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「だから、私は山へ行く」#24 ひがしちかさん

山を愛し、山とともに生きる人に迫る連載「だから、私は山へ行く」。今回は、アーティストのひがしちかさん。12年間日傘作家として活動し、昨年自身のブランド「Coci la elle(コシラエル)」 を閉業。いま、人生の過渡期に立つ彼女に聞く、山歩きのこと、八ヶ岳山麓での暮らしのこと、ものづくりのこと。

自然のなかで暮らし、学ぶ

八ヶ岳のふもとの森に、家族5人で暮らしている。広い敷地には、母屋とアトリエと夫の仕事場があり、手作りのツリーハウスやサウナ、畑がある。イヌやネコ、ヤギやニワトリたちが駆け回り、奥のほうでは滝の音が響いていた。

「水と空気がおいしくて、朝起きて散歩をするだけでとても気持ちがいいんですよね。自然はなにも語らないけれど、多くを教えてくれるもの。だから、もっと自然を見ていたいし、もっと歩きたい。そう感じるようになったのも『Coci la elle(コシラエル)』を終えようと思った理由のひとつです」

やわらかな光の射すアトリエで、ひがしちかさんは穏やかに話す。

海から街へ。街から山へ。

2010年に「Coci la elle(コシラエル)」を立ち上げたアーティストのひがしちかさん。長崎県の諫早いさはや市に生まれた彼女にとって、身近な自然といえば〝海〞だった。

「生まれ育った家は海の前の高台にあって、小さなころからずっと海が大好きでした。友だちと素潜りしたり、地元で〝ミナ〞と呼ばれている小さな貝を獲ったり……。海は、深く潜れば潜るほど水が冷たくなる。それが人間の限界を肌で感じるようで、おもしろくって」

ちかさんが、ファッションやものづくりに興味をもつようになったのは高校生のころ。
「小さな町からバスで高校に通い始めると、自分の力で本屋さんや図書館、映画館に行けるようになって、世界がぱっと広がりました。なかでもすてきだと感じたのがファッション誌。『東京には、この世界があるったい!』、『東京に行くには、どげんしたらよかとかね?』。家の屋上で海を眺めながら、そんなことを考えていましたね」

こうして上京したちかさんは紆余曲折を経て、2010年に「Coci la elle」を始めることになる。当時シングルマザーだったちかさんが始めた「Coci la elle」の傘は、日常をぱっと明るくするような色彩と唯一無二の存在感が少しずつ評判となり、やがて東京と神戸に店舗を構えるまでになった。ちかさんが山に登るようになるのも、このころだ。

「夫とは結婚前から娘と3人で遊んでいたのですが、彼は自分の誕生日に私と娘にトレッキングシューズを買ってくれるほどの山好きなんです。『自分の好きな人に登山靴を買えることが幸せ』って言うんですけど、わかりにくいよね(笑)。 そんな彼に連れられて八ヶ岳の天狗岳に登ってみるとつらいのに楽しくて。以来、天狗岳には家族で何度も登っているけれど、自分や家族の成長が見えることが大きな魅力です。去年は背負子に乗っていた子どもが、今年は自分の足で山に登っている。そんな変化がうれしいんです」

▲家族で八ヶ岳の天狗岳へ。3歳になった息子が初めて自分の足で登って下った日の記念写真

▲家族みんなが愛する黒百合ヒュッテ。最初に天狗岳に登ったときにも宿泊。「ご褒美のように感じられた」そう。山に関わる人たちの「濃すぎる個性」も山に惹かれる理由だという

八ヶ岳のふもとでの日々

ちかさんたちが八ヶ岳山麓に暮らし始めたのは、2017年。

「あまり深く考えずに移住したので、大変なことはたくさんありました。でも、山がどんと見守ってくれているこの生活が、少しずつ私を変えてくれた気がします。言葉にするのは難しいけれど、自然は『なんでもそんなにうまくはいかない』ということを教えてくれる気がするんです。庭に植物を植えても、育つものもあれば育たないものもある。人間がハンドリングできることには限界がある。だから目標に向かってTODOリストをこなすのではなく、段取りどおりにいかないおもしろさやその瞬間に出合えるものを大切にするのがいいのかなって」

SNS ではシェアできない、そんな家族の幸せがある

そんな暮らしには、〝家族だけの楽しいこと〞がたくさんある。

「うちにはサウナと滝があって、家族みんなで入ることがあるんです。このあいだ、滝に行く道に大きなクモの巣があって、サウナから出た夫が裸のまま子どものおもちゃの剣を片手にクモの巣を『エイヤっ』とかきわけながら滝に向かっていったんです。そのようすを見ながら、家族みんなでお腹を抱えて笑っていて……。馬鹿みたいだし、意味なんてないし、絶対にSNSにもアップできないけど、超楽しい。そんな時間をもてることが、とっても幸せです」

▲畑ではトウモロコシなどを作り、タマゴはフリーレンジのニワトリからいただく。広大な敷地内には廃材で作ったサウナもある。
▲サウナで温まったあとは、敷地内の滝へ。「水と空気がおいしいことがなにものにも代えがたい」とちかさんは話す

地産地消の食べもののように土地とつながる表現をしたい

山麓での日々は、もちろんちかさんの表現にも変化をもたらした。

「一本の傘はたくさんの人の力を借りてできています。大阪の生地を山梨で撥水加工して、東京の職人さんに組み上げてもらう……。それはそれでロマンティックだけれど、食べもののように地産地消のシンプルな表現をしたいと思うようになりました。だから、ヨウシュヤマゴボウの実を潰して絵の具にしたり、ニワトリの羽をペンにしたり。この土地だからできる表現を試しています。その展示を、来年あたりにしたいです。あとは詩の朗読会もやりたいし、いつかは学校もつくりたい。やりたいことがいっぱいです、欲張りなので(笑)」

弾むような口調でそう話すちかさん。〝今〞を全力で楽しみ、悩み、進む。きっと彼女の生き方そのものが、ひとつの作品なのだと思う。

 

ひがしちかさん

1981年長崎県生まれ。2010年に一点物の日傘屋「Coci la elle(コシラエル)」を立ち上げ、2022 年夏に閉業。現在は画業を軸にさまざまな活動を試みている

http://chikahigashi.com

 

「だから、私は山へ行く」
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ランドネ 編集部

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自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。

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