本エッセイは冠に「小噺」と据えていることもあり、この冒頭部は本編の内容に関わらず自由に書かせていただいている。じつは先日、祖父の50回忌の法事で北海道に帰省していたのだが、進学の都合もあり中学卒業後から実家を離れていたので地元の記憶が正直薄い。それでも郷愁を覚えるのだから、どんなところでも故郷というものは特別なものなのだろう。我が愛するライチョウさんたちの目にも生まれ育つ場所は特別に見えるのか尋ねたいところである。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
続・秋群れ
前回(第37回)も触れさせていただいたが、私のなかで9月は秋群れライチョウチャレンジ月間とみなしている。もっとも生息山域にいる個体がまとまっているぶん、場所を外すとどこにもいないハズレを引く羽目になるので例年の経験値に加えて、当年の動向も考慮しなければならず難易度は高い。
大変幸いなことに、雷鳥写真家として長年活動していることであちこちの山域で協力者がいる。実質上のスポンサーと言っても差し支えない。そのようなみなさまから得る現地情報に合わせ、例年の経験則を踏まえて山行を計画していたりする。
当たりハズレの波のある秋群れチャレンジであるが、山域によってはかなりの確率で毎年ほぼ同じポイントに発生する群れも存在する。季節柄、紅葉もはじまり写す画に朱を加えることができるようになる。ただ、どうしても登山道がしっかり整備されている場所ほど自由に動けるわけではないので画角は制限がかかる。ゆえに反復試行と想像力で可能な限り美しい画を延々と探り続けることになる。
そういった前置きを経て、訪問した某山域。私が入山する少し前から、例年発生する秋群れが現れはじめたと協力者の方からの情報があった。もっとも1日のなかでずっと同じ場所にいるわけではなく、ほとんどの時間は各個体が散開していることが多い。あとは地道に「ココでこういう画を撮りたいので、どうかココに集まってください!」とライチョウさんたちが来てくれることを祈り待ち続ける作戦だ。
少しガスが立ち込めてきた待合ポイント。天気が芳しくないせいか他の登山客はまわりにいない。気づけば雨しずくがウエアに模様を作り始めてきた。本降りになられると少々面倒ではあるが、アタックザックから合羽を取り出し待機続行する。
「……ゲー!ガガガー!」聴き慣れた声がガスの向こうから聞こえ、さらに複数の羽音が周囲に奏でられた。まさに、待ち人きたるである。
今回の作品は、秋群れと紅葉を写したいなと模索中の1枚である。少々全体的にモヤっとしているのは否めないが、もう少しガスが薄ければ良くなるはずである。こればっかりは天気と自分のスケジュールの兼ね合い次第なので今後とも試行を重ねるつもりだが、同じ被写体を追い続けるというのは好きじゃなければできないなと我ながらに思う今日このごろである。
今週のアザーカット
祖父の50回忌で帰省した北海道ですが、新千歳空港に着陸直前の機内から下界を見下ろすといかにも北海道らしい景色にほっこりします。ちょうど長野県からの動線上に地元の苫小牧があり、肉眼で「帰ってきた感」を味わうことができます。平らな大地に整然と耕された田畑、原野を貫く河川、写真には写っていませんが苫小牧のランドマークタワー・王子製紙の大きな煙突や港、子どものころによく行った樽前山や支笏湖などなど、郷愁湧きまくりです。ライチョウさんたちも「ここの岩場が」とか「ここのハイマツが」とか、土地に思い入れはあるのかなとふと思った次第でございます。
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