松浦まみのエタップ紀行「旅するエタップ、ツール・ド・フランス」第2回
Bicycle Club編集部
- 2019年09月06日
2回目となる今回は、エタップの本番です
ついにエタップがスタート!
エタップ当日の朝。
午前5時起床、午前6時にはアルベールヴィル到着。
まずはゴール地点に運んでもらう荷物を預けに。
なにしろ1万数千人がごった返すので移動も容易ではありません。
なんとか集合ポイントまでやってくると、何を間違ったか私たちのウェイブ3は
「もう締め切りましたよ!」との宣告。
…マジか。
係の人に食い下がるも「ダメダメ。今からだとこのウェイブ5で出発だ、一番後ろまで行って!」と取り合わない。
状況を察して表情が曇る広里さんと久保田さん。
「大丈夫!ウェイブ3も5も大して変わらないですよ、それにウエーブの最後尾についた方が気持ちが楽!」
との監督の一言で気を取り直し、誰も後ろにいないリラックス感の中でスタートを切りました。
しかし、やはり体調が悪いらしい。上り坂に入るとすぐに遅れ始める私。肺炎の後遺症なのか、すぐに息が苦しくなる。
監督が隣にやってきて私の背中を押します。
「そんなに踏まない」
…去年も聞いた台詞。学習してないってことか。
「一定ペースで綺麗に回すことだけを考えて」「そんなに力入れないって何度も言ってるでしょ」
…教え甲斐がなくてすみませんね。
それにしても、休みなくずっと押し続けてくれています。
追い抜いていく人たちが一様に親指を立てながら、「素敵な光景だ!」「がんばれ!」「これぞ愛だね!」「ジェントルマンとは君のことだな」などと言葉をかけていきます。中には「1kmごとに5ユーロもらったらどうだい?」なんてジョークを飛ばしていく人も。監督が「サンキュー!来年は”10ユーロ/1kmで押します”と背中に貼って走るよ!」と返すと周囲に笑いが起こる。
去年もそうだったけど、監督の周りにはいつも楽しげな空気がさざ波のように広がります。
延々と押され続けること1時間。10kmも休みなく私をアシストし続けて、さすがの監督も息遣いが荒くなってきました。私は意識が朦朧、話しかけられても舌がもつれて声が出ない状態。
監督がそんな私の様子を見て告げます。「残念だけど、この辺でリタイヤだね。これ以上続けてもこの先にはリスクしかない」
大会スタッフが駐留している場所で停まり、リタイヤを告げる。
「大丈夫ですか?どこか怪我は?」一通り質問をすると、スタッフが無線に向かって私のゼッケン番号を読み上げる。
監督は自分のサンドイッチとウインドブレーカーを私に渡し、久保田さんと広里さんと共に出発していきます。
回収車での旅
1時間くらい待ってようやく回収車(快適な大型観光バス)にピックアップされます。
ションボリした気持ちのまま、車窓越しに美しいロズラン湖の景色を眺めていました。
はるか向こうの斜面には、呻吟しながら上っていく無数の選手達の姿が見えます。
すぐ目の前には、回収車に追われてるわりには焦る様子は皆無で、誰もいないコースを独占してのんびり楽しそうに走っているライダー達の姿が。
ビリにはビリの特権があるんだなあ、そしてこんな光景は回収車からしか眺められないなあと、少しずつ愉快な気持ちが湧いてきました。
しかし、下りは狭くてエグい角度のつづら折りが続きます。
こんなところ、どうやってあんな大勢のライダーが一斉に降りたのだろうと考えていたら。
地面に赤いチョークで×マークがされている箇所が現れ、回収車が停まります。
スタッフが降りて無線で確認を取りながら周りを見渡し、少し奥まった樹の幹にロープでくくりつけられている自転車を見つけると回収を始めました。
これは事故車で、所有者は救急車で運ばれたとのこと。しばらくするとまた赤いバツ印が地面に。
一体、何台の事故車を回収したことか。これもリタイヤしなければ決して見ることのなかった光景。
今回のエタップは昨年に比べて危険な箇所が多く、特に完走後にゴールから自走で下ってくるライダー達は落車続出、なかなか凄まじい光景でした。
さて回収バスはいつの間にか続々と台数が増えていて、リタイヤ組だけでなく足切りにあったライダーをどんどん拾っていきます。
しまいには乗れない人がバスの外に溢れ返り、なんで乗れないんだと気色ばむ場面も。
途中で久保田さんが乗り込んできました。「いやーきつかった!いやーこれは無理!途中で熱中症になって本当にヤバかったです」
この日は猛暑で、炎天下で立ってるだけでも体力を消耗。
ゴールのヴァル・トランスへ至る最後の峠は延々と30kmの上りでさらなる地獄。
しかし車内に一日中閉じ込められているのもかなりの苦痛で、主催側もこんなに時間がかかるとは想定外だったのか、ドライバーが調達してきた二本のペットボトルの水を全員で分け合う始末。サハラ砂漠か。
午前10時に回収され、10時間後の午後8時に解放された時にはぐったり。
こんなことならリタイヤした場所から自走で引き返せば良かったのか?
でもゴールに荷物を預けてるし…この辺の対策・判断も含めて次回への課題とせねば。
広里さんと監督は無事完走したとの連絡があり、それぞれ下山に向かう。
私たちTeam Bravo全員がようやく落ち合えたのは、久保田さんと私の乗った下山バスがアルベールヴィルに到着した23時過ぎ。
静まり返った街で一つだけ明かりを灯していたケバブ屋にサイクリスト達が群がり、美味しそうにケバブサンドにかぶりついてたので、私達も混ざってお腹を満たしてから一路宿へ。
その夜の私は、疲れているのに殆ど眠れませんでした。
というわけで、今年の私のエタップはこんな風にあっけなっく終了。
せめて峠ひとつ超えたかったですが、準備不足のライダーにはリスクが多すぎました。
早々に棄権することになったのは天の意思かもしれません。これもまた経験を積んだということで。
本当はチームメイト全員で一緒にゴールを切り、ツールの選手達みたいに全員でハグし合あうのが私の今回の目標でしたが、これも次回へのお楽しみとします。
気の合う仲間がいることの心強さ。また一緒に挑戦できますように。
それにしても、今年はコースが難化した上に制限時間が去年よりも短縮され、主催側は完走率を下げようとしたのではと推測。
誰もが完走できるイベントより、何度もチャンレンジしたくなるイベントの方が人は惹きつけられるもの。
困難に挑戦するからこそ、その後の成功体験が幸福をもたらすのですから。
私は殆ど走れなかったけれど、それでもこの目で見てきたあのコースを数日後にツール・ド・フランスのプロトンが駆け抜けると思うと、やはり心が踊ります。
この高揚感を、一人でも多くの皆さまに味わって頂きたいと思うのでした。
明日は、ツール・ド・フランスの観戦に向かいます!
松浦まみ
宮澤崇史マネージャー&TEAM BRAVO協働仕事人
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