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「だから、私は山へ行く」#27 若菜晃子さん

山を愛し、山とともに生きる人に迫る連載「だから、私は山へ行く」。今回は、小冊子『mürren』や山の随筆集『街と山のあいだ』など、身近な自然や旅に関する多くの作品を手がける、編集者・文筆家の若菜晃子さん。山のある人生はすばらしい──。そう思わせてくれる若菜さんのお話。

だれもが感じる山のよさを言葉にしたい

若菜晃子さんの文章を読んでいると、山に行きたくなる。山頂に吹く風の音、夕陽に照らされた森の色、山の道に降る雨の匂い……。本に綴られているふとした描写に出合うたびに、自然のなかに身を置く喜びが心に浮かんできて、無性に山が恋しくなるのだ。

「山は、年齢も性別も登山経験も関係なく、『山はいいなぁ』と思う人たちが行く場所だと思うんです。探検記やハードな山行記録も、たしかにおもしろい。けれども私は、山を愛する人ならだれもが感じるような山のよさを、言葉にしたいと思っています」

大きな木の前に立つ若菜さんは、 そう言ってにっこりと笑った。

▲小柄な若菜さんが笑うと、まわりの空気がパッと明るくなる。優しくて繊細で、ちょっと“男前”な人柄が、文章にも滲み出る

山に行くことは喜びであり、救いだった

六甲山のふもとで育った若菜さんにとって、山は小さいころから身近な存在だったという。

「母が山好きだったので、小さいころからいろいろな山に登っていました。北アルプスの燕岳で兄の帽子が斜面を転がり落ちていったこと。草花が咲く高ボッチの山頂で寝転んだこと。不思議と山のことはよく覚えているんですよ。ただ、小学校の高学年になってからは山に行くことも少なくなりましたし、将来山を仕事にするなんて考えてもいなかったです」

そんな若菜さんが本格的に山を始めたきっかけは、大学卒業後に山と溪谷社に入社したことだった。

「もともと山が好きというよりも、本づくりがしたかったんです。最初に配属されたのは図鑑の編集部でしたが、社内には山のエキスパートがたくさんいて、プライベートでも山に連れて行かれるような環境でした。登山靴と雨具を揃え、会社の倉庫から道具を借りてきては、山に行くようになりました」

▲山と溪谷社時代に訪れたスイスのモンテ・ローザ氷河での一枚。スイスは仕事で何度か訪れたが、いずれも思い出深い取材だった Photo/O.Takahashi 髙橋 修

「とてもフレンドリーでフランクな会社だったので、すごく居心地がよかったです。いまふり返れば、山と溪谷社ですごした数年間は山を好きになる気持ちを積み重ねていった時代だったと思います。人間社会とは関係ない自然で構成される山の世界には、日常とは異なる静けさや開放感がある。そんな世界と日常を行き来することが、自分にとっての喜びであり、日々の救いにもなりました」

人生にはいくつもの“知らなかった世界”が開かれている

国内外の名だたる山を歩き、山の本をつくる毎日は充実していたいっぽうで、疑問も芽生えていた。

「本来非日常であるはずの山が仕事の場でしたし『山の本だけがつくりたかったのか?』という気持ちも。そのころ、山中心の生活に抵抗するように海に潜るようにもなったのですが、海には海の、知らなかった“世界”がありました。それは、山と出合ったときに似た感覚。自分が知らないだけで、人生にはいくつもの“世界”が開かれている──。だから、できるかぎり未知の扉を開けていきたいと感じたんです。同時に、山という“世界”をまだ知らない人に向けて、山のよさを伝えたいと思うようにもなりました」

▲若菜さんが敬愛する詩人で、山についての随筆も多く残した串田孫一氏。同氏の詩との思いがけない再会をきっかけに再訪した八ヶ岳での一枚 Photo/ T.Kometani 米谷 享

そんな思いを原動力に、若菜さんは、2005年に山と溪谷社で身近な自然や旅をコンセプトとした『wandel』を立ち上げ、創刊編集長に。その後15年勤務した会社を退職。2007年からは『wandel』のコンセプトを引き継いだ小冊子『mürren』の編集、発行を続けている。

▲若菜さんが編集・発行する『mürren』

山について書くときに伝えたいこと

年2回発行の『mürren』を続ける傍ら、『東京近郊ミニハイク』や『街と山のあいだ』『岩波少年文庫のあゆみ』など、多くの仕事を手がけてきた若菜さん。彼女が綴る文章は、繊細で優しく、芯のとおった力強さがある。一つひとつの山のよさだけでなく、山のある人生のすばらしさを謳うような作品は、どのようにして生み出されているのだろう。

▲文筆家としてさまざまな媒体に寄稿。この写真は『BRUTUS』の取材時。最新の著作は『旅の彼方』(アノニマ・スタジオ) Photo/T.Kometani 米谷 享

「フリーランスとして文章を書くようになったころ、『なにをどう書けば良いのか』と悩むこともありました。そんなとき、ある作家から教えてもらったことがあります。それは、『あなたが〝書きたい〞と思っていること自体がすでに良いことなのだから、それを読者に〝見える〞ように書きなさい』ということ。私が山で体験し『いいな』と思ったことを、読み手の方に〝見える〞ように書きたい、といつも思っています」

いまも若菜さんは時間を見つけては山を歩き、地図の裏やスケッチブックに「いいな」と思う瞬間を書き留めている。

▲独立後は、山だけでなく国内外の旅の取材や執筆も多く手がけている。この写真は連載記事『徒歩旅行』で訪れた青森県弘前市で撮影 Photo/T.Abe 阿部 健

「大きな山もいいけれど、寝坊しても行けるような気楽な山によく行きます。いつ行っても人が少なくて静かで、山頂がのびのびと開けていて、半日すごして帰ってこられる小さな山に、季節を変えて何度も通うのが好きなんです。幼いころの六甲山の記憶が関係しているのかもしれないけれど、身近なところに山があるって、やっぱりすてきなことですよね」

若菜晃子さん

1968年生まれ。山と溪谷社で『wandel』編集長や『山と溪谷』副編集長を歴任し独立。2007年より小冊子『mürren』を発行。『街と山のあいだ』(アノニマ・スタジオ)など多くの著書がある

 

「だから、私は山へ行く」
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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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