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カウンター文化【革命を起こしたいと君は言う……】

カウンター好き

カウンターで食事をするのが好きだ。鮨など和食や酒場など、一人でも数名でも大きな仕事の山が終われば足を運ぶ(3人程度が限界だが)。

メニューは鮨屋の場合は、ほとんどの場合がおまかせでお願いしている。私は食通でもなく、うまいかまずいかしかわからない。「おまかせ」というと、好みや予算など心配もあるかもしれないが、首を傾けながらのれんを後にしたことは一度もない。

店にもよるが、さまざまなネタが並びどの食材をどのように料理して届けてくれるのか?と職人の手つきや包丁さばきを見ているだけで満足してしまう。できれば寡黙なほうがいい。多弁な職人はどうも苦手だ。

カウンターでしっかりとした食事をとるのは日本人だけなのをご存知だろうか。むろんバーのようなスタイルは各国数多くあるが、しっかりとした食事では、まずカウンターを利用しない。

朝とれたての一流の食材から、客の顔を見て食材を選び、目の前で料理をして食事を出す。客は老若男女、さまざまだ。

そして、客と大将との緊張感という人間模様がある。まあ、そんなことを楽しめるようになったのも歳を重ねてからのことではある。

工房の食材置き場

私の工房はビルの一階にあるが、ビルを建てると構造上地下に空間ができる。われわれのビルの場合30畳くらいの空間ができたので、それを利用し地下室を作った。

これは鉄筋コンクリートのビルであればどのビルも同じで物理的に空間ができる。この部屋を利用して部材置場とした。地下なので冬は暖かく夏は涼しい快適な環境だ。スチールパイプは生物ではないので温度管理はあまり関係ないかもしれないが。

鉄フレーム作りをよくご存知の人は、1階の工房を見て「おや、材料はどこへ?」と疑問がわくようだ。そんな場合は「じつは地下があるんですよ」となり、見ていただく流れとなる。

材料置場は舞台裏で、率先してお見せするような場所でないと思っていたが、どうやらそうでもないようだ。見て感動を隠せない反応をする人も少なくない。

私がオーダーメイドのプロセスや必要性を雄弁に語ったところで、いまいちピンと来てない様子であっても、地下の材料ストックを見た瞬間すべてがつながるようだ。「ここから自分のフレームが生み出される」と。以来、時間のある人には率先して見ていただくようにしている。

「百間は一見にしかず」。私の下手な説明よりも見てもらうのが何よりだ。そうか!

多くを語るよりもカウンターに座って食材を見てもらえばそれでいいのだ。

工房の地下室に設けられた材料置き場。国内外のパイプや今では手に入らないヴィンテージパイプ、各種部材などがストックされている

最高の材料を最高の炎で

地下室には世界中から集められ厳選されたパイプが並ぶ。材質、形状、肉厚、すべてが異なる。なかには惜しまれつつ製造が終了したヴィンテージパイプなども多くある。そしてすべては検品によって分類され整然と並ぶ。

また、ラグやエンドなども国内外問わずストックされている。われわれのオリジナルパーツもここに並ぶ。

また、それらを接合するロウ材や溶剤なども多くの種類があり、それらを溶かす炎にまで種類がある。部材により最適なロウ材を選び熱源を変化させる必要があるからだ。こんな多数の熱源を使い分ける工房はそうはないと自負している。

私は図面を引く前にこの部屋にも入りインスピレーションを膨らますことが多い。図面が完成すれば、ここから部材は工房に運ばれ、さらにチェックされ、腕利きの職人たちにより調理が始まる。

メーカー、型番、年式、肉厚、各仕様などで分類されたパイプたち。わかりやすく整理することで仕事の精度も上がっていく

整理整頓

工房は整理整頓を最重要事項としている。材料置場もしっかり整頓されている。パーツやパイプは肉厚、材質ごとに陳列される。数が少なくなればすぐわかり、速やかに発注できる。

工房では職人の身なりも問題があれば指導する。鮨屋も清潔が要だ。フレーム職人も同じで、職人の身なりが清潔でなければお話にならない。

清潔はていねいにつながる。ていねいは仕事の基本であり、その人間の生き方そのものにもつながる。人の誠実さがていねいという概念を生む。

ラグやクラウン、さらにアウター受けなどの小物類。ユーザーの要望に答える各部材が並ぶ。数が少なくなれば速やかに発注

作り手からユーザーへ

カウンターでの鮨屋もオーダーフレームも変わりない。ショップに来たユーザーの声を、作り手が直接聞き問題をすくい上げ、われわれの持つ最高の素材と腕で客に振る舞う。

おまかせでお願いしますと言われるケースも非常に多くなってきた。そんなときは期待に応えるべくわれわれも熱が入る。以前は、パイプや材料を指定してくるライダーも多かったが、現在では剛性を左右する肝の部分は、ほとんどがおまかせとなった。

そしてユーザーに同じ料理は二度と出さない。フレーム作りで、毎回新しいアイデアが出ますが、ネタ切れしないんですか、などと聞かれることがよくある。しかし私のなかではネタ切れはありえない。なぜなら、新たなアイデアが必要となる問題は常にユーザー側にあるからだ。

優れた料理人の場合、同じ味を求められて、同じもてなしをしたところで同じ満足度は得られないことを知っている。ネタの状態や季節、そして客の状態によって味は変化するからだ。フレーム作りもしかり。「同じ物を」と頼まれ同じフレームを作るのは、まだまだ修行が足りない……。カウンター文化のある国のオーダーフレーム。共通点を見い出しながらいただく鮨も悪くない。

溶接に使用するロウ材。パイプの性能を最大限に引き出すためロウ材を使い分ける。乾燥剤を入れ保管し、ベストな状態を保つ

Cherubim Master Builder
今野真一

東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)

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Bicycle Club編集部

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ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。

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