前代未聞のXシフター直付けフレームを作る【ホビービルダーの続・鉄バカ日記】
トモヒロ
- 2019年07月18日
強烈なコアファンに支持されていた人気連載を期間限定配信!編集部員みずからフレームビルドに挑戦し、日本初のビルダー界レース「JBT」出場を目指す!今回製作するのは、身長160cm台の日本人が乗りやすいモダンスチールツーリングバイクだ。
INDEX
前回の前三角の製作レポートに続き、今回は後ろ三角についてレポートする。ディスクブレーキに対応させるため、リアエンドはスルーアクスル仕様になるのだが、「スチールらしい」シルエットを目指すために他と違うオリジナリティある工夫を凝らしたい。
カーボンバイクっぽくチェーンステーを曲げてみた
最近のカーボンバイク、とくにグラベル系のモデルを見ていると、チェーンステーがかくんと折れて、下側にオフセットしているものがある。これは悪路走行時にチェーンが暴れる(上下に跳ねる)ことでチェーンステーが傷付くのを防ぐための工作だ。
以前製作したフレームでは、シートステーの集合部にオリジナリティを持たせることはできたものの、チェーンステーは通常のS字ベンドステーを接合しただけだった。今回はどうにかチェーンステーにもオリジナリティを出したい。
アシンメトリックなチェーンステー
というわけで、今回は「右チェーンステーだけ曲げる」という妙案を実行。フォークブレード曲げ用の冶具にチェーンステーをセットし、体重をかけてぐいっと曲げる。
曲げるとカンタンに言ってはいるものの、肉薄パイプの場合は思いのほか難しく、メインパイプなど厚さ1mm未満のものや、焼き入れされているパイプはなおさら難しい(熱間で曲げるか、専用冶具を使わないと座屈してしまう)。だが、チェーンステーやフォークブレードはメインパイプよりも厚みがあるため、冷間でも比較的曲げられるのだ。
ハンガー下がり75mmになるよう、アールを確認しながら決め打ちドン。できた右チェーンステーがこちら。細かいな調整はエンド側で行うものとし、ハンガー側をザグる。
さて、ここにきて右チェーンステーとエンドの間に問題が起こる。お気付きだろうか?
ミグ(MIG)溶接でリアエンドを改造する
通常、リアエンドはチェーンステーとシートステーがなす角度をある程度考えて作られている(角度を自由に調整できるアジャスタブルタイプもあるが)。この角度はシートチューブ長(正確にはシートチューブのどこにシートステーを接合するか)やリアセンターなどによって決まるのだが、一般的なリアエンドの場合、それぞれがストレートに接合された場合を想定していることが多い。
ところが、今回はチェーンステーを大きく曲げているので、この角度が通常よりも大きくなっているのだ。
エンドの角度をミグ溶接で広げる
そこで、今回は初めてミグ溶接にチャレンジし、エンドの角度を広げてみた。ミグ溶接は半自動溶接とも呼ばれる電気溶接の一種で、ビルダーによっては、フレームの仮付けなどで行っていることもある。
具体的な手順は、まずエンドとチェーンステーがどれくらいで接合するかを確認し、マジックで印をつける。そして、印に合わせてエンドを切り落とし、チェーンステーとの接合角度に合わせてミグ溶接する。
まっすぐ切り落としたエンドを写真のようにスライドさせ、接合する方向に延長させる。位置をよく確認したら溶接面付近をペーパーで磨いて、万力で固定して溶接する。
ティグ溶接に比べてカンタンと言われるミグ溶接だが、初めてなので仕上がりはあまりキレイにはならず……だが、しっかり溶接はできたようで、面を削って形を整えていく。
完成した改造リアエンド。元の形状に比べて右下側に板を延ばすことができた。これを曲げた右チェーンステーに合わせて、ロウ付けしていく。
エンドの接合は美しく滑らかに
スルーアクスルはエンド側の精度(ホイールをまっすぐに装着できるか)が極めて重要なので、これはトモヒロの場合だけかもしれないが、まず前三角とチェーンステーをロウ付けして、芯を確認してからシートステーを接合していく。下がチェーンステーをロウ付けした後の状態だ。
エンドまわりの造形もビルダーの個性が表れるポイントだ。特殊な形状のスルーアクスルエンドでは、ビルダーもいろいろな方法で美しいエンドまわりを生み出している。
今回のマシンでも、ステーからエンドがスムーズに繋がるラインを意識して仕上げた。詳細はフレーム完成状態の写真で改めて紹介するが(この後シートステーをロウ付けし、そこで再度仕上げるためここでは未完成状態)、とにかく初チャレンジの曲げチェーンステーはうまく接合することができた。
手曲げにハマッってシートステーも曲げる
ぶっつけ本番のチェーンステー加工が思いのほかうまく収まったので、シートステーにもこだわりたくなってきた(こうしてどんどん製作が遅れるのだが)。
一般的なシートステーは、フォークブレードよりもさらに曲げやすい。焼き入れされていないし、径が細く、丸断面だからだ。直線と曲線がスムーズに、かつ滑らかに同居するような美しいスチールならではのシルエットを!と考えて、S字ベンドさせたモノステーにしてみようと思いつく。
スレンダーステーをS字ベンドさせる
ホイールをエンドにはめた状態でタイヤクリアランスなどを確認し、目検で曲げる位置を決めていく。既成のシートステーにもS字ベンドモデルがあるのだが、かくんと折れたようなシルエットになるのがいやなので、またしてもフォークブレード曲げ冶具や適当な径の金物を探してきて、手曲げでぐいっと曲げていく。左右の曲げをそろえるのがけっこうむずかしい。
曲げたチェーンステーを上側でロウ付けして繋ぎ、さらにパイプをロウ付けしてモノステーにする。今回使用したチェーンステーは、いつも使っているタンゲ・スレンダーだ。エンド側が9mm径(一般的には11mmや12.5mm径が多い)になっている細いチェーンステーで、このシルエットもスチールらしさに貢献してくれるはず。
ラグデザイン調のモノステーに
モノステーの付け根部分はアールがきついのでトーチで炙りながら曲げる。その後切り込みを入れてパイプを押し込み、さらに万力で押し広げてラグのようにシートチューブに被さるデザインに。このパイプは強度をもたせるためにシートステーよりも肉厚があるものを採用した。
3本のパイプをロウ付けして、モノステー型のシートステーが完成。ガス抜き穴はここで開けておく。
ステーが前三角とリアエンドにしっかりはまるようチェックしたら、ロウ付け。シートチューブが突き出たままだが、この後シートクランプをロウ付けし、リーマーで内径を整えてからカット、仕上げていく。
おそらく世界唯一(?)のXシフター直付け工作
そして、本題はここからだ。
ツーリングバイクの快適性を求めるうえで、電動コンポは誰しもがイメージするものだろう。だが、一般的に電動コンポは高い。現実的な経済性も考慮したバイクに仕上げなければいけないとトモヒロは考える。そこで強い味方となるのが、このXシフターだ。
Xシフターは手元の無線スイッチで操作し、チェーンステーに取り付けたユニットでシフトワイヤーをコントロールするという画期的パーツ。段数やワイヤーの引き量なども細かく設定できるので、理論上、ほとんどの機械式リアディレイラーを電動化できるスグレモノだ。
Xシフターは便利だけどダサい?
ところが、ひとつ決定的なデメリットがある。正直、見た目がイマイチなのだ……。
以前、バイシクルクラブの誌面でも紹介したこのXシフターは、じつは結束バンドで取り付けるという仕組み。幅広いフレーム形状に対応可能……というのはいいが、正直、美学も追求するハンドメイドバイクにはいただけない。そこで、いっそ直付け仕様にしてしまえ!と考えたわけだ。
まずはテープでXシフターを仮止めし、どの位置にマウントすべきかを検証。すると、この曲げチェーンステーの形状によって、Xシフターがステー内側に隠れるようにマウントできることがわかった。ホイールを装着してもスポークなどに干渉しない、いい位置が見つかった。通常は付属マウントと結束バンドで固定するが、付属マウントを使用せずにダイレクトでネジ固定できる台座を作る。
ちなみに、チェーンステーに装着することがマストなのか?という疑問があるが、現実的な答えはそのとおり。ユニット自体は、台座さえあればシートステーでキャリアでも、ダウンチューブでも取り付けることはできる。しかし、ユニットからワイヤーで引っ張るというシステム上、ディレイラーからユニットまでの距離は短ければ短いほどいい(そのほうがワイヤーのロスによる影響が少ない)。
ホームセンターパワーで台座を自作する
必要なクリアランスやネジ径を調べ、ホームセンターで材料を買ってきた。もちろんXシフター台座用なんてものはないので、既成品の組み合わせだ。ボトルケージ台座(M5)が使えればよかったのだが、今回必要なのはM4だったので、受けのナット用につめ付きナットを使う。
ネジの取り付け位置を確認し、金板で固定して冶具にする。これを元にチェーンステー側に穴を開け、つめ付きナットをロウ付け。さらに余分なところを削り落として台座にするという魂胆だ。
できた台座にXシフターを装着してみると、おお、スマートに収まった!
スペーサーを挟むことでフレームに対してまっすぐ装着でき、かつホイールとのクリアランスも問題なし。さらに、バッテリーを下側から外しやすいようにマウントしたことで、オリジナルの付属マウントに比べても利便性が増した。これで機械式コンポを美しく電動化することができるようになった。
自分から言わないと誰も気づいてくれない(言ったところで理解してもらえない)ような工作ばかりだったが、どうにかフレームとして成り立ちそうな気配がしてきた。次回はいよいよ完成へ。そして、すでに発表されているレース結果の裏側もレポートしていく。
ジャパンバイクテクニークについてはコチラから。
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