど、残雪を抱いた山々へと続く美しい谷にポツンとひとつだけ大きなボルダーが転がっている。ボルダーといっても高さは20m近くあり、その東西南北にルートが築かれている。もっとも難しいルートで7a+。中心は6台と易しめのルートが多いけれど、そのロケーションと1,900mという標高の高さに惹かれて訪れてみることにした。

 オルコ渓谷の上流域は、標高4,061mのグラン・パラディーゾ山を中心としたグラン・パラディーゾ国立公園となっている。完全にイタリア領内にある山としては最高峰で唯一の4,000m峰でもある。ロカーナからオルコ川に沿って走る道は、ダム湖や天然の湖が点在する標高2,534mのサヴォイア小屋まで車道が続いている。サッソ・デル・カーロはその途中、ちょうど森林限界を超えるあたりにあった。道路脇の空き地に車を停めると、谷を覆い尽くすかのように高山植物が一面に咲き乱れていた。こんな景色、いままでに見たことがない。絵に描きたいと思ったが、これは腰を据えて取り組まなければ描けない画題であるのでまたの機会にする。

岩場へは轍のできたダート道をたどる。古い石造りの牛小屋。カウベルを鳴らしながら草を食む牛たち。空き地に置かれた養蜂箱。そこにはシャモニのような喧騒はなく、ただただ静かで美しい山々とそこで暮らす人々の面影があった。思わず、アルプスの風景を描いたセガンティーニの絵が脳裏に浮かんだ。ここには、描くべき風景が無限に広がっている。

 15分ほど歩くと、一目でそれとわかるサッソ・デル・カーロが谷間にポツンと転がっていた。適当な場所で小川を渡渉する。ぼくらのほかにクライマーはふたりしかおらず、美しい谷には静かで鮮やかな夏の日差しが降り注いでいた。

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PROFILE

成瀬洋平

PEAKS / ライター・絵描き

成瀬洋平

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

成瀬洋平の記事一覧

1982年岐阜県生まれ。山でのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作の小屋で制作に取り組みながら地元の笠置山クライミングエリアでは整備やイベント企画にも携わる

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