野生の風吹く知床半島で冒険を。「知床アドベンチャーフェスティバル」を開催。
PEAKS 編集部
- 2024年10月17日
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ほかでは見ることのできない雄大な自然と、濃密な生き物たちの息吹──。
古くから秘境として知られる知床半島が、国立公園に制定されて60年。そして来年、世界遺産に登録されて20周年を迎えます。そんな節目を記念したアウトドアイベント「知床アドベンチャーフェスティバル」が開催、その模様をレポート。
編集◉PEAKS編集部
文◉麻生弘毅
写真◉宇佐美博之、ゴールドウイン
現代に残された聖地・知床
北海道の北東で、国後島と並びオホーツク海に手を伸ばすように突き出す知床半島。長さ約70km、基部の幅が25kmの半島には、火山活動や流氷の浸食により生まれたダイナミックな自然環境が広がっている。なかでも、半島の北側のウトロと南側の羅臼を結ぶ国道334号線、いわゆる「知床横断道路」から北側の半島中央部は国内有数の荒野だ。
高緯度地域ならではの植生が見られ、数多くのヒグマや、シマフクロウをはじめとした鳥類が暮らし、また、半島をめぐる海にはマッコウクジラやトドら希少な海棲哺乳類が泳ぐなど、原始を思わせる野生が残されている。そんな濃密な自然を背景に、1964年、国内で22カ所目となる国立公園に指定されると、2005年には世界自然遺産に登録され、自然を愛する国内外の旅人に親しまれてきた。そんな知床を舞台に、この秋、国立公園制定60周年、世界遺産登録20周年を記念したアウトドアイベント「知床アドベンチャーフェスティバル」が開催された。
アウトドア二大ブランドによる共同開催
今回のイベントの特色のひとつは、ザ・ノース・フェイスとスノーピークというアウトドアの二大ブランドが手を組んで開催しているということ。それぞれのブランドの特長を活かし、ザ・ノース・フェイスは「国立公園×環境×アクティブ」を、スノーピークは「国立公園×アウトドア×滞在」をテーマに、知床というフィールドを楽しむだけでなく、貴重な自然とそこに育まれてきた文化に触れることで、「保護と利用」のバランス、「人と自然が共生する理想の国立公園」へと、参加者が思いいたるようなプログラムを展開。
そこで、今回のイベントのきっかけを、ザ・ノース・フェイスの事業本部長・森光さんに聞いてみた。
知床半島は北側の斜里町、南側の羅臼町からなっているが、斜里町はザ・ノース・フェイスを擁するゴールドウインと、羅臼町はスノーピークとそれぞれ包括連携協定を結んでいることにあるという。
私たちは“自然と共生する社会の実現”をテーマに、2021年10月9日に斜里町と包括連携協定を締結したのですが、偶然にもその1日前、スノーピークさんも羅臼町と協定を結んでいたんです。そんなご縁もあり、国立公園制定60周年、世界遺産登録20周年という節目に、今回のイベントを企画しました。(森光さん)
そうして、ザ・ノース・フェイスが受け持つプログラムは、斜里町の「THE NORTH FACE / HELLY HANSEN 知床店」が設置された知床自然センターを起点に、 スノーピークのプログラムは羅臼オートキャンプ場を会場に、多彩な内容でイベントを催した。
霧雨の知床を味わう冒険
ところが、オープニングの9月14日は晴れたものの、数々の野外プログラムが用意された翌15日、知床半島は終日、冷たい霧雨に包まれてしまった。そんななか、知床に通い詰め、この地の海と森に精通する写真家の石川直樹さんをナビゲーターに、羅臼湖をたずねるハイキングを開催。
羅臼湖への入口となる知床峠は、ミルクのような霧に包まれていた。石川さんによると、どこよりも早く色づくという紅葉の名所だそうだが、展望はのぞめない。その代わりではないが、歩みを進めることで、霧のなかから不意に現れる小さな沼や、秋色に染まる景色に息を飲んだ。石川さんがぽつりぽつりと話してくれる、知床の自然、その理に耳をすませながら、ゆっくり歩いていくごとに体がほぐれ、ふわりと心が温まっていく。そうして1時間30分ほど歩き、羅臼湖へと到着した。
本当は、目の前に知西別岳がそびえているはずなんです……。(石川直樹さん)
晴れ間の羅臼湖めぐりは、気軽なハイキングが楽しめる人気コースだという。それでも、目の前が白く煙るなか、ヒグマが暮らすこの地を歩くのは、ひとりではためらわれる冒険だ。そして、ごくごく小さな変化をキャッチし、さりげなくレンズを向ける写真家の営みに触れることができた。
心をつなげる、雨の登山
アドベンチャーレーサーの田中陽希さん率いる羅臼岳登頂チームは、早朝5時に出発した。残念ながら、悪天で登頂はかなわず、頂上直下の石清水で引き返してきたというが、苦楽を共にしたことによる結束力と、無事に下山できたという安堵が、ミーティングの輪を明るく包んでいた。旭川在住のご夫婦は、弾けるような笑顔で1日を振りかえってくれた。
大雪山まで40分のところに住んでいるので、雨の日にはまず山に登りません。だからこそ、本当にアドベンチャーを体験できました!(旭川在住のご夫婦)
そして田中さんから雨の日のウエアリングを学び、同行した環境省のスタッフからは、登山道保護のため縁を歩くのではなく、沢のように水の流れる登山道を濡れながら歩く楽しさを教えてもらったと、朗らかに笑った。
天気予報の精度が増しているので、雨の山を歩く機会は少ないかもしれません。けれど、雨という山の側面を体験することで、山をより深く味わえると思っています。(田中陽希さん)
国立公園に寄せる、ザ・ノース・フェイスの思い
国立公園という言葉は認知されていますが、実際に山を歩く人は、ここが国立公園であることを意識することが少ないと思うんです。(森光さん)
今回、知床でイベントを開催した意味を改めてたずねると、ザ・ノース・フェイスの森光さんはそううなずく。そして前述のように、知床半島は国道334号線より先は無人地帯が広がり、ウトロ側も羅臼側もアプローチが限られている。
そのため、国立公園の新しい保護と利用を考え、より魅力的な新しいモデルプランを創造できると考えているんです。(森光さん)
そして、知床国立公園は斜里町と羅臼町の2町村だけからなるので、意思の疎通を図りやすく、両町が手がける知床財団、環境省とも良好な関係を結んでいるため、有機的な動きをとりやすい。
アウトドアブランドはものを売るだけでなく、よりよい自然を楽しむ環境づくりに貢献し、そこでなにかを感じてもらうよう働きかけることが大切な役目だと思っています。そうして、自然が本当に好きな人を、国内外に増やせたらいいですよね。(森光さん)
知床の語源はアイヌ語の「シリ・エトク=地の果て」が語源となっているという。ところが、石川直樹さんはスライドショーでこんなことを語ってくれた。
曰く、オホーツク海を埋め尽くす流氷は、シベリアの大河・アムール川から流れ出す真水の一部が凍ることで生じる。そうして誕生した流氷はアイスアルジーと呼ばれる植物プランクトンを含み、それを動物プランクトンが、魚が、クジラや海獣、鳥類が捕食するという連鎖があり、川を遡った鮭は森に養分を与えることで、循環する生命の母体となる。そして、世界中の多くの先住民同様、「自然」という言葉をもたずに、連鎖の一員として暮らす生活文化が、オホーツク海を挟んだシベリア沿岸部、樺太、千島列島に広く広がっていたという──。
つまり、旧石器時代から人が暮らしていたという知床半島は、そうした海の向こうにも連綿と連なる狩猟採集民族の北方文化、その玄関口でもあるのだ。
旅を重ねるほどに、人は欲張りになるものなのかもしれない。旅する行為だけでは飽き足らず、歩いた土地の背景を知りたくなる。そこではかつてどのような人が暮らし、いかなる生活を営んできたのか。ひるがえっていま、わたしたちは旅する土地を、旅そのものを、どのように捉えるべきなのか。より深く理解したいという、底知れぬ欲望……。
イベント会場をあとにしたその足で知床の山々を歩き、稜線から国後島を眺めた。あれからひと月が経つが、いまも心のどこかが彼の地にあるような、ふわふわとした気分が続いている。
- 知床自然センター
北海道斜里郡斜里町大字遠音別村字岩宇別531番地
TEL:0152-24-2114 FAX:0152-24-2115
https://center.shiretoko.or.jp
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PROFILE
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
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