雪山でライチョウをさがすということ|旬のライチョウと雷鳥写真家の小噺 #42
高橋広平
- 2024年12月09日
12月。ほとんどの山域が閉山し、登山者も少なくなる時期になった。それでも私は変わらず単身で雪山に入り、氷壁を目指すでもなくエクストリームな登山をするわけでもなく、ライチョウを探して調査、撮影を続けている。だれも知らないことを自分の手で切り開くという、ある意味エクストリームな行動にちょっとしたエクスタシーを覚えつつ、今冬もライチョウ調査に向かう所存である。
編集◉PEAKS編集部
文・写真◉高橋広平
雪山でライチョウをさがすということ
多くの山小屋が春まで冬眠をはじめたこの季節。それに伴いアプローチできる山域もごく限られたものになる。それでも冬羽の純白のライチョウに会いたい、知りたい、といろいろと調べあげ、自分なりのメソッドを構築してきた。学術研究書などにいくばくかの情報がなかったわけではないが、基本的にはだれかが教えてくれるようなことではないので独力での調査である。いまでこそ比較的コンスタントに発見できるようになったものの、当初はどの辺の山域にいるかもわからず、まず雪のない時期にライチョウがいた山域を基本に調べることにした。
特定の山域に狙いを定め、とにかく定点観測を軸に彼らの痕跡を探す。積雪期の一番ありがたいことは足跡が残ることである。現れればかならず残る。ただ、ひとたび風が吹けば自分自身のトレースすら瞬く間に消えてなくなる環境ゆえに、タイミングを逃すとすぐに痕跡はなくなってしまう。詰まるところ、昔のデカ(刑事)よろしく、足で稼ぐしかない。居そうなポイントをとにかく巡回した。次第に数は少ないものの足跡やフンを見つけ、その法則性を探り出し、彼らへと少しずつ近づいていく。
このエッセイを書いているあいだ、ラジオ代わりにアニメ『機動警察パトレイバー the Movie』をループ再生していたのだが、劇中で容疑者の足跡を追って刑事があちこち調べているところが「ああ、こんな感じ」とすごく共感している。余談だがMovie2もあり、個人的にはこちらのほうが大人になったいまではおもしろい。なんなら交互にループ再生している。
近年は12月前半くらいでは山中の雪は浅いことが多いが、今回はまだ雪深かった何年も前のシーズンの話をしようと思う。
このときは目的の山に入り歩を進めたものの、標高も2,000mを超えても積雪量は十分ではなかった。ラッセル自体は苦ではないのだが、結構な頻度でいわゆる「踏み抜き」が起きる。ある程度歩行が安定する2,400mくらいまでは我慢が続く。
経験から導き出した出会える可能性の高い観測ポイントに向かう。この山域では標高2,500m程度の場所にいることが多い。もっとも山域によってその生息標高は違うのであくまで目安である。標高を稼いだぶん、積雪もある程度ある。しかしこのときは新雪で雪質もフワフワなのだが肝心の足跡は消えてしまっていた。あとは雪の中から顔を出している状態のライチョウをなんとか探すしかない。
幸いこのころには視界が通っていて20~30mくらいの距離ならば、捕捉が可能なくらいには脳内に彼らの造形はインプットされていた。ラッセルをし、足を止め辺りをくまなく凝視する。ひたすらそれを繰り返す。
雪の中から顔を出す樹木の枝先がライチョウの造形と酷似している。これは偶然ではないだろう。それでもライチョウか枝先かを見分ける力を身につけている私の眼ならば判別がつく。ひとしきり探し回って撮影したのが今回の一枚だ。
今回の一枚は、「○○を探せ!」である。
実際に雪山のフィールドでライチョウと遭遇するパターンはほぼ2種類。遠くにいるのをロックオンして探し当てるか、ばったり出くわすかである。今回は遠方からの捕捉したパターンだったのだが、さてどこにいるかわかるだろうか?
答えはコチラ。
この大変わかりづらい被写体を、その都度地吹雪やらなにやらのなかで見つけるのが「ライチョウをさがす」ということである。フィールドはヒザ高のラッセル、風速20m、気温マイナス20℃の状況もザラである。
今週のアザーカット
みなさま、来年のカレンダーはもうお決まりでしょうか? 全国の書店さんを中心に緑書房さんから発行の「雷鳥 神の鳥の四季2025カレンダー」好評発売中でございます。ぜひ来年のお部屋のお供にいかがでしょうか?(定期連絡みたいでスミマセン。笑)
そして12月14、15日に関連イベントがふたつ開催されます。ひとつ目は、長野県松本市で開催される「MMMクリスマスマーケット2024」。市内のあちこちでイベントがあるのですが、松本市博物館での「クリスマス サンドアートオーナメントワークショップ(DAMBO)」の会場にて、ライチョウのオーナメントをつくる際の資料映像として私のライチョウ動画を放映予定です。
ふたつ目は、静岡市で開催される「南アルプスユネスコエコパーク10周年記念大会」。登壇および写真展をさせていただきます。新作、未発表の写真も展示しますのでお越しいただければうれしいです。2日間ともに終日居る予定です。両イベントともによろしくお願いいたします。
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PROFILE
PEAKS / 雷鳥写真家・ライチョウ総合作家
高橋広平
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo
1977年北海道生まれ。随一にして唯一のライチョウ専門の写真家。厳冬期を含め通年でライチョウの生態を紐解き続けている。各地での写真展開催をはじめ様々な方法を用いて保護・普及啓発を進めている。現在「長野県内全小中学校への写真集“雷鳥“贈呈計画」を推進中。 Instagram : sundays_photo