「だから、私は山へ行く」#28 山謳う/オオガミユミコさんとコイデユカさん
ランドネ 編集部
- 2024年08月04日
山を愛し、山とともに生きる人に迫る連載「だから、私は山へ行く」。今回は、山を歩き、文章を綴り、イラストを描き、写真を撮る……。独自の感性で、山にまつわる”よみもの“を仕立てる「山謳う」のふたり。オオガミユミコさんとコイデユカさんが、山に恋い焦がれる理由とは?
「山謳う」ふたり、山を歩く
ふたりが初めていっしょに山を歩いたのはいまから、10年ほど前丹沢山塊。のことの中央にある塔ノ岳がきっかけだった。
「ある日インスタグラムで、山のことを調べていたらタグで彼女が出てきたんです。なんとなく気になって連絡したところ、いっしょに塔ノ岳に行くことになったんですよね」(オオガミさん)
「お互い山を始めて2〜3年ぐらいの時期。『はじめまして』なのに初めて会った感じがしなくて、山では普通にはしゃいでいたような気がします。当時の私は、山を歩くことがただただ楽しくて、水を詰めた2lのペットボトル2本をバックパックに入れてトレーニング気分で登っていたような……(笑)(コイデさん) 」
「そうだったね!でも、お互いに花を見たり、写真を撮ったりしながら歩くことが好きで、波長がすっと合ったような気がしました。山のレベル的にもおなじようなものだったので自然といっしょに、山を歩くことが多くなっていきました」(オオガミさん)
こうしてふたりは月に1回ほどのペースでいっしょに山へ行くようになる。塔ノ岳、檜洞丸、八ヶ岳、燕岳……。いくつもの山行を重ねるなかで、とくに思い出深いのが、2017年の白馬岳から朝日岳への縦走だという。
「じつはその前年にコイデが前十字靭帯を断裂していて、しばらく山に行くことができなかったんです。それでも彼女は一所懸命にリハビリを続けて、やっと山を歩けるように。 『久しぶりにアルプスに行くぞ!』と向かった山行でした。2日目の朝、白馬岳から朝日岳へ向かう稜線を歩いていると、きれいな朝日が昇ってきたんですよね。ふと横を見ると、いつもは強くて前向きな彼女が泣いていたんです。その表情を見ていたら、なんだか私も涙が出てきてしまって……」(オオガミさん)
「白馬岳は、私が山を好きになるきっかけを作ってくれた山。初めて歩いたときに『こんな景色があるのかー!』と感動して山に通うようになったんです。ケガをして山に行けない時期が続いて、やっと戻ってこれた白馬岳でまたすごい景色に出合えた。 『やっと、会えたね』と思ったら、涙があふれてきて。あの旅は、忘れられない思い出です。(コイデさん)
山の“よみもの”をつくる
ふたりには、山のほかにもたくさんの共通点があった。文芸、美術、カメラ、古いもの……。どちらからともなく「山にまつわる“よみもの”をつくりたい」と思い始めたのは、2018年のことだ。
「そのころ、私のなかには『山謳う』のコンセプトがすでにあって、その話をしてみたら、コイデが『私がデザインするよ』と言ってくれて。以来、それぞれの得意なことを持ち寄りながら、ものづくりを続けています。(オオガミさん)
山に響く「小さな謳」を掬い上げ、山を愛する人に届ける……。
「山謳う」はこれまで3冊のリトルプレスを発行してきた。号によってテーマは違えど、山のふとした表情を捉えた写真や言葉、遊び心のある装幀やイラストには、ふたりの体温が閉じ込められているようで、ページをめくっていると無性に山に行きたくなる。
でもなぜふたりは、SNSやWEBではなく「本」という 形で山の”よみもの”をつくるのだろう。
「山の文芸誌『アルプ』に影響を受けているところが大きいと思います。何十年も前につくられた本が、時代を超えて私たちの手元にある。それってすごいロマンですよね。本は、燃えたりしない限りはこの世に残り続ける。20年後、30年後に山好きの方が私たちのつくった本を手にとって『昔はこんな人がいたんだな』って思ってもらえたら、心が通じ合えているようで、すてきだと思うんです。(コイデさん)
「山謳う」 が、山を歩く理由
山を歩くことは、言うまでもなく「山謳う」の創作の源泉だ。どうしてふたりは、それほどまでに山に惹かれるのだろうか。
「山は私にとって“こども心”が疼く場所。山を歩いているときは、RPGの主人公のような気分で未知の世界にふみ込んでいく……。その“冒険感”が原動力になっていると思います」(オオガミさん)
「童心に帰れることは、大きな魅力ですね。ほんとうは私、街にいるときでも道端の石を観察したり、枝を拾ったりしたいんです。でも、できないじゃないですか(笑)山はそんな自分の“こども心”を開放できる場所。あとは
『水がおいしい』『太陽って温かい!』 と純粋に思える感覚も、私が山へ行く理由です。(コイデさん)
ひとりでは心細い道のりも、ふたりならワハハと笑って行けるよねーー。そう話すふたりが紡ぐ山の謳は、きっとこれからも生み出されていく。その作品は時代を超え、いつか未来の山好きのもとに届くのだろう。
山謳う
コイデユカさんとオオガミユミコさんによる創作ユニット。山にまつわる”よみもの“のほか、ステッカーやマッチなどの制作を行なう。最新作は、『 山謳うのよみものVol.3-高見石小屋で会いましょう-』
www.yamautau.com
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ランドネ 編集部
自然と旅をキーワードに、自分らしいアウトドアの楽しみ方をお届けするメディア。登山やキャンプなど外遊びのノウハウやアイテムを紹介し、それらがもたらす魅力を提案する。
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