スペシャルメイド【革命を起こしたいと君は言う……】
Bicycle Club編集部
- 2020年05月02日
いま作っている特別な一台
通常のフレーム製作とは別に年に20台程度は特殊なフレームや実験的な要素を含む自転車を製作している。
競輪フレームからショーモデルやリカンベントまで製作する工房は世界中探してもそうないだろう。わが工房の個性で最大の強みでもある。現在進行形のスペシャルフレームのひとつを紹介しよう。
世界でも有名な台湾の自転車コレクター、アサヒ・チャン氏から「ミスターコンノの考える究極の一台が欲しい」とのご依頼。
さらに「その自転車を米国ハンドメイドショーに出展してほしい。あとはすべてお任せ!」というのが当初のオーダーだった。
しかしミーティングが進むにつれ強い希望があることが判明。クラシカルなディスクロードでワイヤーをランドナーのように上まわしにして、ラグに金メッキを施したいとのこと。
それは難なくクリアできるが、スペシャルな一台をとなると悩む。どこにスペシャル感を持ってくるかが問題だ。
なぜならケルビムのフレームはすべてがユーザーにとってのスペシャルと自負しているからだ。あらためて「究極の」と依頼されると少々困る場合もある。十分にヒアリングをし、いつも考えている私のアイデアや技を投入する流れとなる。
今回はスペシャルなラグをわれわれの工房で一から製作するという縛りにし、角度や仕様などを氏のために製作することをスペシャルと位置づけた。
まずはヘッドチューブを規格のサイズに削り出しで製作、それらにクロモリパイプの角度を合わせてTIG付けしてさらに成形していく。文章にすると簡単な話に聞こえるが、この作業だけで3日間は必要とする。
とくに削り込み作業は困難で、最適なデザイン、フォルムを追求し考えながらの作業は、彫刻家の仕事のようだ。
メッキラグ
ラグを製作するときは、完璧に立体的なフォルムを再現したいという思いが強い。これは競技用の自転車も同じだ。応力の集中を防ぐためにフレームごとにラインは異なる。時間やコストの都合で調整するが、本当に硬いフレームを希望された際にはロウ材を盛り成形している。
さらに今回は金メッキのラグなので美しさにもこだわりたい。私もメッキラグは好みだ。しかしロウが盛られたメッキラグを見ると少々残念な気持ちになる。ロウ材とラグのラインがうっすらと見え美しさという点ではマイナスだ(強度面では問題ない)。
TIG溶接が確立されていなかった時代、かのルネ・エルスも「鉄付け」という方法で対応し、メッキをしないラグはロウ付けで製作されていることを発見したときは感動した。さすがパリの宝石だ。
スペシャルパーツ
パーツ類も検討の末、カンパニョーロ・アテナに徹底的に手を加え彫刻し金メッキすることにした。その彫刻には私の手書きのサインをすべてのパーツに施す。
日本的なサインがご希望で色々と考えたが「カタカナ」でのサインをデザインした。日本的となると漢字となりがちだが、あえてカタカナにした。
漢字はご存知中国からの流れが主であるが「カタカナ」は日本でデザインされたものだ。
今回、新型ウイルスの影響で米国ハンドメイドショーの開催が危ぶまれての製作だった。ショーは延期となったが、目の前のフレームと無心で向き合い、いま作れる最高のスペシャルメイドが完成したと自負している。
Cherubim Master Builder
今野真一
東京・町田にある工房「今野製作所」のマスタービルダー。ハンドメイドの人気ブランド「ケルビム」を率いるカリスマ。北米ハンドメイド自転車ショーなどで数々のグランプリを獲得。人気を不動のものにしている
今野製作所(CHERUBIM)
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PROFILE
Bicycle Club編集部
ロードバイクからMTB、Eバイク、レースやツーリング、ヴィンテージまで楽しむ自転車専門メディア。ビギナーからベテランまで納得のサイクルライフをお届けします。
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