福島の美酒「磐梯山」の酒蔵を訪ねて|筆とまなざし#396
成瀬洋平
- 2024年10月30日
福島の美味しい日本酒を求めて酒蔵をめぐる旅。
山の名前を銘柄に冠した日本酒は多い。清らかな山の伏流水がお酒造りに適しているのはいうまでもないが、山がその土地のシンボルとされ、あるいは地元の人々にとって心の拠りどころとされるのがその所以だろう。
「磐梯山」もそんな地酒のひとつである。以前、知人が磐梯山に登ったお土産にと買ってきてくれたことがあったのだが、それが大変美味しい日本酒で、今回ぜひ酒蔵を訪ねてみたいと思っていた。
磐梯山の麓、道の駅のほど近くにその磐梯酒造はあった。歴史を感じる古い白壁の建物の前に小さな販売所が設けられていて、入り口には小さな杉玉が吊るされていた。創業は明治23年。日本名水百選にも選ばれた磐梯山の伏流水を使い、できるだけ機械を使わない昔ながらの製法でお酒が作られている。
販売所に入ると甘い香りがふわりと漂ってきた。
「この香りは酒粕の香りです」
愛想のいい女将さんがお酒の説明をしながら教えてくれた。いくつもある日本酒のなかで、今回は「乗丹坊 無ろか生しずく」というものをいただくことにした。一滴一滴自然に滴る雫を集めたもので、時間がかかるからたくさんは造れないという。福島の旅から帰宅して2週間がすぎたが「乗丹坊」は、まだ飲まずにとってある。近々、ゆっくりご飯が食べられるときにいただくことにしよう。
旅の初日に訪れた仁井田本家と磐梯酒造のほか、南会津の花泉酒造と喜多方のほまれ酒造を訪ねた。花泉は今回の旅で出合ったお酒で「かすみロ万 純米吟醸 うすにごり生原酒」という銘柄はフレッシュな甘みとほのかな微発泡さが非常に美味しい一本だった。
ほまれ酒造は夏に会津若松の酒屋で勧められてとても美味しかったお酒を造っている酒蔵で、酒蔵めぐりの最後の目的地とした。とても大きな酒蔵で、酒蔵という良りは工場といったほうがしっくりくる。施設のなかに「雲嶺庵」という日本庭園があり、試飲のできる直売所が併設されていた。妻が運転してくれるというので遠慮なく試飲させていただく。糸目をつけず勧めてくれる店員さんのおかげでどれだけの銘柄を試飲したのかは覚えていない。大きな酒蔵だけれど、どのお酒も非常に繊細。それぞれ特徴があってどれも美味しい。なににしようか迷ったが、美味しいお酒にすっかり気持ちが大きくなって、迷うのはやめた。気に入った4本全ていただいてお店をあとにした。
岩とお酒の福島旅はとても充実した旅となった。本当は山も歩きたかったのだけれど天気が悪くてそれはまたの機会に。以前、東京にいるときは東北の山へよく出かけたものだが、岐阜に引っ越してからはすっかり足が遠のいていた。しかし、今回の旅でその楽しさに味をしめてしまったようだ。岩とお酒の東北旅は病みつきになりそうである。
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