
ステンドグラスアーティスト・谷和レオさん|低山トラベラー、偏愛ハイカーに会いに行く

大内征
- 2023年05月31日
低山トラベラーの大内征さんが山好きさんと山を歩く、連載「偏愛ハイカーに会いに行く」。山の愛し方は人それぞれ、とはいうけれど。十人十色の偏愛ワールドをのぞいてみれば、これからの山の愛し方とその先の未来が見えてくる、かもね。
今回の偏愛さん
ステンドグラスアーティスト 谷和レオさん
アートスタジオ「セント. ヘヴォゴン. スタジオ」を設立し、東京を拠点に活動中。美大を卒業後、村上隆氏とアート活動をともにしたのち、PIED PIPER のファッションデザイナーを担当していたこともある。
Instagram @heavogon
ハイカーの歩む道は、山だけにあらず!
偏愛ハイカーの2人目は、ステンドグラスアーティストの谷和レオくん。連載2回目にして、いきなり「登山」からはちょっと離れた人物に会いに行ってきた。なんだよ、さっそく脱線かよ、といわれそうだけれど、じつはこれには深いワケがある。
そもそも「ハイク」という言葉を、ぼくは単にハイキングとか山歩き程度の意味ではとらえていない。もっと広くて、とても冒険的で、大きな可能性のある行為だと考えている。
あえて言葉にするなら「自然のなかを自分の意思と脚で歩き、土地をめぐって見聞を広げ、風景・風土ひいては人生を楽しむ行為」こそが、ハイクのイメージ。だから、その舞台となるのは山岳はもちろんのことだけれど、谷川や湖沼もあるし、海だってOKだ。古道や街道、樹林や湿原、ときには国道や商店街だって冒険のフィールドになり得る。人生や偏愛をテーマにハイクすることだってできる。
そんなふうに、可能性に満ちた歩き旅そのものが「ハイク」の神髄だと思っている。ゆえに「ハイカー」とは、登山者だけに限らない。言ってみれば、どこでも歩き旅を楽しめる人こそが、真のハイカーだ。
で、今回のゲスト、谷和レオくん。アウトドアショップをはじめ、さまざまな領域の店舗や企業からオーダーを受けて、一点もののステンドグラスを中心に都内で制作をしている。彼の作品には、常に自然がある。海があったり、山があったり、空があったり。おそらく、それは彼が見てきた世界なのだろう。
きっとそこで興奮したり笑ったり泣いたりした記憶があって、それを表現やデザインのヒントにしているのではないかと、ぼくは勝手に思っている。
そのセンスにずっと憧れていて、日ごろどういう関わり方で自然に触れているのか、いつか聞いてみたいと思っていた。

自然の美しさや、そのなかに身を置いているときの言葉にできない高揚感、爽快感をカタチにしたいという谷和さん。そんな思いに共感した人からオーダーが入ることが多い。
高所恐怖症だけど山が好き。泳げないけど海が好き。
大事なのは「好き」ってこと
彼への憧れの起源は、ぼくらが17歳くらいのときにさかのぼる。場所はいまから30年以上も昔の仙台で、お互い自分のカルチャーをもった高校生だった。そう、じつはそのころからの友人関係で、ぼくは彼を「谷和」と呼んでいる。彼の周囲の人たちはみな、レオ君と呼ぶけれど。
都内の自宅に併設されているガレージに入るのは久しぶりのことで、作ってる過程をインスタグラムで発信していたベランダの手作りサウナは、実際に入るとかなりの完成度だった。本当に手作りしたのかと、信じがたいほどのクオリティ。いやはや、さすがすぎるだろ。
なんでも手作りしてしまう彼の才能は、すでに高校生時代から発揮されていた。あのころはまだカスタムしたりアレンジしたりすることがメインだったと思うけれど、いまでは最初から作ってしまうのだから感心してしまう。たとえば子どもの勉強部屋だったり、寝室だったり。取材で訪れたときも、ひと部屋増えていた。趣味のサーフボードをチューニングしたり、ちょっとした家具を作ることなんてお手のもの。その最たるものが、クルマである。気がつけば古いクルマを探してきて乗り換え、内装も外装も自らの手で行なう。それを手伝う奥さんと子どもも、かなりの腕前。
そのようすはインスタグラムでも発信しているから、興味のあるランドネ読者さんにはぜひのぞいてみてほしい。アート×自然、というテーマにおいて、彼の生き方・働き方そして表現方法は、やっぱりあのころと変わらずカッコいい。

そんな谷和レオくんに自然との関係について聞いてみたところ、意外にも「山は好きだけど、高所恐怖症なんだよね。海はもっと好きだけど、泳げないのね」と返ってきた。そして「だけど好きだから、どっちも」とも。
ああ、これって、あらゆる物事に通じる核心部ではないか。なんでも作ってしまうくせに、どこか不完全なことを残しておいて、その余白をも魅力にしてしまうのが谷和レオの真骨頂なのかもしれない。
「だって〝完成〞したら、終わっちゃうじゃん!」と言って屈託のない笑顔を放つ。おなじ歳なんだけど、めちゃめちゃチャーミングなのだ。

奥さんとのデートが初登山。
今のところ登山経験は、その一度きり!
いつも愛犬と散歩をするというガレージの裏山は、多摩川からほど近い丘陵地。硬い岩盤の上には美術館が建ち、一帯が公園のようになっている。小さいけれど、緑に恵まれたいい山だ。
バイクを乗り回していた高校生のころとは打って変わり、お互いが白いヒゲをはやしたおじさんになったけれど、いまのほうが断然に肉体を駆使しているのが共通項。山に関しては、ぼくはもっぱら低山とテント泊縦走がメインで、彼はキャンプとスノーボードが中心。

裏山のトレイルを歩きながら、ところで谷和、登山ってするの? と投げかけてみた。すると「奥さんとの初デートが登山だったの。なんて山だったか覚えてないけどね」とのこと。
それ以来、ちゃんと登山をしたことはないらしい。でも、思うのだ。仕事も暮らしも遊びも自分らしく楽しく歩むその姿は、まぎれもない「人生のハイカー」そのものだと。

低山トラベラー、山旅文筆家
大内征(おおうち・せい)
歴史や文化をたどって日本各地の低山を歩き、ローカルハイクの魅力を探究。NHKラジオ深夜便、LuckyFM茨城放送に出演中。著書に『低山トラベル』など。ライフワークは熊野古道
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